三章・魔法都市レウス
そろそろ歩き疲れてきた一行は、巨大な都市の門の前に到着する。
「はえ~、おっきい~…」
ルビィは普段あまり出さないような、間抜けな声を上げた。
ダイヤはくすくすと笑っている。
門番に通行証を各々見せると、ぎぎぎぎと音を立てて少し巨大な扉が開く。
その光の隙間に、順番に入り込んでいく。
扉を入ると別世界の様だった。
あちこちに張り巡らされた水面が太陽の光にきらきらと反射していて、とんがり帽子や学者帽をかぶった人々が道を行きかう。
セレスティナとはまた違った雰囲気の賑やかさで、なんというか…粛々とした感じの街だ。
トパーズが旅行冊子を広げる。
「魔法都市レウスは魔法学校が統治する学術都市。地上の水路は実用と景観を備えている…」
ルビィはくすりと笑って言った。
「準備が良いのね?」
「折角の冒険だ。楽しまないとな」
トパーズは真面目に言っていた。
それがまたちょっとおかしくて、ルビィは笑顔になる。
「水路は魔法学校が開発したもので、各国この浄水下水の水路システムを取り入れているわ。中でもここレウスの水路システムは最新式なの。もともとうっすらと魔法防壁はかかっているのだけど、有事の際は更に水が持ち上がって、強固な魔法防壁が2重でかかるわ」
「有事が滅多にないから、知らない人多いんだけど…ルビィ、良く知ってるね?」
ダイヤが驚いている。
「これでも、各国のことについては、よく勉強してるのよ」
「なるほど~」と感心すると、ダイヤが続ける。
「ちなみに、魔法学校の塔のてっぺんには、水の精霊セルリアンが住んでいて、守ってくれてるよ。人間好きの珍しい精霊だね。…だから、何か重要な会議とかしたいな~ってなると、ここで開かれることが多いの」
「大きな都市で便利だからかと思ってたわ…」
パールが関心する。
「もちろん利便性もあるよ」
ルビィが言う。
「あと四賢者の一人、ジルコニア様のお膝元でもあるね。セレスティナはローズ様が有名だけど。…四賢者の中で今ご存命なのはジルコニア様だけだよ」
「四賢者というと、あの昔話の?」
トパーズが聞き返すと、ルビィが頷く。
「あれは何百年とずいぶん昔の話らしいけど、魔法研究の成果でジルコニア様は長生きなんだよね。それほどすごい人ってこと」
「ただ、ジルコニア様はここにはいないけどね。ご隠居してるから。遠方の『賢者の塔』に住んでるよ」
ルビィの説明に、ダイヤが付けたした。
この二人は伊達に勉強していないようだ、とトパーズは思った。
「国は賢者様が建国したものだから、4つあるの」
剣士ローズの勇気の国・セレスティナ王国
魔術師ジルコニアの知恵の国・魔法都市レウス
僧侶ムーンの信仰の国・サルヴァーン教国
狩人ジェイドの樹木と狩りの国・カルナクルス国
「狩人として、カルナクルスは一度行ってみたい…」
トパーズが冊子をめくる。
「そのうち行かなきゃいけない気もするわね」
パールがトパーズの手の冊子を覗き込む。
「まず当分はレウスね…」
「そうだな」
トパーズはぱたりと冊子を閉じた。
「とりあえず、手続きもしたいし。会議もそこだし。魔法学校かな」
ダイヤが書類を鞄から取り出し、一通り目を通す。
「ハンコはある。書くとこも書いた…よし! だね」
「受付に行ってみましょうか」
──
とても巨大な建物だ。
外壁門に近しいサイズの扉がでんと目の前に現れる。
その大きな扉。正面玄関から入ってすぐのところにカウンターがあり、「受付」と名札が置いてある。
綺麗なお姉様がひとり腰かけている。
「あの~」とダイヤがお姉さんに話しかける。
「どういったご用件でしょう?」
「えっと、私は学校の担任変更手続きに来ました」
「伺っております。ダイヤ・モンドさんですね。先生のお名前は──」
「アンバー先生から、アメジスト先生です」
名前を聞くと、受付嬢の手がぴたりと止まる。
みんなが不思議に思っていると、こう切り出された。
「大変申し訳ございません。現在アメジスト先生は大切な会議に出席中でして、連絡が取れないのです」
