第61話 訓練 走る
「おはようございます!本日から訓練に参加しますラハートフです!厳しくびしばし鍛えてください!よろしくお願いします!」
俺は早朝、魔法修練場の隣の騎士訓練場に来て、訓練を始める前の集まっている騎士達に挨拶をした。
五歳の子供、見た目が五歳の子供より小さいから少し下のようにみえるラハートフの挨拶と五歳の子供が訓練に参加することに通達されていても困惑気味の騎士団員達。
本当に来たぞ?
言葉通り本当に厳しくしていいのか?
私の首、物理的に飛ばないよな?と指導を任された騎士が不安がっていた。
「おはよう。本日から指導をしますベンドスです。えー、まず、これを背負って外周を走ります。」
「はい!わかりました!ベンドス様!」
ラハートフの元気な返事に騎士ベンドスが少しほっこりする。
騎士ベンドス様が指したのは背嚢で九歳の騎士見習い用の大きさでそれに重しが入ったものだった。
騎士見習いの訓練は最低年齢は九歳からだそうだ。
だから九歳以下の背嚢はない。
重しを減らしてあるが、五歳の子供がそれを背負って外周を走るのはとても辛いことですとベンドス様が言いさらに大丈夫ですか?減らしますか?と心配してくれた。
精神が鍛えられそうだ!
「重りを入れたリュック!辛い訓練になりそうですね!」
「(えええ。なにこの子、もうこの年で目覚めているのですか?)」
「あれ?そんなに重くないな。」
思っていたものより重くなくて、見かけ倒しなのかなと思った。
「(えっ?重くないだとっ?)」
「あ!見せかけか!ベンドス様!普段と変わらぬ重りにしてください!」
平気そうに背負ってその場で跳ぶラハートフにベンドスは驚く。
「……本当にいいのですか?」
「はい!」
ベンドスはラハートフが強がってるようには見えなかった。
本当に重くない、のか?と思いながら、減らしていた重しを元の重さに戻した。
「……大丈夫ですか?」
「さっきよりちょっとだけ重くなりましたね。」
本物の重りを入れたようで、ちゃんと重さを感じた。
「そ、そうですか。で、では、外周を走りましょう。」
「はい!」
俺は元気よく返事をして先に走っている騎士達を追うため走り出す。
ラハートフの軽快な走りにベンドス、まだ走っていなかった騎士団員達が口を開けて驚き固まる。
前を走る騎士が軽い足音に後ろを見ると「えっ?」と口に出し驚きゆっくりと走りを止める。
俺は止まる彼らを気にせず抜かし、先頭に追いつくべく走り続ける。
はっ!と正気に戻り走り出す騎士達。
「なー?」
「なんだ?」
「ラハートフ様ってドワーフなのか?」
「いや、母親は人族だったぞ。エヴィンカル様の子だからじゃないか。」
「そうか。あの背嚢は最年少の騎士見習いのやつだよな?」
「そうだな。」
「重り、入っているんだよな?」
「ベンドスが減らしていたみたいだが、元に戻してたな。」
「ラハートフ様って五歳だよな?」
「そうと聞いたな。小さいから三、四歳に見えるけどな。」
「全然重そうに見えなかったんだが?」
「エヴィンカル様の子だから身体能力も凄いんだろ。」
「……そうか。」
騎士は考えるのを止めた。
訓練場は奇妙な光景になっていた。
走りと体力自慢の騎士達が先頭にその少し後ろに小さな身体のラハートフが走り、ラハートフの軽い足音に振り向いて驚いている隙に抜かれた騎士達が一団となって走っている。
走っているのがドワーフ族の騎士ではなくラハートフだと気づくと二度見してしまう。
凄く遅く走っているかと思いきや、普通の速度で走っているからまたそこで驚き見てしまう。
エヴィンカル様の隠し子ラハートフ様は走りも凄いとまた一つ、噂が使用人達の間で密かに広がる。
騎士見習い達も実はいて一緒に走っているのだが、いつもは教官にどやされながら走っているのだが、今日は自分よりも年下の
ラハートフの訓練の参加は騎士見習い達に良い刺激を与えていると教官は思った。
なるべく参加してくれることを願った。
なんとなく先頭集団の後ろを走る俺はいつまで走るんだろう?と思いながら、走っていた。
その横に指導役のベンドスがちらっとラハートフの顔を見る。
平気そうですね……
エヴィンカル様の隠し子、凄すぎ……。と思いながら走る。
三十分くらい走っていると先頭がゆっくりと走りを止める。
ベンドス様に走りは終わりです。と言われた。
いきなり走り出したけど準備体操?ストレッチってしないのか?と思い、聞いたらしません。と言われた。
「怪我予防になるはずなんだけどな……」と口に出ていたみたいでベンドス様に「どのようなことをやるんですか?」と詳しくわからないから、適当に運動前にラジオ体操、後にふくらはぎとか伸ばすストレッチを教えた。
教えられたベンドスはその場を一旦離れ他の騎士のところに行く。
ベンドスが離れたのを見て、騎士見習いの子供達はラハートフに近づいた。
「お前、ズルして教官にいいところ見せやがってっ!」
「え?ズル?」
「お前の背嚢、重り入れているように見せているだけだろ?」
「え?ベンドス様が用意してくれたものですが?」
「嘘つくんじゃねっ!」
絡んできた男の子が俺の肩をばんっと強く押してきた。
「ズルもして嘘も付く、お前クソなヤツだな。」
「嘘付き野郎!」
「ズルしてんじゃねぇ!」
「いや、だから、ベンドス様に用意してもらったものですよ。」
「わかんねぇーヤツだなっ!」
腕を振り上げている男の子。
叩かれらるっ!と思い俺は目を瞑った。
しかし、何時までも経っても衝撃が来なかった。
「何をやっているのですか?」
「べ、ベンドス様っ!」
ベンドス様が男の子の腕を掴んでいた。
「何をやっているのですか?」
「こ、こいつがズルして、しかもベンドス様が用意したとか嘘を付いていたので、ば、罰を与えよう、としてました。」
「ズル?嘘?」
ベンドス様が俺を見る。
「『お前の背嚢、重り入れているように見せているだけだろ?』と言われ、ベンドス様に用意してもらったものと言ったら、『嘘つくんじゃねっ!』と言われました。」
「あーーー、うん。ラハートフ様は嘘を付いていません。私が用意しました。」
「「「え?」」」
ベンドス様の言葉に騎士見習い達が間抜けな顔をする。
「お前達がそう思うのもわかります。しかしラハートフ様の背嚢を用意したのは私です。これがラハートフの背嚢です。ズルでも嘘付きでもありません。」
「本当だ……」
「同じやつだ……」
「マジかよ……」
「それで、お前達、ラハートフ様に何か言うことがあるんじゃありませんか?」
「「「!」」」
絡んできた子供達が俺の方に向き、がばっと頭を下げた。
「「「ごめんなさい!」」」
「ズルとか言ってごめんなさい!」
「嘘つき呼ばわりしてごめんなさい!」
「肩を強く押してごめんなさい!」
「叩こうとしてごめんなさい!」
俺は思い込み?もすごいけど、素直な子だなーと思った。
「いえ、信じてもらえてよかったです。怒ってもいないので、頭をあげてください。」
「お前、心が広いなっ!」
「良いヤツだなっ!」
「なんであんなに走れるんだ?」
ぱんぱんとベンドス様が手を叩き、注意を引く。
「続きは訓練が終わってからにしましょう。次は素振りです。」
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