休憩タイム

from

デビルエンジェルAYA

第5話 恋歌う女帝




 ぷつっ。


 短く音が鳴って、画面が暗くなったまま動かなくなった。


「あれ、これでおしまい?」

「一巻あたり五話入りだからな。続きが見たいならディスクを入れ替えろ」


 カーディがそう言うので、私は手元のスイッチで輝光灯をつけた。

 暗かった部屋が明るくなる。


「ちょうどいいし、ちょっと休憩するか?」

「そうしよっか」


 お菓子もなくなっちゃったしね。




   ※


「んんーっ」


 ナータが腕を上げて伸びをする。


「ジッと見てるってのも疲れるわね。これ、あとどんくらいあるの?」

「全五巻二十五話だから、ちょうど五分の一が終わった所だな」

「まだそんなにあんのか……」


 そういえばナータは映画とか苦手なタイプだったっけ。

 私は割と面白いと夢中になって見ちゃうんだけど。


「はぁ、やっぱり空人君はカッコいいなあ……」


 反対の隣ではプリママがうっとりしてる。

 そういえばあの主人公の男の子は前の魔王さんだった。

 あんまりカッコいいっていうような活躍はしてなかったと思うけど。


「でも、今のソラトさんと全然イメージ違うよね」

「空人君はこれからカッコよくなるんだよ!」


 いかにも普通の男の子って感じで、あれがどうやったら魔王になるのか想像つかない。

 あ、それを言ったらちょっと前まで普通に学生やってた私もだけど。


「ちなみに私もちょっとだけ出てたの気づいた?」

「え? どこで?」


 ピンク髪の人なんてどこにもいなかったけど。


「んふふー。わからなかったかなー? あの頃はまだ黒髪だったしねー」

「もしかして赤坂さんって人が昔のプリママ?」

「やめて。あんな女と一緒にしないで」


 プリママの目がスッと冷たくなる。

 なにこれ超怖い。


「お母様はあの人のことがお嫌いなのですか?」

「嫌いっていうか、今のまま過去に戻れるなら、真っ先に殺しておきたいと思う程度?」

「ええ……」


 ニコニコしながら怖いことを言うプリママ。

 なんか知らないけど唐突に聖少女様の闇を見たよ。


 変わった人だとは思うけど、嫌な人には思えなかったけどなあ。

 最後の女帝さんとの戦いのシーンとかすごいカッコよかったし。


「あの麻布美紗子って人がミサイアなのよね?」


 ショックを受けている私の隣、ナータがスーちゃんに尋ねている。


「まあ、一応そうなるのかな」

「一応って何よ」

「続きを見てればわかるさ」


 この映像の時代は私が以前にスーちゃんに見せてもらった過去記録よりもずっと昔らしい。

 微妙に知ってる人も出てきたけど、今のところは私たちの世界とどう繋がっているのかよくわからない。


 魔王さんが悪の根源みたいに言ってたヘルサードってやつも登場したけど、今の所は単に街の偉い人って程度って感じだったし。


「私ちょっと今のうちにお手洗いに行ってきます」

「あ、待ってルーちゃん。あたしも行くわ」




   ※


「学校かあ……なんかもう、懐かしいよね」

「そうね。もうずっと前のことみたいな気がするわ」


 用を済ませた後、私はナータと魔王の館の廊下を歩きながらそんな話をした。

 映像の中で学校に通う人たちの姿を見てたら、なんとなく自分たちに重ねてしまった。


「今さら言っても仕方ないけど、できればみんなでちゃんと南フィリア学園を卒業したかったな」


 ジュストくんを追って街を飛び出したのが一年半くらい前。

 あのまま普通に何事もなければ、今がそろそろ卒業のシーズンだ。

 三分の二くらいは寝てただけとはいえ、時の流れはあっと言う今だなあ。


「ジルたちとは長いこと会ってないんだっけ?」

「前にフィリア市に帰って来た時にちょっと喋ったくらいだね」


 ナータに宇宙まで迎えに来てもらった後は、王都エテルノにちょっとだけ寄ってすぐにこっちに帰って来たので、フィリア市の友達とは会っていない。

 元気にやってるのは知ってるけど、なんか思い出したら会いたくなっちゃった。


「ゲートは閉じたけど逸脱者ステージ1以上の人間なら次元は越えられるんでしょ? 暇になったらみんなで会いに行けばいいわよ」

「そうだね。ターニャのことも心配だし……」


 私がいない間にフィリア市で起こった事件。

 友だちのターニャはエヴィルに唆され、邪悪な計画に加担してしまった。

 事件はベラお姉ちゃんやナータたちの活躍で解決したけれど、エヴィルの力を無理に宿したターニャは取り返しのつかないダメージを負ってしまった。

 その悲惨な姿は今も私の目に焼き付いている。


「あ、そっか。ルーちゃんにはまだ話してなかったっけ」

「何が?」

「ターニャのやつ回復したみたいよ。ジルが言ってた」

「うそ!?」


 え、なんで、いつの間に!?

 ああでもよかった、治ってたんだね!


「そうだったんだ、ジルさんも喜んでるよね。早く教えてくれればよかったのに」

「それはどうかしら。あいつ、体は戻ったけど性格は歪んだままみたいだし。エテルノを覇帝獣ヒューガーが襲撃した事件のどさくさで姿を消しちゃったらしいわ」


 それでも元気でいてくれるなら嬉しいよ。

 生きてさえいればいくらでも話し合えるもんね。


「こっちは比較的落ち着いてるけど、ミドワルトはこれからが大変よね」

「敵をやっつければ終わる問題ばっかりじゃないからね」


 復興とか、治安の回復とか、たくさん失われた輝鋼石の代わりのエネルギー問題とか……

 魔動乱の後も国家間格差の拡大とか隔絶街の発生とかいろいろ問題あったみたいだし。


 そういえば詳しく聞いてないけど、ビッツさんがかなり盛大にやらかしちゃったらしいね。

 やっぱり多くの人が悲しむ戦争なんてどんな理由があってもやっちゃだめなんだよ。


「私たちも何か手伝えることがあると良いけどね」

「今はビシャスワルトからはあまり手出ししない方がいいんと思うわよ」




   ※


 まあ、今の私たちにできることはそれほど多くないってことで。

 とりあえずは映画鑑賞の続きです。


「それじゃ六話目から再生するぞ」


 カーディが次のSCD記録媒体をプロジェクターに挿入する。

 部屋を真っ暗にして、持ってきたお菓子をテーブルに広げて……っと。


「まだしばらくは平穏な時間が続く。視点があっちこっちに飛ぶけど、後々で重要になる人物も登場し始める頃だ。第二巻は一風変わった学園生活にも慣れたとある秋の夜から――」




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デビルエンジェルAYA

第6話 風薫る秋の夜に

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