記憶

「ねぇ、あの子が泣いているでしょ?」

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

なんで僕が謝っているのだろうか。K君がぶつかったきたのにぼくのせいにしたんだ。

でも、僕に発言権はなかった。ただただ大人の言うことに頷くしかなかったんだ。それが当時だった。僕は反論を言うのを諦めイエスマンとなった。たとえ実在でも冤罪でもはいとしか言わなかった。それが最も安全で最も簡潔だったからだ。

良かったことも悪かったこともない。ただただ時間ときの流れに逆らいたいだけのお年頃だったのだ。

大人は無情だと気づくことにそう時間は要らなかった。徐々に僕のせいにするクラスメイトが増加した。

大人は何も考えずに僕のことを責めた。さすが世界有数の過保護大国日本。

理不尽にも擁護派は現れなかった。地獄の時だけが流れる空間だった。


そんな時間が園二年、小学六年、中学三年。

義務教育範疇外になったのでそこで学校に行くのを諦めた。

それ以降も時間からは向かうようになってしまったのは、後遺症と言えるのではないだろうか。

そんなことを思い浮かべているうちに、サービスエリアにつく。

車を停めて降り、自動販売機でコーヒー一缶。そして、内部で特に需要のない土産品六人分を購入した。

コーヒーは冷たい体を温めるために買ったが、心まで温まるほど体に染みた。

これも誰かの願い。

そう思うと、三、四時間分のタイマーをかけた後、眠りについた。


僕がもし幸福な世界線だったら、僕がもしこんなことをしなかったら。


目玉焼きを作る音がする。

自分の手よりも明らかに小さい手だ。これが自分の自我で動かせるとは信じ難い。

廊下の手すりを掴む。自分よりも握力が小さいからかどこか異質である。


夢の中とはとても遅く進む。

私がリビングに着いた時、タイマーが鳴った。

陽は出ている。私はそれを確認した後、後方を確認し車を出発させた。


あの夢は誰かの記憶なのだろうが、誰の記憶なのか私にはさっぱりわからない。

ただただわかっているのは、このコーヒー缶だけが今、私の支えであることである。

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