転生・転移者が異世界で近代化を行うことについての個人的意見

 主人公が異世界を近代化なんかしちゃったら、現実世界の劣化コピーにしかならないのだから、せっかくの独自発展の芽を摘んでしまうことになって勿体ない!


 「中国では日本の「異世界転生もの」について、主人公が「転生したのに近代化(覇権主義)を推進しない」ため「器が小さい」と不満な人が多いという話 https://togetter.com/li/2441684」に刺激を受けて、前から思っていることを出してみる。本当は作品の中で出したかった……。


 世界ごとの展開があるはずなのに、それを現実の歴史に引き寄せて「これが正解」と言えるほど、現実の歴史は素晴らしいものかなぁ。

 発展のアウトラインは現実を追いかけながらも異世界の実態に合わせて「もっと上手くやる」と言うのも分からんではないが、くすんだ折衷案に思えてしまう。程度問題のグラデーションで、自分が書いている作品もそれに含まれることをするとは思うが。

 現実から離れるために――転生者にはその気がないとしても――転生したのに、異世界を現実に寄せていくのでは本末転倒感がある。「新世界に理想郷を創るんだ」って新大陸や火星に行った人間が結局は故郷の複製品を作ってしまったなんて、個人的な価値観では、挫折でしかない。教訓としてはよく出来ていると思うけど。


 あと、たとえ現実に不満があっても現実で自分が上位側になれれば満足って場合は、異世界を現実のコピーにしてそこで上位に収まれば満足というのは理解できる。自分さえ良ければ良し!下々の者も自分が上ならそれ以前よりはいい思いをさせてやるってね。

 世の中には異世界の奴隷制を積極的に利用している作品だってあるしな。



 問題は転生者が「歴史の道標」をしなかった場合に、異世界がたどる独自の発展を描くことが非常に難しいこと。

 そんな異世界を破綻なく描けるならプロのSF作家になれる。理想が高いと要求される能力も高い。

 ただ、最近読んだ「インカ帝国 歴史と構造」という本で、文字がない社会の時間間隔や価値観に触れたことは良い刺激になった。現実には主流に慣れなかったいろいろな文明がそのまま発展していった場合を想定したら、それなりに説得力をもって創り出せる世界観があるかもしれない。

 それも「蟲師」の江戸時代が明治の時期になってもそのまま続いている雰囲気に近いものがあるか。中国も西洋化という名の近代化などせずに清帝国がそのまま続いたら――という想定は多数派の若者に許容されそうにない。だからリンク先でも明帝国の鄭和大航海が話題にあがっていたのかなぁ。


 国内の読者でも難しいのに、海外の読者はもっと難しい。世界を創るのも手に余るのに、需要に合わせて行く余裕がある作者は能力が高いな。

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真名千の創作雑記ノート 真名千 @sanasen

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