第6話 風呂
顔合わせが終わり、畑で見せてもらった新しい魔法、プチアースを見て、これだ!と、少しは衛生面が改善できるんじゃないか!と思った。
「下ろして!」
「お、おう。」
大きな声を出した俺に驚きながら父さんが俺を地面に下ろしてくれた。
下ろされた俺は畑から出て、畑にかからないよう、且つ人の邪魔にならないよう道の端で地面に手をつけて今見せてもらった魔法を魔力増し増しで使う。
「『プチアース』」
土が盛り上がり大人が余裕で横になれるくらいの大きさの長方体の形になった。
「『プチアース』」
再度魔法を使って中を凹ませる。
「『プチウォーター』」
凹ませたところにプチウォーターで水を溜める。
「わああ!」
「うお!」
少し溜まったところで形が崩れ、決壊してしまった。
泥水が迫ってきたところを父さんが持ち上げてくれて、俺には被らなかった。
ただの土……
浴槽の形をしたただの土に水を溜めたら、こうなるよな……
泥水が広がる地面を見てそう思い、父さんの膝下が泥水を被ってしまっているのを見て謝る。
「ごめんなさい。」
「……何をしようとしたんだ?」
浴槽を作れるんじゃないかと衛生面が多少良くなるんじゃないかと、それから温かい湯に浸かりたい欲求が少し湧き出て、やってみたが、ご覧の通り失敗に終わった。
父さんに浸かりたいと言ったら、スープがどうとか呟かれ、全然気持ちが籠ってない頑張れという言葉をもらった。
その場で浴槽を作ろうとする俺は父さんに家の裏手へ運ばれた。
「違うところに行くときは母さんに声をかけろよ。」
「うん。」
父さんは頭を撫でた後、何処かへ行ってしまった。
土を圧縮して水を溜めた。
おお!成功か!と思ったら徐々に溶けて崩れた。
浴槽の形の土をプチファイアで焼いた。
ひび割れた。
圧縮して焼いてもひび割れた。
なぜかこの時は土で浴槽を作ろうと試行錯誤しまくった。
土の圧縮度やプチファイアの火力などを変えて色々試した。
結論からいうと浴槽は完成させれなかった。
浴槽に関しては何の成果も得られなかったけど、魔力操作や魔法の維持などは上達した。
三ヶ月続いた浴槽作りは最終的に首から下を覆える水をプチウォーターで作って空中に維持し、その周りにプチファイアを出して温めた後、素っ裸になり立ったままプチホットウォーターに入った。
解放感が、すごい……
土の浴槽なんて必要なかったんだ……と夜空に輝く星をぼーっと眺めていた。
それを見た母さんが翌日小さい身体が収まる水を溜める陶器を貰ってきてくれた。
水を温めて中に入り、力を抜いて湯に浸かると立ったまま入った時と違い「あぁ~」と自然と声が漏れた。
身体を預けることができる浴槽はやっぱり必要だと思った。
陶器で作ってもらおうとお願いしようとしたが、陶器は取り寄せているだけで村では作っていないようで、作成の依頼は無理だった。
村の人なら、プチクリーンでの清掃洗浄やプチウォーターとプチファイアの温水で身体を洗うことを対価に出来たんだけど、価格的にも無理だった……
木では駄目なのか?と父さんに聞かれ、もう!全然あり!とテンション高めで答えた。
木の食器から柄杓、椅子やテーブルを作っている職人を紹介してもらって、成長しても入れる大きさの木の風呂の作成を依頼し、作ってもらった。
仰向けで浮いて入っている俺を見て、母さんも入り、母さんがリラックスしているのを見て、父さんが入るようになった。
二人が初めて入った時、掛け湯してから入ってもらったんだが、お湯がすぐに汚れた。
今までお風呂に入ってなかったから当然か……
全身プチクリーンし温かい布で身体をごしごしし流して、お湯を入れ換えてからまた入ってもらった。
父さん母さんが「あぁ~。」と漏らす姿を見て、笑みが溢れた。
親子三人で一緒に入ったからお湯も溢れた。
父さん達が木の風呂に入った次の日、二人が知り合いに風呂は良いと話したようで、うちにしかないから試しに入りに来た。
プチクリーンもお風呂も入ってなかったから、湯が父さん達以上に真っ黒だった。
両親と同じ処理をしてもう一度入ってもらった。
「あぁ~。」と漏らした。
「気持ちよかった!ありがとう!」と満足して帰っていった。
また次の日に別な人が入りに来て、同じく満足して帰っていった。
入った人達から職人に風呂の依頼が次々とされたようで村に風呂が広まっていった。
お湯は最初の方は俺が溜めに行っていた。
日を追うことに村の人達が自分達で魔法(湯をはるために子供はプチウォーターとプチファイア、大人はウォーターとファイア、または得意な方の魔法)を使うようになり、次第に溜めに行くことは少なくなった。
風呂が広まったことにより魔法の使用頻度が上がり、村の人達の魔力量が増えていき、さらに清潔が保たれるようになり、赤ちゃんが亡くなることが減っていった。
そして、数年後風邪をひかなかった英雄に倣って村では帰宅後に手荒いうがいプチクリーンをすることが習慣になっていくのであった。
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