閃炎輝術師ルーチェ 追補編

すこみ

閃炎輝術師ルーチェ 閑話 - episode4.5-

蔵書室の上映会

from

閃炎輝術師ルーチェ - Flame Shiner Luce -

最終話 星空の約束




「ヘルサードに会っただと!?」


 前の魔王さん……ソラトさんに宇宙であったことを話したら、予想以上に驚かれた。


「は、はい」

「大丈夫だったのか!? 体は……いや、頭は何ともないか!?」

「どういう意味? 別に何ともないですけど」

「やつのことをどう思った。正直に肩って聞かせてくれ」

「えっと、気持ち悪い人だなって。顔は別に普通でしたけど、言動がちょっとアレすぎて」

「ヘルサードを見て無事だったのか……!」


 え、なにそれ。

 あの人、そんなやばいひとだったの?

 顔を見ただけで無事かどうか心配されるくらいって。


「それが神至者ステージ3の特性なのか? やつの精神的惑乱に耐えるとは……しかし、奴が本気を出せばどうなるかはわからんな……」


 腕を組んでなんだかぶつぶつとつぶやき始めたソラトさん。


 ちなみにここはビシャスワルトの魔王の館。

 こんど正式に私が魔王の座を継ぐということで、その話し合いの最中です。


 あの人の話をした途端、そんなのどこかへ飛んでっちゃったみたいだけど。


「ヒカリ……いや、ルーチェ」

「はい」

「次にやつを見たら迷わず殺せ。手加減は一切するな。やつは世界の敵だ」


 世界の敵って。


 あ、もしかしてソラトさんが紅武凰国に戦争を仕掛けようとしてたのって、あの人が原因だったりするのかな?


「ところで話は変わるが」


 ソラトさんはコホンと咳払いをしてから、口の横に手を当て、心持ち小声で言った。


「蟠りが残っているのは重々承知しているが、そろそろお父さんと読んでくれると嬉しいのだが」

「それはもうちょっと経ってからで」


 さすがに急にはそんなふうに思えないよ。

 だってソラトさん、ずっと私たちの敵だったし。


 ところで育ての親である英雄王アルジェンティオさんの方だけど、ビシャスワルトに戻る前に王都エテルノに立ち寄ったら、ジャンピング土下座で謝罪を受けてしまいました。


 いろいろ無責任な人だったとはいえ、あっちは一応育てのお父さんだし。

 反省もしてるみたいだから許してあげることにしました。

 もうあんまり会うことはないと思うけどね。


「ヘルサードって人と過去に何かあったんですか?」

「それは……いや、止めよう。娘に自分の過去を話すのは気まずいし、何よりまた軍を率いてミドワルトを通りつつ紅武凰国に攻め込みたくなってしまう」

「それは絶対許さないですからね。そんなことしたらまたやっつけますよ」

「どうしてもやつのことを知りたいのなら蔵書室へ行くがよい」


 うーん。

 どうしても知りたいってわけじゃないけど……

 即位式まで特にやることもないし、暇つぶしにちょっと調べに行ってこようかな?




   ※


 蔵書室にやってくると、そこには先客がいた。


「ナータ。何呼んでるの?」


 中央にある机の上に古い本を積んでペラペラとページをめくっている大親友。

 薄暗い部屋だからか、眼鏡をかけているのが美人度アップ。


「アイザック=ニュートンって人の伝記よ。ヘブンリワルトに昔あったイギリスって国の自然哲学者で、古典力学の体系化や万有引力の法則の発見、微積分法の発見、光のスペクトル分析とか、数学や物理学や天文学の分野でも大きな功績を残した偉い人で……」

「さようなら。またあとでね」


 なんか難しそうな話をし始めた逃げることにしたよ。

 そしたら思いっきり服のすそを掴まれた!


「待ちなさい。あんたも暇ならちょっとは勉強したら? 知識を得るのは楽しいわよ」

「私はナータみたく頭良くないから……」


 学校でもないのに勉強するのはご遠慮したいです!


