異世界移住団体御一行様

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クロスディスターJADE

第一話 剣士




 というわけで、ナータと一緒にウォスゲートが開くらしい場所まで行くことになったよ。


「ちょうど飛行テストをしたかったのよね」


 裏庭でナータが自分で新しく組み立てた機械を装着してる。

 ただし、身に着けるのは空を飛ぶために必要な足の部分だけだ。


 膝まで覆う白い機械のブーツ。

 その左右には複雑な模様が描かれている。

 機動させると「ぶおん!」って音がして、水が流れるように模様の部分が青白く光った。


「かっこいい! 私も履きたい!」

「あんたは自分で飛べるでしょ」

「それ光ってるのはおしゃれ?」

「SHINEの内蔵化がうまく行かなかったのよ。弱点が丸見えで強度も弱くなるから良くないんだけど、試作型だからしょうがないってあきらめてるわ」


 完成版もその仕様でお願いします。


 それとは別にナータは小型の銃をベルトに挟んだ。

 小さいけど閃熱フラルみたいな熱線を放つ強力なピストルだ。


「オッケーよ。もう行けるわ」

「大丈夫だと思うけど、危ないと思ったら逃げてね」


 ヴォルさんも一緒だし大丈夫だと思うけど、いちおう凶悪な犯罪者がいるらしいからね。

 あと確かヘブンリワルトのテロリストもいるんだっけ。

 なんでヴォルさんはそんな人たちの手を借りようなんて思ったんだろう。


「先導するからついてきて」

「はーい」


 ブーツから光を放ちながらナータはぎゅーんと上昇していく。

 はやっ、予想してたよりずっと速くてびっくり。

 私は急いでナータの後を追いかけた。




   ※


 ウォスゲートが開く場所は館からだいぶ遠かった。

 もう三十分くらいは飛び続けてる。


「けっこう速く飛んでるけど大丈夫なの?」

「映像資料でDリングってあったでしょ。あんな感じで輝攻戦士みたいに薄いバリアを張ってるのよ。攻撃に対する防御力はそんなにないんだけどね」


 へー。

 ……あっ。


 明らかに変わった気配を感じた。

 これはウォスゲートが開きそうな感覚だ。


 少しして、岩陰に多くのエヴィルが集まってるところを見つけた。

 私たちはそのすぐ近くに降り立つ。


「こんにちは」

「あっ、魔王様!?」


 話のできるビシャスワルト人ひとがいた。

 青白い肌で角と翼がある部族のひとたちだ。

 岩っぽい体のひとや大きなトカゲみたいなひともいる。


「ここでなにをやってるんですか?」

「うちらの部族の居住地がこのすぐ近くなんですが、『深淵の大穴』が開く気配を感じたんで、様子を見に来たんです」

「深淵の大穴?」

「別の世界に繋がる道です。ほら、前の魔王様が異界侵攻のために繋ごうとしていた」


 ああ、ウォスゲートのことね。

 ここのひとたちにはそういう名前で呼ばれてるんだ。


「もしかして、それを通ってミドワルトに行こうとか考えてます?」

「とんでもない! 異世界への不干渉のお触れは辺境にも届いてますし、我々の土地に脅威がないかを調査しに来ただけです!」

「よかった。じゃあ後は私たちに任せてください。たぶん怖い人が出てくるので」

「わ、わかりました! よろしくお願いします魔王様!」


 見かけによらず丁寧なひとたちで安心。

 魔王さまって呼ばれるのはちょっとまだ慣れないけどね。


「それから、たぶん大きな争いにはならないと思うけど、念のため居住地のひとたちには遠くに避難するように言っておいてもらっていいですか? 無事に終わったら知らせますから」

