第72話 騎士見習い達の初陣

朝起きると母さんに抱き枕のように抱きつかれている。高頻度で。

四人(俺、母さん、キヤさん、娘ちゃん)で暮らすには広すぎる新しい家で寝室が各自あるのだが(キヤさんと娘ちゃんは一緒に寝ているけど)、母さんが部屋に入って布団の中に潜り込んでくる。


父さんが亡くなってから増えた……


日課と騎士の訓練で俺の方が起きるのが早い。


抱きしめられている時は母さんを優しくぎゅっと抱きしめ、起こさないように抜け出して大きくなったお腹を撫でる。

涙を流している時や涙の跡がある時もあって、母さんの手を握ったり頭を優しく撫でたり、目をホットウォーターで覆ったりして母さんの寝顔が穏やかになってから行動を始める。


『テント』ファイン達の為の棲みかの空間を出して中に入り朝の挨拶と感謝&お疲れ様のなでなでをして、オルヴェルド公爵城の騎士訓練場に向かう。


「「「ラハートフ、おはよう!」」」


騎士見習い達、オモイコミー、ズールイ、ハータコ、コーキシンに見つかると彼らの気合いの入った挨拶が飛んできた。


騎士見習いのオモイコミー達の初陣である。

オルッシュの見廻りの距離を広げたら、ゴブリンの村を発見したらしく、ゴブリンの村を破壊、ゴブリンを殲滅しに行くついでに野営の訓練もすることになったようだ。


俺もそれに参加する。

経験を積むこととオルッシュの近くにもあることも参加の理由である。


領都に来る前のゴブリン討伐は不甲斐ない結果で終わったからな……


「皆おはよう。頑張ろうね。」

「ふっ、俺にかかればゴブリンなんて楽勝さ。」

「村だから囲まれないように戦わなきゃね。」

「ラハートフ、俺はゴブリンを斃せるだろうか?」

「が、頑張る。」


自信満々なオモイコミー、慎重なズールイ、疑問を聞いてくるコーキシン、自信無さげなハータコ。


「ゴブリン、魔物は人類の敵だから、躊躇しては駄目。見逃したら君達の家族や仲の良い人、知り合いが殺されるかもしれない。だから生まれたばかりのゴブリンでも必ず殺すこと。血生臭さで吐くかもしれないから、その時は我慢してすぐに先輩方や陣地、安全なところに下がって。」

「「「「お、おう(う、うん)(わかった)。」」」」

「コーキもハーもいつも通りやれば斃せるよ。あとズールイの言う通り囲まれないよう立ち回り、周りを見て、皆で連携すれば大丈夫。あと先輩方の指示をちゃんと聞くことだね。」

「ラハートフ様の言う通りだ。」


ベテラン騎士様の一人が会話に混ざってきた。


「「「「「おはようございます。」」」」」

「おはよう。これまでの訓練を思い出し、訓練通りやれば、問題なくお前達はゴブリンは討伐できる。」

「「「「はいっ!」」」」

「そう気負わずに普段通りにやればいい。」


騎士様がオモイコミー達の頭をぽんぽんと叩いていく。


「「「「はい!」」」」


彼らの肩の力が抜けるのが見てわかった。

余計なことを言っちゃったかなとちょっと反省しベテラン騎士達に心の中で感謝する。




騎士達が集まり、騎士団長の号令により、今回ゴブリン殲滅に行く騎士と騎士見習い達が一斉に返事をし、動き出す。


大勢の合わさる声、行動って格好良い。


少し気持ちが高揚した。


部隊の隊長方の指示を受け、オモイコミー達と行動を共にする。

彼らと一緒に馬車に乗り込み、街を出たら、交替で御者を習いながら進む。


お尻が痛いからこっそりプチウィンドクッションを敷いていたが、バレて御者のベテラン騎士も含む全員にプチウィンドクッションを敷いて進んだ。


オルッシュには寄らず、ゴブリンの村に向かう。

森の前で馬車を降り待機部隊と別れて森の中へ入っていく。


森の中を進んでいるとオモイコミー達の呼吸が乱れていった。


俺は呼吸が乱れることなく歩いている。


本当に、自分の身体が不思議でしょうがない……


ベテラン騎士達の励ましでオモイコミー達は自分の足で野営する場所までたどり着いた。

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