そんなこというなら証明するからね①

「魔本とは、あの魔本だろうか」

 エレンは店の壁一面に設置された本棚を見回した。


「あの魔本だと思うよ」

 私がそう答えると、エレンはいろいろな感情を織り交ぜたように見える表情を浮かべた。


 だから言いたくなかったのだ。


 エルドナー子爵家は第二王子派閥で有名な貴族。その第二王子というのが反魔本思想を持っているのだ。弾圧とまではいかないが、ことあるごとに魔本業界への補助金減額を上奏している。魔本業界では有名な話だった。


 しかし、そもそもここスピレーソン王国は魔本で発展してきた国だ。魔本が国の根幹を担っている。魔本が多く出土する遺跡が王都地下に広がっていて、その規模は周辺国の遺跡を一つにしても足りないくらいだ。


 遺跡の存在もあってか、魔本の発掘や解読、そして修復などその道に精通したプロ達がこの国に集結している。そしてしのぎを削り合っているのだ。


 その中でも、一位二位を争っているのが王都東部と西部の魔本街。


 この国では各地区に三家の貴族が派遣され、管理を任されている。ここ東部の管理を任された貴族家の一つが、エレンが仕えていたエルドナー子爵家だ。


 第二王子派閥が魔本街の管理を任されているということで、業界では嫌われているのが正直なところ。しかし、歯止め役という意味もあるのだろう。師匠は「あまり嫌いすぎるな」と言っていた。

 それに納得するとともに、政治の難しさをなんとなく感じた。


「エレンさんは魔本が嫌い?」

 そう聞くと、エレンは気まずそうな顔をして目をそらした。


 それも仕方がないように思う。貴族家に仕える騎士は小さいころから英才教育を施される。雇い主の思想は物心つく時から触れてきているに違いない。


 それに、騎士だと魔法は別として、魔本そのものと深くかかわることはないだろう。エルドナー子爵家だったらなおさらだ。


「サリー殿には感謝している。しかし、これはいかんとも……」

 エレンは立ち上がると膝をついて謝罪をしようする。膝つきの謝罪は最大級のものに近い。私はそれに気づくと「気にしてないよ」と静止した。


 エレンは申し訳なさそうに「ご配慮、痛み入る」とつぶやいた。


 そんなエレンを見てこちらが申し訳なくなる。しかし、気にしていないとは言ったものの何も感じていないわけではない。魔本は素晴らしいし、私はそれに誇りを持っている。


 どうせなら、気づかせてやりたくなってしまうのだ!


「在庫、あります!」


 私の宣言にエレンが「ひっ!」と言って驚いた。小動物みたいだった。「ど、どうしたのだ? 急に」とエレンが聞いてくる。


「エレンさんを魅了できるような魔本がここにはね♪」

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