「え~、どうしよう…何日後ならいけるとかってありますか?」
「それが、終了時刻が私にもわからなくて。…もう一か月も会議中なのです」
「うーん…とりあえず、出直しますね」
「はい。そうしていただけると助かります」
ルビィは思考する。
(大切な会議ってやっぱり襲撃事件対策会議だよね…)
そう考えてから、ルビィはダイヤに尋ねた。
「アンバー先生ってどんな先生?」
「えっ?」と一瞬声をあげて、ダイヤは答える。
「どんなって、普通のおじいちゃん先生だよ。小言が多い」
「ひいきはある?」
「ある…かなぁ」
「権力には弱い方だと思う?」
「うん。結構」
ふむふむ、とルビィは会ったことのないアンバー先生の人となりを考える。
しばらく考えてから、ルビィはすっと受付に向かう。
「アンバー先生と面会できますか?」
「はい。アンバー先生なら現在フリーですが…あなたは……?」
「ルビィ・セレス・セレスティナと伝えてください」
「はい。伝えますね」
直ぐに受付嬢が魔通石で連絡を取ってくれる。
その間に、ルビィはみんなに向けて言った。
「宿でもとってのんびりしていて。良い知らせを待ってね」
「わかった」とトパーズ。
何か考えがあるのだろう、とみんな悟っていた。
「正面から行っても追い返されるだけ…利用できるものは利用しなくちゃね」
ルビィはぽっそりと誰にも聞こえないように呟いた。
「お会いできるそうです。どうぞこの方へ付いて行ってください」
「はい」
受付嬢が呼んだ学生らしき少年が案内してくれる。
着くと学生は「では」といなくなってしまった。
ルビィは「ふぅ~」と深呼吸すると、コンコンコンと三回、軽くノックする。
「どうぞ」
中から声が聞こえてきてから、ルビィはがちゃりとドアノブをひねって開ける。
「失礼します」
高級そうな椅子に飴色の瞳の老人が座っている。
「よういらした」
老人は白い髭を撫でた。
「何故一国の王女がワシに?」
「実は…」
ルビィは事情を説明する。
「ダイヤとは親友で」
「なるほどの。そこからのつてでワシを頼ったということか」
「襲撃事件の次の目的は恐らく、アメジスト先生だと思うんです」
「皆その見解じゃ」
ルビィはちょっと考えてセレスティナで起こった襲撃事件とその犯人について伝える。
「これは…アンバー先生にだけ伝えるのですが、襲撃事件の犯人は──魔王オニキスです」
アンバーの目が見開く。
「それは…誠か!!」
「はい…残念ながら。母を襲う奴を私は見ました」
ルビィがそう言うと、アンバーが続ける。
「奴は各国の重要人物を襲いに襲っている」
「そう聞いてます」
「…が、まだ犯人の正体については皆よくわかっていないんじゃ。それが本当なら、戦争になるぞ…!」
「そう思って、アンバー先生以外の誰にもまだ言っていないのです」
ほっとした様子で、アンバーが肩をなでおろす。
「それが良い…。王女様、何が望みじゃ」
「アメジスト先生を拘束するだけの無意味な会議を終わらせたいのです」
アンバーが立ち上がり、うろうろし始める。
「なんと。しかし…しかし…ワシには無理じゃ。ワシにはそのような権力がない──」
ルビィが続ける。
「母のことを父に直接伝えたい…。目撃者として会議に私も参加できないでしょうか?」
「うーむ」とアンバーが唸る。
「取り次ぐことはできると思うが…。うまくいくかどうかは保証がない」
「ただし──」とアンバーが言いかけた時、ルビィが言葉を塞ぐように言った。
「犯人の正体までは見なかったことにします」
「真に聡明な王女様じゃ。セレスティナの未来は明るいの」
「それはどうでしょう…」
「謙遜なされますな。では、行きましょうか」
「ほっほ」とアンバーは髭を撫でて笑った。
ルビィも内心ほっとしていた。
ルビィは部屋の外に出ると「ぎぃっ、ぱたん」とドアを閉めた。
──
『大会議室』。
中からがやがやと大勢の人の声がする。
ドア番にアンバーが交渉する。
「セレスティナの王女様がお見えなのじゃ」
「王女様が? 何故ここに?」
「セレスティナで襲撃事件が発生したのじゃ! 目撃者の彼女を中へ」
