魔本師サリーと女騎士エレン①
「サリー殿、なにやらいい匂いがするのだが」
魔本の山を抱えるようにして持ったエレンが私のもとにやってきた。カウンターの脇に置くように指示すると、エレンは簡単そうに実行してくれる。
私だったら魔本を置く瞬間、絶対ぷるぷるしてしまう自信がある。腰だって危ないかもしれない。力仕事の面において、エレンがいてくれるのは大助かりだ。
お礼を言ってからミルク入りのコップを渡す。エレンはコップを受け取るとすぐに飲み干し、「それで……」と続けた。
「あぁ、これはね、
エレンを雇ってからお客さんが来ない。今日が二回目の魔法の発動だった。
薄桃色のカバーと黄色のリボンが施された魔本だ。それを手に取り、「この魔法が載っている魔本だよ」と見せる。
エレンは相槌を打ってくれた。ただ、その視線は興味なさげである。
ぐぬぬ、まだまだ道は長いね。
「だが、良い匂いだと思う」
「っ! でしょ、でしょぉ!」
ちょっと前進? うへへぇ、やっぱ魔本は良いモノだよね……。
「サリー殿?」
「な、なに?」
エレンがこちらを覗き込んでた。少し耽ってしまったようである。気を取り直し、何でもない風を装って言葉を返した。
「次はどれを運べばいいだろうか」
おぉ、すごい。
目をそらし続けていた売れ残りの運び出しをお願いしていたけれど、予想より早く終わってしまったようだ。エレンの視線の先、入口近くの本棚がぽっかりと空いている。
「ちょっと待っててね」
エレンを売り場に残して私はカウンター裏の倉庫にやってきた。埃っぽい部屋だ。
天井に届きそうな高さの本棚がたくさん並んでいる。地べたには、売り場に出していない魔本が所狭しと積み上げられていた。
ここもいつか片付けないと。
倉庫に入ってすぐのところ、準備して置いておいた木箱をつかんだ。中には魔本が詰まっている。
めっちゃ重いんだけど。
ひぃひぃ言いながら木箱を引きずっていると、エレンがやってきて「私が持とう」と変わってくれた。どうやら待たせてしまっていたようだ。
やだ、素敵っ。
私は一息ついて汗をぬぐい、「さっき運び出して空いた本棚に全部入れちゃって」と指示を出した。
「サリー殿、ちなみにこれは――」
売り場に戻ってエレンが品出しを始めると同時。
エレンがとうとう魔本に興味を!?
「これらはさっきの魔本とどう違うのだ?」
がくっ。
で、でも、エレンから魔本の話題を振ってくれるなんて。たとえポーズであってもうれしいことだ。うん。
「それはね、泡系魔法が載った魔本だよ」
「泡……」
「そう、泡。ついこの間、王宮魔本師のサーレクル・アンディパレスっていう人がね、
「ってことで、話題になった魔法と似た魔法が載った魔本はよく売れるってわけ」
「ふむ、結構しっかりと営業しているのだな」
つい長く話過ぎてしまったようだ。しかし、エレンは感銘を受けたようにうなづいてくれた。
「マーケティングといってほしい♪」
ただ、感銘は魔本というよりお店経営の方に向いているようである。
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