次元間直通回線

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デビルエンジェルAYA

第15話 戦十乙女




 三巻を見終わるころには、すっかり夜中になっていた。

 とりあえず真っ先に思った感想としては、


「この話の主人公(笑)って誰だっけ?」

「空人くんだよ!」


 プリママが即座に突っ込んでくる。

 そのソラトさんってひと一秒も出てこなかったんですけど。

 友だちの方はちょっとだけ出てたけど、あの人が最後に出たのっていつだろう。


「どう見てもみさっちさんが主役だよね」

「ヒロインも取られてたしね」

「ぐぬぬ……」


 あとさ、二巻の最後の話でも思ったけど。


「あのヘルサードとかいう奴、ひどいね!」


 前の魔王さんは絶対的に正しかったよ。

 見ただけで強制的に恋させるとかヤバすぎ。

 そりゃあんなのと会ったって言ったら心配されるわ。

 ナータを助けてくれた恩はあるけど、絶対に二度と関わりたくない。


「っていうか何なのよあれ。ミサイアたちみんな企業の掌の上で踊らされてるようなもんじゃない」

「本当そうだよ! 学生同士で争ってる場合じゃなく、みんなで悪い大人たちを倒すべきだと思う!」


 街は大人たちのせいで大変なことになっちゃってるし。

 ほとんどの人たちが一番の悪い奴に気づいてないっていうのも酷い。


「それはもうちょっと後になるね。あの後はしばらく無駄な混乱が続いたよ」


 当事者のひとりであるらしいプリママがどこか冷めたような表情でため息をついた。


「っていうか、見ただけで無理やり恋させられるとか本当にある? 映像で見るかぎり喋り方から何までキモイだけなんだけど」

「私もあいつと宇宙で会った時はただ気持ち悪い人だとしか思わなかった」

「それはたぶん、魔王化した状態のルーチェは意識が肉体から解き放たれ、すでに世界中に遍在している状態だったからだろうね」


 カーディがよくわからない説明する。


「最初に会ったころのナコのことをを覚えてるか?」

「そりゃもちろん」


 ナコさんはダイのお姉さんのこと。

 東国出身の超一流の剣士で、心優しいエキゾチック美少女。


 ……ただし、最初にあった頃はちょっと違った。


「あいつの場合は病に脳を冒されて狂った。どんなに心優しい人間でも肉体に縛られた生物である以上はココをやられたらどうにもならない。性格も気性も人格もすべては脳が司っている」


 人を殺すことを快感に思い、凶刃を振るうことを止められなかったナコさん。

 彼女はその手で多くの人を惨殺して、正気に戻った今も罪の重さに苦しめられている。


 そっか、あれと似たような感じなのか……

 次に見かけたらやっつけておいた方がいいかな。


 こんこん。

 誰かがドアをノックしたよ。


「あの、失礼します。魔王様はいらっしゃいますか?」

「……あ、私か。はーい」


 館の使用人さんだ。

 私に用があるみたい。


「テストの時間になったので、次元通信機をお持ちしたのですが……」

「次元通信機?」


 何の話でしょう。




   ※


 プロジェクターをどかしたテーブルの上にそれはどでんと置かれる。

 映水機の薄いようなものと風話機がくっついたような機械だ。


「テレビ電話か」

「なんなのスーちゃん、これ?」

「見ての通り、遠くの人間と画面越しに向かい合って通話する機械だ」


 見たままなんだね。

 でも、ここには輝流エネルギーもそれを繋ぐ線もないよ。


「動力は輝流エネルギーじゃないわね。コードを繋がなくても内蔵電源で動かせるみたいよ」


 機械をじろじろ見ながらナータが言った。

 なんでそんなことわかるんだろう。


「それで、これをどうすればいいんですか? 私なにも聞いてないんですけど」

「先代様より今晩作動テストをするから機械をお持ちするよう仰せつかっていたのですが、すでにお休みになれているようなので、とりあえず魔王様にお伺いしようかと」


 あの人もう寝てるのか。

 自分で言ったことを忘れてるのかな。

 テストって言っても何をどうすれば……ん?