「少々お待ちを」
ドア番が二人で審議する。
「本当に王女か?」
「まて、あの首の指輪。聞いたことがある。サファイア王もつけてらした。あれを見せてもらったらいいんじゃないか?」
「本当に王女なら入れても怒られはしないと思うが」
「そうするか」
「失礼ですが、その首の指輪はまさか…」
ドア番二人に、ルビィは手のひらに乗せて見せてあげる。
指輪にはセレスティナの紋章であるローズの横顔が描かれている。
「この指輪に誓って」
少しくすんでいる金は代々受け継がれてきた証拠だ。偽造したとしても、なかなかこんな色にはならない。
ドア番二人はドアを開けてくれた。
「どうぞお入りください」
ルビィは内心ガッツポーズをした。
とりあえず、これで父とアメジストに会える。
入った瞬間、サファイア王の目に入る。
「ルビィではないか! お前自らこんな遠方に赴くなど、一体何があった!」
サファイア王はすぐさま駆け寄ってきて、ルビィの身長に合わせてかがみ、事情を聴く。
「実は、お母様が襲撃にあったの。それを伝えたくて」
「エメラルドが…! 無事…無事なのか!?」
今の今までどっしりと構えてたセレスティナ国王の慌てふためいた様子に、周囲ががやがやと騒がしくなる。
「わずかに魔力が残っていた様で、一命はとりとめました」
ほっとした様子で、サファイアは頷いた。
「よく来た…本当によく来た……」
「魔通石は壊れるし、伝書バトも届かなかった様で」
サファイアは「ふぅ」と腰かける。
「──すまない。取り乱してしまった。やはりここには彼女を連れてくるべきだったのだ」
そこへ眼鏡をかけた一人の少年がやってくる。
「あまりご自分を責めないでください」
「ありがとう、アメジスト殿」
「彼女は有事の際自分が魔法で国を守らねばならぬと言って聞かなかったのだ」
「確かにお母様なら…」
しんと静まり返る中、ルビィが口を開く
「私、この事件を解決するために旅に出ようと思ってここまで来たの」
「なんと。そうであったか…」
「ここにこもっていてもどうしようもないと思うの」
アメジストも口を開く。
「確かにそうだと、僕も思いますよ」
「しかし、危険すぎる!」
すぐさま議長が反応する。
サファイアが議長をいなす。
「待たれ! 確かに危険ではあるが…私たちは実際ここにこもりきりで、一大事すら知らなかった」
「そうです。このままでは後手後手に回ってしまい、相手に出し抜かれると思うのです」
アメジストがサファイアに続くと、議長も悩んでいる様だった。
「ううむ…」と唸っている。
そして、アメジストが続ける。
「危険な任務にセレスティナから王女様が行かれるのなら、レウスからは僕が行きましょう」
「だが…しかし……」
議長がうんうん唸っていると、アメジストが強引に言った。
「予定の方は先延ばしにしておいてください。解決したら、こなします。…この会議もここまで引き延ばせたんです。ちょっとくらい大丈夫でしょう? ね、議長?」
根負けした議長がベルを鳴らす。
「仕方がない! ここで会議は解散!」
──
これで兵も王も帰ってくる。
セレスティナの方もひとまず安心だろう、とルビィは胸をなでおろす。
会議室を後にして、アメジストとならんで、みんなと約束した宿屋へ向けて歩く。
「ありがとう、アメジスト先生」
「呼び捨てで結構ですよ、ルビィ王女」
「私も。身分で呼ばれるのはあまり好きではないの。それ以外ならなんでもいいわ」
「ではルビィさん。あなた犯人の姿を見ましたね?」
「どうしてそう思ったの?」
「そうでもないと、あのアンバー先生が協力しないと思ったからです。アンバー先生はなるべく厄介ごとにかかわりたくない性格。あの方は権力に少々弱く…ただ、権力だけでは動きません。きっと特別に犯人を教えたのでしょう?」
「そうよ」とルビィはあっさりと答える。
アメジストは言い渋るかと思っていたため、驚いていた。
「犯人は魔王オニキス…あの場で言ってしまうと、戦争になりそうだったから。アンバー先生と相談してやめたの。アンバー先生に犯人を教えたのは正解だったか、未だに迷っているわ」
