第9話 冒険者?

撃退したはずの変態が何ともなかったかのように迫ってくる。

しかも、笑顔で。

笑顔で俺に迫ってきていた。


俺は恐怖を感じて身体が震える。


「来るな!来るなあああ!」


来るなと拒絶しても変態は俺に近づいてきて、俺へ手を伸ばしてくる。

また撃退しようと魔法を使おうとするが、発動しない。


「なんでっ?出ろ!出ろっ!」


何度も使おうとするが、魔法は発動しなかった。


「いやっ!来るな!」


俺へと伸ばされた変態の手を払い、後退る。

後退りするがすぐに壁にぶつかって後ろへ下がれなかった。

ついに変態に追い詰められ、そして、壁ドンされた。


「お前、可愛いな。」


至近距離で変態が俺の頬を撫でながら耳元で言った。


「いやあああああああ」


全身に鳥肌がたった。

身体が震え目を瞑り絶叫した。



がばっと起き上がる上半身。

汗びっしょりな身体。

目尻には流れた涙の跡。


「大丈夫?」


声がした方を見ると母さんが心配そうな表情を浮かべていて、俺の手を優しく握ってきた。

母さんがいて、母さんの温もりを感じて安堵した。


周りを見ると変態がいなかった。


場所は両親の寝室。

左にぐーすか寝ている父さん、右に心配している母さんがいる。

川の字で寝ていたようだ。


夢か……

よかった……


「怖い夢を見た。」

「大丈夫、大丈夫よ。何があっても、私達が守るわ。」


母さんが抱きしめてくれて背中を優しくとんとん、とんとんと叩く。


とても安心する。


落ち着いたら、かいた汗を不快に感じて自分と抱きしめてくれた母さん、寝床にプチクリーンを使った。

まだ外が暗かったから俺も母さんも自然と横になる。


「起こしちゃって、ごめんなさい。」

「いいのよ。」


母さんが俺の頭を撫でる。


やばい。

このまま撫で続けられたら寝ちゃいそうだ……


寝ちゃうそうになるの前に聞きたいことがあって抗い母さんの方に顔を向けて聞く。


「あの変態はどうなったの?」

「へ、へんたい?」

「うん。話しかけてきた男。」

「あー、へんたいって変態?あの男の人が変態なの?」

「知らない人が笑顔で近づいてきた。怖かった。」


ん?あれ?

笑顔で近づいてきたのは夢だったか?

現実でも笑顔だった、よう、な?


「それは怖いわね。」

「うん。」


記憶が曖昧だけど怖かったのは確か。


「あの人は冒険者」

「冒険者!?」


変態は冒険者だったのか。

被害者が多そう……


「えぇ、冒険者なんですって。小さい子が魔法を使いながら歩いているのが凄かったから見ていたらしいわよ。」


魔法を使いながら歩いているのが凄い……

凄いって、言われたような……


いや、それをきっかけに関係を築こうとしたんじゃ?

凄いと言って褒めて持ち上げて、褒めてくれる良い人と思わせるためじゃないか?


普通の幼児ならぴょんぴょん跳ねて喜ぶだろうが、俺は普通の幼児とは違うのだよ、普通の幼児とは。

引っかからないぞ!


「……小さい子が好きだから見ていたんじゃないの?」

「えっ?」


時が止まった。

母さんが目を見開いたまま動かなくなった。

父さんのぐーすかな寝息が聞こえなくなった。


「……」

「……」

「……」


とても沈黙が長く感じた。


「……大丈夫だと思うわ。」

「本、当?」

「魔法を使いながら歩くあなたに驚き、凄いと思いつつ、なぜ家の周りを歩いていたのか知りたかったみたいよ。」

「……」

「もし、小さい子がということだったら、私達が守るから安心して。」

「……うん。」

「あの人は村から出した依頼を受けてこの村に来たのよ。」

「依、頼?」

「浴槽を作る為に木が必要でしょ?」

「う、ん。」


俺が、発端、だからね。

それは、わかる。


「それで伐採、木を切る事なんだけど、」と母さんが話していたのを最後に瞼が落ちて寝てしまった。

時が止まった時の沈黙と安心しての抱きしめで一気に睡魔が襲ってきて抗えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る