「どしたの?」

「いや、なんか変な感じがこの中から――」


 りりりりりりりり!


「わっ、びっくりした!」


 急に機械が大きな音で鳴ったよ。

 小さい鈴を連続で鳴らしたようなやかましい音。


「通話がかかってきてるみたいね」

「ど、どうすればいいの?」

「そのボタンを押せばいいと思うわよ」


 えっと、これかな。

 ぽちっと。


 ぷつっ。


 小さな音がして、さっきの変な感じが強くなる。

 これたぶん、弱いけれどウォスゲートが開いた時の感覚だ。


『もしもし。聞こえていますでしょうか、魔王ソラト殿』

「え、ベラお姉ちゃん!?」

『……その声はルーチェか?』


 間違いなくベラお姉ちゃんの声だよ!

 なんでお姉ちゃんが魔王さんと通話を?


「まさか不倫!?」

『待て、何か酷い勘違いをしていないか』

「ちょっとベレッツァちゃん。どういうことなの……?」

『プリマヴェーラ様!? 誤解です! ぜんぜん違います!』


 機械の画面部分が明るくなり、映像が次第に鮮明になっていく。

 画面の中のベラお姉ちゃんが必死に手を振ってる。

 かわいい。


『私は紅武凰国のミサコ殿から世界の調停者に任命されました。恒久的な平和安定の一環として、三界の代表者同士の直通回線ホットラインを引くことになったのです』

「ほっとらいん……ってんなに?」

「相互無理解による誤断を防ぐため国家のトップ同士を繋ぐ専用回線のことよ」


 ナータが説明をしてくれる。

 国の偉い人用の風話機ってことでいいのかな。


『とはいえミドワルトは一枚岩ではなく、各国首脳にこのテレビ電話を配布するのは技術漏洩の観点からも許容できないそうです。先日ようやく五大国平和連盟が発足し、私、ヴォルモーント、ナコの三人がオブザーバーとして異界との調停役を執り行うことになりました』


 ほうほう。

 よくわからないけどお姉ちゃんはすごいってことだね。


『終戦会議の時に先代魔王ソラト殿と話をつけてあったのですが……聞いていませんか?』

「私はなにも聞いてないよ」

「そういえばそんな話をしてたような気がするね」


 終戦会議って私が宇宙をさまよってた時の事だ。

 プリママは参加してたけど忘れてたみたい。


『なのでこの回線は国家元首同士ではなく、五大国連盟異界対策委員の私、それから紅武凰国管理局員のミサコ殿に繋がるようになっています。ビシャスワルトで次元間に関わる問題が発生した場合はすぐに連絡していただけると助かります』

「つまりこれを使えばいつでもお姉ちゃんと話せるんだね! ちょくちょく連絡するね!」

『いや、可能な限り私的な通信は控えてもらいたいのだが……』




   ※


 街づくりもやらなきゃだけど、ビシャスワルトをちゃんとした国にするなら、いろんなことを決めなきゃダメみたい。

 それぞれ専門的な仕事を担当するなんとか大臣とかなんとか省? とかを決めたり設立したり……


「ま、そういうのは後にして、とりあえず映像の続きを見よう!」


 私にはカーディやナータみたいな頭いい子がいてくれるし。

 何を考えるにもまずはいろんなことを知ることから始めなきゃね。


「前巻で物語は大きな転換期を迎えた」


 カーディが次の四巻をプロジェクターにセットする。


「調和の乱れた街。大人たちの思惑も知らず、枷の外れた若者たちは手探りで闇の中を駆け抜ける。平穏の中に留まることは許されない。たとえ、その途上で大きな犠牲を払うとしても――」




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デビルエンジェルAYA

第16話 打倒、豪龍組

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