第56話 エアルリーザ・フェン・オルヴェルド 五歳 2

まえがき

エアルリーザ様視点です。

ーーーーー


お父様が帰ってきて、ラハートフとフロエナさんと凄い魔法の出会いから三日が経ちました。


あんな凄い魔法を使うのだから、毎日魔法修練場や訓練場に来て魔法の修練をするものだと思っていましたのですが、ラハートフは一回も来ませんでした。


何をしているのか何処にいるのか尋ねると魔導書庫にいると聞き、我慢できずに魔導書庫に行きました。


逸る気持ちがバン!と扉が音を立てて開けてしまいました。

貴族の子として恥ずべき行動をしてしまいました。


後頭部にメリルの視線が刺さっています。

後でメリルに怒られてしまいます。

怒られることを考えると少し落ち込みますが、今はラハートフです。


「ラハートフ、魔法を教えなさい!」


あああ、違います。

魔法を教えてくださいな。と本当は言いたかったのです。


「はい、わかりました。片付けますので少々お待ちください。」

「手伝ってあげるわ。」

「ありがとうございます。」


なぜかラハートフに対して偉そうな態度を取ってしまいます。

それなのにラハートフは嫌な顔をせず接してくれます。


背伸びして魔導書を本棚に戻そうとしていると視線を感じちらっと見るとラハートフを厳しい目で見ているメリルがいました。

私が見ているのを気づくと何事もなかったかのように片付けを再開しました。


なぜ厳しい目で見ていたのでしょう?


「ついてきなさい。」


片付けが終わりまたしても命令口調で言ってしまいました。


どうしてでしょうか?


私はラハートフが一度も魔法修練場に行ったことがない、あとはぐれて迷子になってしまうだろうと思い、ラハートフの手を掴み引っ張って魔法修練場に向かいました。


ラハートフが私と同じ五歳だと聞いて本当に驚きました。

だって本当に小さいですもの。

三歳の弟妹エジェット達と同じくらいの身長で痩せているものだからエジェット達より小さく見えますの。

握っている手も小さい。


貴族と村人の子供にこんな差があることに顔には出しませんが驚いてしまいました。


でもこんな小さな身体でもあんな凄い魔法を使えるんだから、ラハートフは本当に凄いわ。


お父様とお母様以外でこの人のようになりたいと思う人はいませんでしたが、ラハートフの魔法を見て、ラハートフのように魔法が使えるようになりたいと思いました。


魔法修練場に来たら教えてもらいたいとお願いしようと思っていましたのに、ラハートフったら全然来ないのですもの……


会話はなく、時々手を強く握られながら魔法修練場に着きました。

メリルが用意した椅子に座ります。


「ラハートフ、グリフォンやドラゴンの魔法を教えなさい。」


あぁ、また言い方が……


「わかりました。」


本当に嫌な顔をしませんわね。


「ですが、あの大きさには多くの魔力量が必要なので、エアルリーザさんができるかわかりません。まずはーー「平民風情が、エアルリーザ様を侮辱するとはっ!万死に値するっ!『ファイアボール』」!?」

「「!?」」


突然近くにいた我が領兵が火の魔法ファイアボールを私達、いえラハートフに放ちました。

メリルが私の前に立ちます。


「『プチウィンド』」


薄緑色の結界が私達を囲うように張られました。


私の耳がおかしいのでしょうか?

今、と聞こえましたが……


我が領兵が放ったファイアボールが薄緑色の結界に当たるとボンっと爆発し全体に火が分散して弱まり消えました。

他の領兵達に取り押さえられる魔法を放った領兵がラハートフを睨んでいます。


「エアルリーザさn、エアルリーザ様、申し訳ありません。エアルリーザ様と一緒にいられて浮かれ……」


ラハートフが頭を下げて謝る必要はないわ……


「……平民風情がエアルリーザ様に魔法を教えるのは良くないみたいです。それはわかりましたが、あの魔法を放った方には罰を与えてください。私が防いでいなかったら、エアルリーザ様にも被害がありました。それこそ万死に値します。」

「……ラハートフ様の言う通りですね。」

「そう……。」


私が教えてほしいと言ったのですよ?

良いのですよ。


お父様の命の恩人を侮辱しさらに攻撃魔法を放つことをしました。

罰に関してはたしかにラハートフの言う通りですが……


今ここで私が言えば、領兵は死刑になるでしょう。

私は私の決定で人が死ぬのを恐れてしまいました。


「しかし死は一瞬です。それでは罰になりません。なのでトイレや馬の厩舎などを魔法を使わないで掃除することを罰にと提案します。」

「魔法を使わないとそれは、キツいですね。罰になるかと。」


死を持って償うと教えられてきた私にとっては、ラハートフの言う罰は希望に見えました。

メリルがキツいと言うのなら罰になりましょう。


「では、それを罰にしましょう。」

「ありがとうございます。あとわからなかったとはいえ私はエアルリーザ様を侮辱してしまったみたいなので死以外の罰を与えてください。」


私が教えてほしいと言ったのだからラハートフに罰はありませんよと言いたかったですが……


「…………ラハートフの罰は、あなたの魔法の知識を私に教えることよ!」

「わかりました。平民風情の知識が役に立つかわかりませんが私に知っていることをすべて教えます。」


ラハートフ、平民風情と言わないでほしいです。

なんだか胸が痛くなります。


魔法を放った領兵はお父様の怒りに触れ折角死以外の罰を与えることを決めましたのに、処刑にされることになりました。

ですが、ラハートフがあれこれ言いお父様を説得し、領兵はトイレ、厩舎の掃除係に降格されました。

魔法を使うことを禁止されました。


お父様の怒りを静め説得するなんてラハートフは凄いわっ!

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