知らない間に神様になってました
from
ドラゴンチャイルドLEN
第二十話 ライオット
trrrr……
ナータの部屋のベッドで寝てたら、なんだかやかましい音に起こされたよ。
顔を上げて辺りを見るけどナータはいない。
お出かけ中かな?
とりあえず起きて音の出所を探す。
あれだ、他の世界と繋がった通話機。
「はいもしもし」
『その声はルーちゃんね!?』
受話器を取るなり大声で名前を呼ばれる。
ナータ以外で私を「ルーちゃん」って呼ぶ人と言えば、
「あ、ヴォルさん? おひさし~」
『おひさし! あー、ルーちゃんの声を聴くと癒されるわ~!』
「どうしたの?」
少し遅れて相手側の映像が表示される。
彼女はシュタール帝国
燃えるような赤い髪の女性、ミドワルト最強の輝攻戦士、ヴォルモーントさんだ。
『それがね聞いてよ! 聞いてくれる? 聞いて!』
「はいはい。るうちゃんがなんでも聞きますよ」
なんかよくわからないけどヴォルさんはすごくイライラしてる様子。
かわいい。
『アタシさ、いま世界の調停者をやってるじゃん?』
「そんなこと言ってたね」
ヴォルさん、ベラお姉ちゃん、それからナコさんが勤めているチュニー病みたいな名前の役割。
ミドワルトがまた荒れたり、万が一にも他の世界にちょっかいかけたりしないよう監視するのが仕事なんだって。
「そういえばヴォルさんもJOYを持ってるんだよね。今度見せて!」
『いくらでも見せてあげるわよ。それよりもう限界なの! どいつもこいつも自分勝手でワガママで好き勝手ばっか言いやがってさ! もうシュタール帝国ぜんぶまとめてぶっ潰してやろうかと思ってるのよ!』
「おっけー落ち着いてヴォルさん。自分の国を壊すのはダメ、絶対。いい?」
『もちろん冗談だけど、そんくらいむかつくのよ、もー!』
具体的にどんな仕事してるのか知らないけど、いろんな人の意見を聞いて取りまとめたりするのって、ヴォルさんはあんまり得意じゃなさそうだもんね。
「いまそっちはどうなってるの?」
『基本的にはミドワルト中を挙げて復興に向かってるんだけど、いろんな所で問題が起きてるわ。特にうちの国なんだけど』
そしてヴォルさんはさらっと今のミドワルトの状況を語ってくれた。
※
あの戦いは当初『第二次魔動乱』って呼ばれてたけど、今は『異界戦争』で落ち着いてるらしい。
特に被害が大きかったミドワルト西側の国は全力で復興の真っ最中。
比較的余力のある東側の国がそれを支援している。
その東側でも唯一輝鋼石を保持したまま終戦を迎えたシュタール帝国は発言力を増す一方。
隙あらば他の国に対していろんな権利を主張して輪を乱そうとしているらしい。
それに対抗してか、西側の新代エインシャント神国やマール海洋王国はミドワルトの外に資源を求める方針を取り始めている。
両国ともに多くの艦船を作って北や南に向かっての大規模な外洋計画を練って、グレイロード先生が残した記録を頼りに結界を越え、既知のミドワルト範囲を超えた外の土地へと進出しようという計画を進めている。
すると今度はシュタール帝国が東の深淵の森に目を向けて陸路で東国を目指す計画を立てて……
といった感じで、にわかに国家同士の拡大競争へ突入している。
ヴォルさんはその調整に追われてイライラしてるみたい。
『今すぐ戦争になりそうって雰囲気ではないんだけど、エヴィルがいなくなったら速攻で人間同士が争い始めるとか、ほんとやってらんないわ』
「大変なんですね」
『ベラちゃんは上手くやってるみたいだけどね。穏健路線のファーゼブル王国がうらやましいわ。ま、あっちはあっちで内部のゴタゴタが酷いみたいだけど』
ベラお姉ちゃんはそういう仕事もそつなくこなせそう。
紅武凰国との取り次ぎもやってるみたいだけど、頑張って欲しいね。
『あ、それからね』
「何?」
『ルーちゃん、なんか神様になってるわよ』
「どういうこと!?」
私は人間だし、ここにいますよ!?
