よく考えてから行動します

from

ドラゴンチャイルドLEN

最終話 カタストロフ




 お久しぶりのルーちゃんですよ!


 ようやく長い長ーい映像資料ビデオも見終わりました。

 なので今日はちょっと体を動かすためビシャスワルトの様子でも見てまわろうかなって思います。


「ルーちゃん」

「なに?」


 とか思って玄関で靴を履こうとしていたら、ナータに呼び止められた。


「ベラお姉さまから通話よ」

「お姉ちゃんから?」


 前にヴォルさんと話してから今日まで約一か月くらい経ってる。

 お姉ちゃんの方から声をかけて来るってことは、あれから何かあったのかな?


「そういえばさ、気になったことがあるんだけど」

「何?」


 ナータと一緒に部屋に向かいながら気になっていたことを尋ねてみた。


「ビデオの中でビシャスワルトこの世界ヘブンリワルト地球じゃ時間の流れが違うみたいなこと言ってたじゃない? あれって今もそうなの?」

「えっと、今は次元間直通回線を敷くために小さな次元の穴を開けてるから、時間の流れも同期してるはずよ」

「? つまりどういうこと?」

「異なる世界が何らかの部分で繋がってる時は、その両世界の時間の流れは一緒になるの。通話してる最中にどっちかの時間の進みが早かったら困るでしょ」

「……なるほど」


 そういうことね。

 完全に理解したよ。

 よくわからないけど。


「ただ最近まで時間のズレが大きかったのは確かで、昨日見たビデオに出てきたビシャスワルトは今あたしたちが過ごしてる時代から千年以上も前のはずよ。その当時はミドワルトはまだ作られてもいなくて逆にヘブンリワルト視点で見ればあの出来事はたった数十年のことみたいね」

「なんでそんなにズレがあるの?」

「詳しくは知らないわ。あの後もいろいろあったんじゃないの」


 いろいろあったのか。

 すごく嫌な予感がするね。




   ※


 ナータの部屋に入ると通話はすでに繋がっていた。

 通話機の画面にはベラお姉ちゃんが映ってる。


「お姉ちゃん、おひさし!」

『ああ』


 ……あれ?

 なんだかお姉ちゃん、怒ってる?


「どうしたの?」

『いや、何から話すべきかと思ってな』


 ヴォルさんもだったけど、やっぱりいろいろ大変なんだね。

 お姉ちゃんはマジメだからあんまり気苦労してなきゃいいけど。


『管理局のアオイさんから話は聞いた』

「あ、そのこと」


 前に通話したとき私はヴォルさんからとんでもない話を聞いた。

 それはヘブンリワルトに行ったヴォルさん、ベラお姉ちゃん、ナコさんの三人は命を助けてもらう代わりに頭に爆弾みたいな装置を仕掛けられたってこと。


 なんか機密保持とかいろいろ理由があるみたいだけど……そんなの許せないよね?

 だから私はひまわりさんとお話して、その危険な装置を取り除いてもらう約束をしてもらったよ。

 ひまわりさんは意外と話のわかるひとだったし、大好きなお姉ちゃんのためだから、お礼なんていいんだよ!


『とりあえず、こんなことは今回限りにしてもらいたい』

「えっ」


 え、もしかしてそのことで怒ってるの!?

 なんで!?


『お前が私たちのためを思って言ってくれたことはわかってる。だが、そのように武力をちらつかせた脅迫のような行為はあまりに相手に対して不誠実だ』

「え、だって、爆弾だよ!? 取ってもらわなきゃころされちゃうかもしれないのに!」

『それはミドワルトに戻る条件として提示されたから合意の上で約束をしたんだ。少なくとも私は不満には思ってはいなかった』

「っていうか私は別に武力をちらつかせたりしてない!」

『お前にその気はなくても相手はそう取るんだよ。頼むから自分の立場を自覚してくれ。今のお前は魔王で、神にも等しい存在なんだぞ』


 魔王って言ったって別に悪いことしてないし、神様になったおぼえもない!

 なんで怒られなきゃいけないのかさっぱりわからないよ!


「ねえナータはどう思う!?」

「ルーちゃんが悪いわ」

「なんで!?」


 え、もしかして私の方が空気読めてない!?

 二人に言われたらそんな気がしてきた!


「もしよければなにがダメだったのか教えてもらえますか!」

『えっとな……』


 お姉ちゃんは言葉を選びながらひとつずつ説明してくれる。


『まず、アオイさんたちはお前とは絶対に争いたくないってことはわかるか?』

「平和が一番だからね。戦争になるのは私も嫌だよ」

『そうじゃない。具体的に言うなら、お前がその気になればヘブンリワルトそのものを消滅させることだって簡単なはずだ。紅武凰国があらゆる兵器を持ち出しても敵わないだろう』

「私がそんなことするわけないよ!」

『もちろんそんなことを考えていないのはわかっている。だがな、相手にとってはというだけでも脅威なんだ。万が一にも機嫌を損ねたら終わりだと思えば、多少の無茶だろうと言うことを聞くしかなくなる』


 私が何かを強くお願いするのはそれだけで脅迫になるってこと?

 戦争をする気なんてなくっても?


『そして仮に敵対するとなったら、彼女たちは自分の世界を守るために手段を選ばない。今のお前はほとんど神々と遜色ないほどの力を持ってるかもしれないが、それでも万能ってわけじゃない。例えば決して出ることのできない時空の牢獄に閉じ込められたら? ナータが迎えに行かなければお前は今も遠く離れた宇宙空間をさまよっていたことを忘れるな』


 うっ。

 それは、ちょっと想像するだけでも怖いかも。

 前のビデオの最期でマナとかいう天使が似たような目に合ってたし。


「私のことを心配してくれてるの?」

『それもあるが、ミドワルトの人間としても絶対にヘブンリワルトと争うような状況にはなって欲しくないんだ。私たちが我慢するだけで平穏が保たれるならそれでよかったんだよ』


 あっちの機械技術とかすごかったもんね。


 もし、なんかの理由があって私がなにもできなくなったとする。

 その後でミドワルトとヘブンリワルトが戦争をするようなことになったら?

 きっと私たちの故郷は大変なことになってしまう。


 私の軽率な行動が原因でまた戦争になったりしたら、それはとても悲しいこと。

 うん、理解したよ。


『形式的な立場ではあるが、お前は魔王というビシャスワルトの代表なんだ。他国の人間に対して感情的に要求をするんじゃなく、まずは話し合って意見のすり合わせをすることを覚えて欲しい』

「うう、ごめんなさい……」

『……とはいえ、お前が私たちの身を案じてくれていた気持ちは素直に嬉しく思うぞ。ありがとう』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る