まちづくり計画
from
デビルエンジェルAYA
第10話 要人護衛
二巻もこれで終了。
画面が真っ暗のまま動かなくなった。
「きゅーけー!」
私は遮光カーテンを引いた。
窓の外はだいぶ薄暗くなっている。
「っていうかさ、いつの間にかミサイアが主役みたくなってない?」
「それ私も思った」
あの主人公の男の子って影薄いよね。
能力は持ってるけどあんまり強くないし。
「あ、あの頃のソラトくんは、まだ雌伏の時だから……」
プリママが必死でフォローする。
まあ、その辺は続きを見てみなきゃわからないかな。
私はあのハナコちゃんって子がかわいいのにカッコよくて好き。
「座りっぱなしも疲れるね。今度は少し長めに休憩を取ろうか」
「賛成」
カーディの提案通り、三巻の上映は一時間ほど後にすることしました。
※
「よっと」
窓から屋敷を出た私は、ふわりと屋根の上に着地する。
マーブル模様の空が夕暮れに近い色に染まる。
もうすぐ夜が訪れる時間だ。
正面を見ると、オレンジ色の光が伐採された木々の山を照らしていた。
この魔王の館は深い森に囲まれた場所に建てられてる。
高所にあるわけでもなく、人目を避けるかのようにひっそりと佇む館。
深淵の森は部族はもちろん、獣たちも住まない、ビシャスワルト辺境の土地だった。
ところが、いまはそんな森を切り開いて一本の道を作っている。
道の先に続くのは地平線まで続く広く平坦な土地だ。
「よっ」
「あ、カーディ」
私の隣にカーディが降り立った。
「工事は順調みたいだね」
「うん。来週にはもう街の建設を始めるって」
今、その辺りに近くに新しい街を作る予定になっている。
四代目魔王の名の下に造られるビシャスワルトの新しい首都だ。
今までみたいに各部族がバラバラに暮らすだけじゃない。
それぞれの部族が交流を持つための中心都市を作るという構想。
私が考えてるビシャスワルトの学校も、将来的にはその街で開校する予定だ。
「前にも言ったけど、性急すぎる変化を求めるんじゃないぞ。急ぐと必ずどこかで躓く」
「うん。でも頑張るって決めたから」
せっかく魔王を継いだんだ。
ただ偉そうにしてるだけじゃ意味がない。
みんなに協力もしてもらって、私はビシャスワルトを変えていきたいと思う。
もう二度と誰かの過ちによって悲しい戦争が繰り返されないためにも。
「そうだ、カーディにお願いしたいことがあったんだけどさ」
「何?」
「学校を開いたらさ、カーディも先生をやってもらおうと思ってるんだけど。どうかな?」
カーディは目をぱちくりさせて自分を指さした。
かわいい。
「学校の先生? わたしが?」
「うん。いろんなこと知ってるし、カーディならみんなからも尊敬されてると思うからさ。もちろん授業だけじゃなくて、色んなことを手伝ってほしい」
学校を作ろうとして気づいたことがあります。
私、ビシャスワルトのひとたちにものを教えられるほど頭良くない!
カーディがさっき言ったみたいに、急にいろいろ変えて、部族のひとたちの反感を買うのも怖い。
何が問題点なのかをきっちり調査して、一緒に世界を良く変えていけたらいいなって思うんだよ。
「四代目魔王直々の命令じゃ仕方ないね。忙しいけど考えておいてあげるよ」
とか何とかいいつつ満更でもなさそうな黒衣の妖将ちゃん。
これからも魔王の片腕として期待してるからね。
「さっそくだけど、最初に造る街の規模はどれくらいにした方がいいと思う?」
「そこからかよ。まあ、あまり大きくし過ぎてひとが集まり過ぎても困るからな」
まだ安定していないうちにたくさんの部族を集めて戦争でも始まっちゃたら悲しいよね。
元から土地が隣り合っていたりとか部族同士でも仲悪いところも多いみたいだし。
そんな感じで今後のことをいろいろと喋ってたら日が暮れてきた。
誰かが夕食を作ってるらしく美味しそうなカレーの匂いがしてくる。
「しまった、お菓子を食べ過ぎた……」
「食前に軽く運動でもするか?」
ナイス提案。
さすが魔王の片腕。
「それじゃあ、久しぶりにカーディに稽古つけてもらっちゃおうかな」
「今さら稽古もなにもないけどね。あ、魔王モードと桃色蝶はナシね」
わかってるって。
というわけで、夕食までの腹ごなし。
私とカーディは近くの空で輝術バトルをやってきます。
※
「天変地異でも起きたかと思ったわ!」
「あはは……」
魔王の館に戻ると、ナータに開口一番そんなことを言われた。
カーディとの勝負が楽しくてつい、やりすぎちゃいました。
でも、山が二つほど吹き飛んだのと半径五十キロほど荒野になった程度だし。
「ほとんどの地形破壊はこいつがやったんだけどな。わたしはあくまで接近戦が主体だし」
「ちょっと黒衣の妖将、ルーちゃんにケガさせてないでしょうね?」
「十回くらい粉微塵にしてやったけど?」
「あー、はいはい。この話おしまい! 映画の続きを見よう!」
復活を繰り返していい感じでお腹も減ったし。
予定の休憩終了時間より三十分ほど遅れちゃったけど。
蔵書室に戻るとカレーの入った大きなお鍋とお櫃が置いてあった。
「わあ美味しそう。プリママが作ったの?」
「ううん、館の給仕さん」
人数分のお皿を並べてカレーをよそう。
みんなでいただきますして晩ごはん。
「ソラトさんも呼ばなくていいのかな」
「昔の映像を見たくないんだって。部屋でひとりで食べてるよ」
なら仕方ないか。
ちょっと可哀相だけど。
※
全員がカレーを食べ終わって一息ついたら、カーディが次の巻を用意する。
「さて、次は十一話からだ」
プリママが淹れてくれた紅茶を全員に配る。
外はすっかり日が落ち、輝光灯を消すとそれだけで暗い。
いちおう遮光カーテンを引いて、しっかりと真っ暗にしておいた。
「この辺りからそろそろ不穏な空気が漂ってくる。あまり気持ちのよくない展開が続くかもしれないから覚悟はしておくんだぞ。さて、次の回はとある人物の過去話から――」
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デビルエンジェルAYA
第11話 パパと大きな翼
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