出会いはいつも突然に②

「申し遅れた。私はエレン・フォーディン。倒れていたところを救っていただき、本当に感謝している」

 騎士はスッと立ち上がって腰に差していた剣の持ち手を握り、空いた手を胸にあてた。これは感謝の意を示す騎士式の礼だ。

 以前、師匠に教えてもらった。


「サリーだよ、ここの店主をやってるの。よろしくね」

 おまけにこの美貌。キリっとした目鼻だち、服越しでもわかる引き締まったモデル体型。まぶしいほど鮮烈な赤毛は動きやすいようにだろうか、ミディアムだ。機能性を重視しつつのおしゃれ感。


 そして身長も高い。私より頭二つ分くらい背が高かった。


 幼児体型の私はつい憧れてちゃうね。


「サリー殿、私の顔に何かついているだろうか」

 ついじろじろ見すぎてしまっただろうか。「なんでもないよ」と返し、自分用にもってきたミルクに口をつけた。


「えっと、エレンさんはどこかの騎士さんなの?」

 私の言葉にエレンさんは驚いたような表情。しかし、すぐにその顔は悲痛な面持ちに変わってしまった。


「あぁ、私はエルドナー子爵家に仕えている騎士――だったんだ」


 エルドナー子爵家か……。


 まぁ、今はそれは関係ないことだろう。そう思い返した。


「あの、それは……」


「気を使わせてしまったな、すまない。私はエルドナー子爵家から追放されてしまったんだ」

 やれやれといったような雰囲気で、先ほどの悲痛な面持ちは鳴りを潜めたようにこぼす。しかし、これ以上は聞いてくれるなというような空気も感じた。


 貴族仕えの騎士が追放されるなんて聞いたことがない。貴族仕えの騎士は、王族の血が入っていないとはいえ特権階級。一般市民が簡単になれるものではない。市民から見れば貴族と同じようなものだ。


 一つの貴族家に一つの騎士家。貴族は自ら騎士一家を養い、騎士たちは主人である貴族家に忠誠を誓う。

 両者は固い信頼関係で結ばれているのだ。


 師匠が言っていた。


「ところで、ここは商店だとお見受けする。これらは――」

 沈黙していた私に気を使ってくれたのだろうか。申し訳ない。騎士というのは気遣いまでできちゃうんだね。


 けれど。


「これは……」

 しばし逡巡。その間もエレンさんはこちらを見つめてくる。


 いくら彼女が追放された身といっても、エルドナー子爵家の騎士だったという事実が、教えることを躊躇させる。しかし、エレンの目線はずっとこちらを向いて外れない。


「はぁ」

 私はバレない程度、小さく息を吐くとあきらめて「魔本です」と口にした。

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