「大丈夫でしょう。アンバー先生は責任感も強い方。言いふらしたりはしませんよ」
アメジストのお墨付きをもらって、ルビィはちょっとほっとしていた。
少し肩が軽くなった。
「それより、瞬時に人を見抜く力…流石ですね」
「ありがとう。素直に喜んでおくわね」
「みんなは宿屋にいるの」とアメジストに言うと、「わかりました」とアメジストが返す。
──
宿屋『ウーループの巣』。
「みんな、ただいま。約束通り、アメジスト先生を連れて来たわよ」
「わっ」と声があがり、アメジストはびっくりする。
「僕も一緒に旅に出ることになりました。よろしくお願いします」
パールが飛び回る。
「やったじゃない、あのアメジスト先生を仲間として連れてくるなんて、大変だったでしょう、ルビィ!」
「まあね~」と笑ってルビィはにこっと笑う。
ダイヤは瞳をうるませ、ふるえていた。
「アメジスト先生!!」
「あなたが麻痺薬のダイヤさんですね…。仲間なんですから、先生はいりませんよ」
ルビィはなんかちょと嫌な称号みたいになってるな、と苦笑いした。
「はい!」
素直ににこにことするダイヤに、今までにいないタイプだな…とアメジストは思った。実は「勉強嫌いで出来ないタイプ」はたくさん見てきたが、「勉強好きだけど出来ない」タイプは初めてだった。
「勉強はしっかりと見させてもらいますよ」
ダイヤは元気よく返事をしていた。
一行はもうしばらくはこの宿屋で休むことにした。
各々好きに過ごしていた。
「やっぱり学術都市はいいね~。向こうではなかった本がいっぱい! たくさん買っちゃった!」
アメジストとダイヤは本屋巡りをしていた様だった。
思いのほか気が合ったようで、学術関係の話をしていた。
「ダイヤさん、本はいいですよ」
「はい!」
「というか不思議ですね、これほど知識があるというのに、回復薬だけ作れないなんて。絶対できるはずですよ」
「それが、全然ダメなんです。全部怪しい液体化しちゃって…劇物ばかり」
ふとアメジストがダイヤの胸に輝く宝石に目をやる。
「ダイヤさん、それは…? 魔法道具の様ですが」
「これ? 魔法学校入学の時に渡されたもので…。魔力を制御するためのものだって」
「よくみせてください」
アメジストは眼鏡を軽くはずし、ルーペで観察する。
「これは…」
確かに魔力制御の魔法道具だが、吸収威力が半端ない。
一般の人間には必要ないものだ。
「それを付けて、魔法は使えますか?」
ダイヤは首を横に振る。
それほど、ダイヤの魔力が高い…ということか…。下手をすると自分よりも高魔力かもしれない、とアメジストはダイヤを見る。
「回復薬が作れないのはこれのせいかもしれませんね。時間はかかりますが、改良してみましょう」
「本当!? おねがい!! ただ…外しちゃうとどうなるかわかんないの…学校からも外すなってお達しが出ているし…どうしよう……」
「これを」
アメジストは左耳のイヤリングを外し、ダイヤの左耳に付ける。
「僕専用の魔力吸収装置なので、一時的なものですが…少しは抑えられるはずです。ただ、魔法は使わないように。魔法薬も作っちゃダメですよ。僕にもどうなるかわからないので」
「はい」
ダイヤはおそるおそる、大きな宝石の付いたネックレスを外す。
「大丈夫…そう……?」
アメジストはしゃらりとネックレスを机に置くと、早速いじり始める。
「これが…こうで……ここの……」
ぶつぶつと言いながら集中している。
ダイヤは先ほど買ってきた本を流し読みしながら、その様子を心配そうに見守っていた。
──
トパーズとルビィは観光しながら、今後必要なものを揃えていた。
パールは宿屋でくつろいでいる様だったので置いてきた。
「回復関係はダイヤに任せているけど、私たちも少しは持っておいた方がいいわね」
雑貨屋『クリスタル・ベル ~レウス支部~』。
「いらっしゃい!」
いつもの元気なスピネルの声がする。
「ずいぶん探したわ。この店…」
