出会いはいつも突然に①
「お、落ち着いて食べたらどう?」
「もぐ、そうはい……もぐ、いってもだな。ん、はむ、とにかく腹がすいていて、うっ!」
「いわんこっちゃない!」
パンを詰まらせたのか、胸部のプレート越しに胸を叩き出した。耳を穿つようにうるさい音が響いているだけで効果はない。
私は騎士のそばに駆け寄ると、「はい、ミルク」と木彫りのコップを差し出した。
「うっ、ごく……はぁ」
騎士はコップをひったくるようにして受け取り、すぐに飲み干す。大きく息を吐き、「助かった」と空になったコップをカウンターに置いた。
「お代わりもってくるね」
騎士の「ありがとう」という声を背にし、カウンター裏にある台所へ向かう。
この店は売り場、工房、住居が一緒になっている。一階は売り場と居間、台所。二階が工房、三階が寝室などになっている。ちなみに、売り場カウンターから直接、居間に行けるのだ。お店が暇なときはよく奥に引っ込んでいることが多い。
あの人、どこかの貴族に仕える騎士……だよね。
お代わりのミルクを用意しつつ、騎士の姿を思い返す。
騎士らしいはっきりとした言葉遣い。背筋はずっとピンとして伸びたまま。店内に一本剣が刺さっていたような錯覚を覚えるくらいだ。
「今度はゆっくり飲んでね」
売り場に戻り、ミルクをカウンターに置く。
「ごくっごくっ」
騎士は言うことを聞かず、あっという間に飲み干していく。
瞬く間になくなっていくミルクと、上下する喉。
そして首から肩までの引き締まった綺麗なライン。
それを引き立てているのは、ボロボロで薄汚れた長シャツとミニのプリーツスカート。長シャツは元々純白だったことが伺える。シャツの上に身に着けた胸部のプレートはところどころへこんでいた。
黒のプリーツスカートはところどころほつれており、プリーツはなくなっている部分が目立った。乾いた泥は模様のように付着していて、時々ぼろっと崩れて落ちる。
露出している脚だって、ところどころ赤くすりむいていた。固まった血は黒い。膝あてだって損傷が激しく、すさまじい戦いでもあったのかという感じだ。。
「申し遅れた。私はエレン・フォーディン。倒れていたところを救っていただき、本当に感謝している」
騎士はスッと立ち上がって腰に差していた剣の持ち手を握り、空いた手を胸にあてた。
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