「そういうこいつナータだって、知識欲に目覚めたのは暇になってから三十年以上経ってからだからな」

「あらスーちゃん」


 ナータと一緒にいたんだ。

 最近この二人、すごく仲が良いんだよね。


 なんかスーちゃんのコピー(?)がナータと長い間一緒にいたらしく、オリジナルのスーちゃんもその記憶を受け継いでるんだとかなんとか。


「というか、別の調べものをしに来たんだよ」

「何が知りたいの?」

「ヘルサードって人と、ソラトさんの過去についてのことなんだけど」

「それならいい資料があるぞ。あいつの過去を映した映像データがあるはずだ」

「それって前にスーちゃんが私に見せてくれた脳内映像みたいなやつ?」

「いや、ちゃんとした映像資料だ。特殊な方法で過去の映像を切り張りして作ったビデオなんだけど……ええと、保管場所はあいつに聞くと良い」


 スーちゃんが指をさしたのは本棚の上。

 なんとそこには横になって眠っている金髪の子がいた。


「カーディ!?」


 あんなところで何やってんの?

 とりあえず私は宙に浮かんで彼女に近づいてみた。


「カーディ、起きて。なんでこんなところで寝てるのよ」

「ん~?」


 目を覚ました黒衣の妖将は不機嫌そうに唸り、瞼をこすりながら顔を上げる。

 かわいい。


「落ち着くんだよ、ここ。埃と黴のにおいが時計塔を思い出す」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「その前にごはん」


 ひあっ!?

 いきなり首筋に噛みつかれた!

 唇を通して輝力がちゅうちゅうと吸われていく。


 もしかして、寝ぼけてる!?


「ちょっとコラ黒衣の妖将! ルーちゃんになにいやらしいことしてんのよ! ぶっ殺すわよ!」

「ああ私なら大丈夫だから怒らないで」


 ナータは見境なくケンカを売る癖をいい加減に直した方がいいと思います。




   ※


「これがその映像資料だ」


 輝力を吸って眠気を覚ましたカーディは、蔵書室の奥の方から一枚の光る円盤を持ってきた。

 風音板レコードに似てるけどもっと小型で裏面はキラキラ光っている。


「それは何?」

「SCDっていう記録媒体だよ。こいつをこのプロジェクター本体に入れて……あそこでいいか」


 カーディはそれを部屋の隅で埃をかぶっていた古めかしい機械マキナに挿入し、本体の先っぽのレンズ部分を真っ白な壁面に向けた。


 レンズから光が放たれる。

 すると、なんと壁に映像が投影された!

 見慣れない街並みが流れて、古代語がばーんと中央に表示される。


「かっこいい!」

「画質は微妙だが、見れなくはないだろう。遮光カーテンを引いて輝光灯も消すと雰囲気出るぞ」

「えっと、ナータ……」

「はいはいわかったわよ」


 ナータは読んでいた本を閉じると、椅子を三つ持ってこっちにやってきた。

 読書の邪魔しちゃったみたいになってごめんね。


「これ結構長くなるの?」

「まあ、軽く八時間以上はあるだろうな」

「長っ! 今から見始めても深夜になるわ!」

「お菓子でも持ってこようか?」

「椅子ももっといい物を使った方がいいと思うぞ」


 やんややんや。

 そういうわけで、快適に視聴できる環境作りから始める。

 すべての準備が終わったところで、プリマヴェーラさんがやってきた。


「ずいぶん騒がしいけど、なにやってるの?」

「あ、プリママ。こっちに来て一緒に見ようよ」

「見る? 何を?」

「ソラトさんの昔の話」

「え? ……ああ、あれかあ」


 プリマヴェーラさんは何故か気まずそうな顔でドアの陰に隠れた。


「あたしはちょっと遠慮したいかな……」

「えー、いいじゃん。こっちに来てお姉ちゃんと一緒に見ようよ」

「ママを妹扱いするのはやめてくださいお願いします」


 だっていくら言われてもお母さんとは思えないし。

 別に嫌ってるってわけじゃないんだよ?

 むしろかわいいから好きだよ。


「そのビデオ、ソラト君が他の女の子と仲良くしてる所が多いから……」

「ああ、そういうこと」


 パパママ世代も若いころはいろいろあったんですね。

 がぜん楽しみになって来ましたよ。


「おい、そろそろ始めるぞ」

「あ、ごめんカーディ。ナータ、お菓子を広げて。プリママはこっち」

「あいよ」

「結局あたしも見なきゃダメなの!?」


 さて、そういうことで上映会を始めますよ。

 カーテンを閉めて、輝光灯を消して……っと。


 真っ暗になった蔵書室にプロジェクターの映像だけが浮かぶ。

 オープニング映像の流れる中、カーディが簡単な話の説明をした。


「これはミドワルトの時間軸で千数十年前、紅武凰国がまだ日本と呼ばれる国家の一部だった頃の話だ。物語はとある山中、外界から隔離された都市から始まる――」




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デビルエンジェルAYA

第1話 能力者の街

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