「土地高くてね…ここの一角しか無理だったの」
「何をお探しかしら?」
商品はサンプルが飾られているだけで、全部転送で送られてくるようだった。
「魔法スクロールはいるか?」
「うーん、少し持っておきましょうか。私も多少魔法が使えるよになってきたし」
トパーズはサルヴァーンとカルナクルスの観光マップを見つけて手に取る。
「俺は個人的に行くかもしれない国の観光ガイド新版を買っておこう」
「まだ次の目的地決まってないからね」
「たぶんアメジストなら知ってるよな?」
「どうかな~。私達が知らないことを知ってそうではあるけど、有名な高魔力者はすでに襲われつくされてるから、本当に、彼ぐらいなの。襲われてないの」
「そうか…」
──
宿屋にて、パールの居る部屋。
「おっかしいなあ…サードニクスに繋がらない…まさか…森に何かあったとか?」
パールは「まさかまさか」と笑う。
心配だな…と布団の上で足をぱたぱたさせる。
「ばか…」
そのままパールは眠りに落ちた。
──
「ただいま~」
ルビィとトパーズが買い出しから帰って来た。
パールは目を覚ます。
「できたー!!」
…と同時に、アメジストの声が響く。
ダイヤがぱっと顔を上げる。
「これを付けてみてください。ちょっと掛かっていた力を80%制御にしてみたんです」
しゃらりとダイヤが首にかけると、ふわっと光って、いつもの様に胸になじんだ。
ダイヤはネックレスを確認すると、ピアスを外してアメジストに返す。
「魔法道具?」
ルビィがそれを見て声を上げる。
「うん。学校からの支給品なんだけど、制御の力が強すぎたみたいで…」
「そうなんです。…ちょっと改良をほどこしてみました」
「回復薬が作れなかったのもこれが原因でした」とアメジストが続けて言った。
アメジストは「ふーむ」というと、「魔力の加減を図るには火種の魔法、イグニスが一番ですね。唱えてみてください」
「イグニス!」
ぼっと炎が指先に灯る。
ゆらゆらと揺れる炎はとても綺麗だ。しかし、ダイヤの指に灯ったのは見たことのない青い炎だった。
「初めて魔法を使ったよ。今まで免除されてたから…全然使ったことなくて」
「青い炎は高魔力者の特徴ですね。これで80%制御なので、制御を外すととんでもないことになるでしょう…」
ルビィは少し複雑な気持ちだった。今までダイヤも魔法を使えないから、自分の気持ちをわかってくれると思っていたのに…あっっさりと使ってしまった。ルビィも少し使えるよになったとはいえ、まだ一瞬オレンジ色の炎を出すのが精一杯だった。
黒い想いがあふれると、あの声が心に響く。
『力が欲しいか──』
欲しい…
私だって強くなりたい。
みんなの様に魔法が、使いたい。
何かが心の中でにやりと不気味に笑った気がした。
急に気分が悪くなって、めまいがする。
世界がぐるぐる回る。
どさりとルビィが倒れこみ、トパーズが駆け寄ってくれる。
──
気が付いたら天井を見つめていた。額に手をやる。
まだちょっと、ぐるぐるしている。
「ルビィ、大丈夫か?」
みんなが心配そうにのぞき込んでいる。
起き上がると、ちょっと頭が痛かった。
「大丈夫。ごめん、心配かけて」
「もう少し休んでろ」トパーズがそう言ってくれて、少し肩が軽くなる。
「ありがとう」とルビィはトパーズにお礼を言うと続けた。
「今晩泊まったら出発しましょう」
「目的地はどうする?」
「あの…」と珍しく大人しかったパールが手をあげる。
「よかったら、妖精の森に…その…個人的に安否を確かめたい人がいて」
ルビィはOKの合図を出す。
すると、パールの表情が明るくなる。
「どうせここにとどまっても仕方がないし、妖精の森ならそう遠くはないわ。ふたりの高魔力者がこちらにいることだし、問題ないわね。みんな?」
「うん」と各自頷く。
──
すこし魔力が解放されたその夜、ダイヤは悪夢を見た。
ルビィを殺す夢。
「はあ…はあ…なんで……私はルビィの事……」
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