「はい、ありがとうございます! お会いできて光栄でした!」


 青白いひとは丁寧にお辞儀をすると、他のひとやエヴィルたちを連れて去っていった。

 たぶんあのひとも部族の代表だし、ミドワルトなら『ケイオス』って呼ばれて、一般の輝士じゃかなわないくらい強いビシャスワルト人のはずなんだよね。

 そんなひとが私なんかの言うことを素直に聞いてくれるんだから、やっぱり代表としての責任ってあるんだなって思った。


 さて。


「ここであってるんだよね?」

「ベラお姉さまの情報通りの座標よ」


 私の流読みでもここの空間が周りと違うことはわかる。

 とはいえ、ぱっと見は特に何か変わっているわけでもない。

 しばらく黙って待っていると、


「あ」


 明らかに目の前の景色が歪み始めた。

 歪みはすぐに大きくなり、だんだんと中心部の色が濃くなっていく。

 さらに注目しながら待っていると、ぴしり、とガラスが割れるような音が響いた。

 ウォスゲートが開こうとしている。


「気を付けてね、ルーちゃん」


 ナータが手持ちの銃を構えて開きかけのウォスゲートに向ける。

 いきなり凶悪な犯罪者さんが出てくる可能性もあるはずだ。


「おっけー」


 私も軽く周りに六五五三七匹の閃熱白蝶弾ビアンファルハを展開して、


「ちょっと待ってそれあたしにも当たる。危ないから二つか三つでいいわよ」

「はい」


 怒られたので三つだけ残して消したよ。


 さらに待つこと数分。

 開いたウォスゲートの向こうから人が……


「あ、抜けました。ここがビシャスワルトですか」

「えっ?」

「えっ?」


 どっかで見たことある人が出てきた。

 それはヴォルさんじゃなくて、


「フレス!?」

「あ、ルーチェさん! 迎えに来てくれたんですか!」

「いや、迎えにっていうか、ヴォルさんが来るって聞いてたんだけど……」

「ヴォルモーント様ならジェイドさんと一緒に村の人たちを運んでくれています。多分もうすぐ着くと思いますよ」


 フレスは私の以前の旅の仲間のひとり。

 偶然から輝術師の素質を手に入れたジュストくんの幼馴染だ。

 少し前に再開した時は派手な金髪になってたけど、今はまた純朴な亜麻色のおとなしそうな格好に戻ってる。


「皇帝さま暗殺未遂の犯人がクイント国の村に立て籠ったって聞いたけど、もしかしてフレスたちの村に潜んでたの?」

「あ、その暗殺未遂犯ってたぶん私です」

「そうなの!? なんで!?」

「ビッツさんへの義理と言いますか。でも失敗したし皇帝陛下は殺してないですよ」


 私の知らないところでいったい何があったの……?

 混乱する私の横でナータがフレスに話しかける。


「あんた、たしか以前に会ったことあるわよね」

「? ごめんなさい、どちら様でしたっけ」

「覚えてないならいいわ。で、あんたはルーちゃんの敵なの?」

「違います。むしろともだち……いえ、一番の大親友ですよ」

「待って。ルーちゃんの一番の大親友はあたしだから」

「いえ、私ですが」

「あたしだって言ってんでしょ」

「ちょっとナータも変なことでケンカ始めないで!」


 よくわからない状況になっていると、さっきより少しだけ大きく開いたウォスゲートからぞくぞくと人が出てきた。


「オーライ、オーライ。あ、こっちは外に出たわ」

「おお、ここがエヴィルの世界か……」

「すごい! 空が綺麗!」


 こちらに背中を向けて最初に現れたのはヴォルさん。

 彼女は巨大な板を両手に支えていて、その上に何人もの人が乗っている。


「ヴォルさん」

「あ、ルーちゃんおひさし~! 待ちきれなくって来ちゃった」

「おひさし。あとでお説教ね」

「なんで!?」


 なんでじゃないよね。


 ヴォルさんが運んでいる板に乗っているのはたぶんフレスの村に住んでた人たち。

 みんな以前に訪れたときに見たことがある人達ばっかりだ。


「ほんと、なんでこんなことに……」

「命があっただけ良いじゃないか。向こうの人が私らを受け入れてくれることを祈ろう」


 あ、スティとネーヴェさんもいる。

 ソフィちゃんもどこかに紛れてるのかな。


 そして巨大な板を反対側で支えてた人物。

 なんとも不思議な感じの女の子が最後に現れた。


「うわ、ここがビシャスワルトってとこか。マジで魔界って感じだなあ」


 後ろでツインに束ねた薄い緑色の髪はもこもこしてて体と同じくらいの量がありそう。

 同じく三段階の緑で構成された衣装はフリフリのきらきらのかわいいドレス。

 なんとなくのイメージだけど休日の朝に小さい女の子の声援を受けながら戦うヒロインって感じ。


「あ、あいつ前に紅武凰国で見たことあるわ」

「あれがジェイドって人かな?」


 とんでもないテロリストだって聞いてたけど、めちゃくちゃかわいい感じの子でびっくり。

 その子はヴォルさんとタイミングを合わせて板を地面に降ろすと、胸元を仰ぎながらこっちに視線を向けてきた。


「そこのピンク髪の子、この世界の人?」

「そうだよ」

「悪いんだけどさ、魔王って奴にこれを渡しておいてくれね?」


 そう言って彼女が肩にかけていたポシェットから取り出したのは四角い箱。

 はい、嫌な予感は的中しましたね。

 ま た か。


「あなたがジェイドさんってひと?」

「おう」

「いちおう私、あなたのこと捕まえるように紅武凰国の人たちから頼まれてるんだけど」

「そりゃ無理だ。悪いけどオレもお使いを頼まれただけだし、用は済んだからすぐ帰るぜ」


 なんか見た目のわりに男の子みたいな喋り方する子だね。

 ……さすがにこの格好と姿で実は男の子ってことはないよね?


「そんじゃな」


 もこもこちゃんは手首に巻いた腕時計みたいなものを操作すると、しゅん! と一瞬にして姿を消してしまった。


 流読みで探っても明らかに近くに気配はない。

 間もなくウォスゲートも完全に閉じてしまった。


「逃げられちゃったのかな?」

「そうみたいね」


 ひまわりさんには悪いけどあれはどうしようもないよね。

 頑張ったけどダメでしたって言っておこう。


 さて。


 後に残ったのはフレスとヴォルさんと二十数名の村の人たち。

 そしてジェイドってひとから渡された……たぶん次の映像資料。


「ちょっと遠いけど、とりあえずみんなでうちに来ますか?」

「はい♪」


 フレスはにこにこ笑顔で私の提案にうなずいた。

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