約束と警告

from

デビルエンジェルAYA

第20話 自由か、平和か




「ついに運命の女の子との再会! さあ、いよいよソラトくんの大反撃が始まるよ!」


 プリママが謎のハイテンションです。

 ああ、つまりこの人が、あの……


「そんなものは始まらないけどな」


 カーディが四巻のディスクを本体から取り出す。

 私はよいしょっと立ち上がって部屋の輝光灯をつけた。

 気が付けばもうすっかり深夜だ。

 あと一巻って終わりなんだっけ。


「っていうかミサイア死んじゃったんだけど、どういうこと?」


 ナータが首をかしげる。

 死んじゃったよね、みさっちさん。

 あんなに頑張ってたのにすごい可哀相だった。


「先を見ればわかるけど……なんなら本人に聞いてみるか?」


 スーちゃんがテーブルの端っこに置かれた通話機を指さす。

 そういえばこれって紅武凰国にも繋がってるのか。

 あんまり個人的な理由では使うなってベラお姉ちゃんに注意されたばっかりだけど……


「そうね。そうするわ」


 ナータは一秒も迷わず機械の電源を入れた。

 ボタンを操作して画面に映った文字を追っていく。


 相手選択→紅武凰国→通話ボタン。

 機械の中で小さなゲートが開いた感覚がした。

 そのまま待つこと数十秒、眠そうな声が聞こえてくる。


『はい、こちら紅武凰国管理局外次元担当、麻布美紗……』

「あ、ミサイア?」

『その声はナータですか?』


 声が聞こえ始めてから時間が経つにつれ、だんだんと画面に映る相手が鮮明になる。

 長い髪の女の人で、私は一度だけすれ違う程度に会っている。

 映像では何度も見ていた顔だ。


「あのさ、聞きたいことあるんだけど」

『どうしました? 緊急事態ですか?』

「ミサイアってなんで生きてるの?」

『どういうことですか!? 悪口!?』


 びっくりするくらい直球で失礼な質問をするナータ。

 この子は頭いいのにどうしていつも説明不足なんだろう。


「いま過去の映像見てたんだけどさ、あんた四巻で死んじゃってんだけど」

『はい? あ、あぁ……あれを見てるんですか……』


 ミサイアさんことアザブミサコさんはこほんと咳払いをする。

 それからちょっと怒ったような声色でナータに注意した。


『えっと、まず先に言っておきたいんですけど、この回線は万が一の時のための緊急回線なので、こういう私用には使わないでください。先の会議で公的にはビシャスワルトと他世界は完全に外交断絶したことになってるんですから』

「いいじゃんこれくらい。他に連絡とる手段もないんだし」

『友人としての付き合いなら後で私の個別回線をお伝えしますから。それと質問に関してですが、私の口からはお答えできません。国家機密に関わることなので』

「そうなの?」

『どっちにせよ続きを見ていればわかりますよ。先に言っちゃったらネタバレになるでしょう』


 それって機密って言えるんでしょうか。

 まあ、リアルの登場人物に先の展開を聞くこともないとは思う。


『ついでなのでこちらからも用件をひとつ。ルーチェさんはそこにいますか?』

「はーい。いますよ」


 ナータにどいてもらって画面の前に立つ。

 正面から見たミサコさんは本当に映像そのままだった。

 ……っていうか、歳も全くとっているようには思えないんだけど。


『改めましてルーチェさん。紅武凰国管理局員、麻布美紗子です』

「はいこんにちはみさっちさん。四代目魔王のルーチェです」

『不躾で申し訳ありませんが、ビシャスワルトの実質的な指導者である貴女に改めて約束して欲しいことがあるんです。』

「約束? 何でしょう」

『先日の終戦会議で先代魔王とは話を付けましたが、今代の魔王である貴女にも重ねて、もう二度とゲートを通って異界に攻め込んだり、次元間の争いを引き起こすような行動は起こさないと誓って頂きたいんです』


 えっ。


「そんなの改めて誓うことですか? 私は絶対にそんなことしないですけど」

『……あなた達がいま見ている映像には、我々が過去に犯した罪業の記録も残っています。そちらの先代魔王が千年に渡って恨みを持ち続けるほどの』


 ……あー。


『本当なら見て欲しくないんです。しかし、どういう経緯でそれがそちらの世界に渡ったかはともかく、あなた方の所有物を我々がどうこう言う権利はありません。だからあなた達が何を見ようとも、過去の出来事として捉え、今の我々に憎しみを向けることがないよう、改めて正式な魔王の言葉として残して欲しいんです。この会話は正式な階段として録音していますので、ここで言葉にしていただくだけで結構ですから』


 実際の所、三巻を見終わった時点で私はあのヘルサードとかいうやつをとっても危険な、絶対にやっつけなきゃダメなやつだと思った。


 物語のキャラなら好き嫌いはあって当然。

 けど、あいつは今も世界のどこかにに実在している人物なんだ。

 それも(理由はどうあれ)彼女たちの国では神様みたいに偉い人の立場らしい。


 個人的な感情でやっつけようとするのは前の魔王さんと一緒。

 自分の気持ちのために多くの人を危険にさらすのは、やっちゃいけない行為だ。


「わかりました。何を見ても絶対に戦争なんて起こさないって誓います。文章はベラお姉ちゃんを通して送ればいいですか?」

『ありがとうございます……まあ、こんな口約束にあんまり意味はないんですけどね』


 みさっちさんは大きなため息を吐いた。


『この際だからハッキリ言いますけど、紅武凰国管理局は貴女の存在を非常に恐れています。うちの天使よりも強い……どころか複数の多元宇宙を即死級エネルギーで埋め尽くせるって何ですかそれ。本気で攻めて来られたら普通に国どころか世界が滅びますよ。ミドワルト復興に協力してるのだって、ぶっちゃけ言えば九割以上は貴女のご機嫌取りみたいなもんですから』


 過去の映像と変わらない苦労人気質。

 だけど言葉の端々には明らかな棘が含まれている。

 何となくだけど、この人はあのみさっちさんとは別人のような感じがした。


『もちろん黙って滅ぼされるくらいなら全力で抵抗させてもらいます。警告のような形になるのは非常に申し訳ないですが、お互い不幸なことにならないよう、正しい選択を期待していますよ』



   ※


 何となく気まずい雰囲気のまま通信終了。

 まあ、心配する気持ちはわからなくもないけどね。

 ナータやプリママも彼女の態度に対して文句は言わなかった。


「じゃあ、続き見るか?」

「……うん」


 見ない方がいいのかもしれない。

 でも、知らなくちゃいけないと思った。


 大丈夫。

 何があっても気持ちは変わらない。


 最後の巻をカーディがプロジェクターにセットする。

 お菓子を食べながらわいわいと映画鑑賞……という気分ではすでになくなっていた。


「いよいよ物語は大詰めだ。前巻の最後で二つの派閥に分かれた街の人間たち。果たしてソラトは真の敵を見定めることができるのか? 大いなる犠牲の果てに始まりへと続くプロローグは幕を下ろす。L.N.T.のラストラン。その一歩目はひとりの英雄の死から始まる――」




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デビルエンジェルAYA

第21話 散り逝く乙女たち

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