『マール海洋王国から発生した新しい宗教なんだけど、ルーちゃんを世界を救った新しい神様として祀る教団が急激に勢力を伸ばしてるんだって。既存の宗教勢力の力を削ぐ目的もあるみたいで王国も積極的に支援してるらしいわ。新代エインシャント神国でも受け入れられ始めてるわよ』
「そ、そうなんだ……」
神様ってそんないい加減なものなの?
私に祈られても何もしてあげられませんよ。
あ、でも街づくりに協力してくれるって人がいるなら、何人か来てくれると助かるかな。
『そんな感じであっちもこっちも面倒ごとばっかりでね……正直アタシもそっちに行きたいわ』
「来ればいいのに。ヴォルさんならいつでも歓迎するよ」
『行きたくても無理なの。調停者の役目をバックレたら契約違反で殺されちゃうのよ』
は?
「なんで? 誰に? どういうこと?」
『紅武凰国のアオイとかいう女。JOYのインプラント? とかをしてもらった代償でさ、今後ずっとあいつらの監視下になきゃダメなのよ。どうやら頭に何か埋め込まれてるみたいで、言うこと聞かないと爆発するんだって。まあ、治療を受けなかったらあの時点で死んでたから文句も言えないんだけど』
それは、それは……
うん、わかった。
「ごめん、一回切るね。ちょっと待ってて」
『え? ちょ……』
私はヴォルさんとの通話を終了して、通話回線を別の所に繋いだ。
※
六回くらいのコールの後、通話が繋がった。
『はい、管理局のアオイよ』
「あ、ひまわりさん?」
『……本名で呼ばないでくれないかしら。美紗子なら今日はオフよ』
「ううん。今日はひまわりさんに用があるの」
みさっちさんが出たら取りついてもらおうと思ったけど、ちょうどよかった。
「ヴォルさんたちの頭に爆弾みたいなの仕掛けてるって本当?」
『……』
「本当?」
『ええ』
なるほどなるほど。
「それって酷いよね?」
『倫理的にあまり良いとは言えないわね』
「外してあげてほしいな」
『わかったわ』
うん、断られるってことはわかってたよ。
でもそれならこっちにも考えが……え?
「え、いいの?」
『あの時とは状況が変わったからね。今度、三人をこちらに連れてきて頂戴』
意外と話がわかる人だった!
ひまわりさん怖い人のイメージあったけど、いい人だったんだね。
『ただ、これは
戦争とかに使われたら嫌だもんね。
それくらいは私もわかるよ。
「ヴォルさんたちにも伝えておくよ!」
『話はそれだけかしら?』
「うん、頼みごとを聞いてくれてありがとう!」
『なら忙しいからもう切るわよ。やり取りの詳細は改めて美紗子に伝えさせるわ』
「ありがとうね!」
ぶつっ、と音が鳴って通話が切れた。
やっぱりなんでも話してみるもんなんだね。
それじゃ、はやくヴォルさんたちに教えてあげよう!
※
……
この程度の妥協は仕方ないとはいえ、不愉快ね。
残りの天使の始末に役立つかとも思ったけど、幼い倫理観で好き放題されちゃたまらないわ。
何よりあの子は過去の映像資料を見て間違いなく私たちに対して不信感を抱いている。
新九郎は彼女に接触して、星野空人も屁理屈をこねて堂々と約束を破った。
「やはり、早いうちに対策を取るべきかしらね」
ヘルサードと同じ『外側の力』を得て、今や神話に語られる破壊の神と同等以上なった女。
けど、強いだけなら縛りようはいくらでもあるのよ。
紅武凰国を舐めないことね、魔王ルーチェ。
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ドラゴンチャイルドLEN
第二十一話 ソルジャー
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