泣き虫とイヤな予感
月刊 情報ジャーナル
発行所 チーム『人類の夜明け』
著者代表 シア
【プレイヤーキル(以下PKと略)多発について】
先日のアップデート後に多数のPKが発生している模様。一説によれば『性分』により攻撃的になったプレイヤーが増えた事が原因と言われている
確定ではないが、かなり信憑性は高い。これは運営による意図的なものなのかは謎であるが、我々はこれを利用した新たなイベントが用意されているのではないかと予想している
その根拠としては、プレイヤーキラーと呼ばれる者たちが徒党を組みだしたことによるものである。あくまでも予想であるため、プレイヤーの皆様は落ち着いて行動をして欲しい
以下に名前を挙げる組織は、プレイヤーキラーとして有名になりつつあるチーム(なのだろうか?)である
1つ目は通称『山賊』と呼ばれている者たちだ。皆が毛皮などの装備で統一されており、山賊の名の通り山岳部や森林エリアなどに出没が確認されている
基本戦術は『待ち伏せ奇襲型』であり、潜んでいると思われるエリアに近づかなければ出会う事もないだろう。また明らかな強者、あるいは多人数のレギオンパーティーなども襲われる事はないようだ
個人武力があまり高くはない集まりと言えるかもしれない。注意は必要だが、返り討ちにする事も可能だろうと思われる
なお、山賊たちの正式チーム名は不明であり、以下の者たちも同様である
次は通称『海賊』と呼ばれる者たちだ。某マンガに憧れてか、コスプレ装備に異様なこだわりがあるらしい
両側に角が付いたヴァイキングヘルムと思わしき物を被る者や、片目に眼帯を着ける者。手が有るのに、わざわざ鉤爪で隠す者
なかにはピシッとした白い軍服や、セーラー服を着たりする者がいたりして、お前らそれは違うだろと言いたくなる有り様だ。ちなみに1番多いのは、麦わら帽子を被る者たちである
クロスボーンの旗を掲げて襲い来るその戦術は『強襲型』。その武力を持って暴れまわる、ただそれだけ
個々人の能力が高く、何より逃げ場のほぼ無い海上エリアでの戦いとなるため危険度は跳ね上がってしまうだろう。そして海エリアについての移動だが、現在プレイヤーの取れる手段として近海を回る小船がレベルの高い木工職人から販売されている
だが海賊たちは巨大(小船と比較して)な船を所持し、時として大砲らしき遠距離攻撃まで行ってくる。これは仲間内に、よほど高い木工職人や鍛冶職人が居るのであろうか
何にせよ、襲われたくなければ海エリアには近づかない事である
最後は都市部に出現する『辻斬り』だ。彼らは徒党を組まず、単身で戦いを挑んでくる
街中にはNPCの衛兵が居り、治安を守っているにも関わらずだ。そんな彼らだから、出会えば高確率でこちらが敗北する
集団で挑まれると街の建物や地形を上手く利用して戦っているようだ。戦いに餓えた狂人たちにしては『頭脳戦』を駆使してくる厄介な者たちである
いわゆるナワバリが有るらしく、その場所によって襲撃者の名前が付くのも特徴である
さて長々と記してきたが、近々希望者を募り討伐隊を編成する動きが見える。これによりどのような展開になるのか、筆者も注目している次第である
12月某日 記
「へえ~、世間様は物騒なこって」
どうも。ポシェットであります
シアさんのチームが発行している、電子新聞とでも言うのかな? それを読んでいました
結構、話題になっていた12月のこの時期は、我々学生には期末試験のど真ん中です。ヒドイ成績など取ろうものなら、お母上からの小言が……ああああぁぁ
コホン! さてそれも終了いたしまして、ゲームの世界に戻ってきたらこの騒ぎでした。原因になっている『性分』とやらは、我々
サオトメじいちゃんやリックスさんは興味がありそうだったけど、進んで首を突っ込むほどでもないみたい
それじゃあ、何をしていたかと言いますと
生産職人の修行です。わたしたちのチームには料理職人のエンチェンさんや、錬金術師のエクトちゃん
それに鍛冶職人のジャックに、知り合いにはキツネ幼女の裁縫職人ことココちゃんが腕をふるっています。これに触発をされまして、わたしも何か手に職を付けようと思いました
それならば被らない職業が良いだろうと、色々と挑戦してみたのです。1番簡単な方法は、職人の先輩プレイヤーに教わる事なんですけど、これはねえ
わたしたちは、ちょっと名の売れたプレイヤーらしくてですね、色んな意味でご迷惑になりそうなのです。なのでNPCに弟子入りでもしようかなと思っていたのですが、こちらも……
「断固拒否します! 店ごと吹き飛ばされてはかなわん!!」
と言われました。あーそういえば、わたしには余計な称号がありやがりましたよ
【危険物取扱注意】
これね、モンスター相手のときに発動するとばかり思ってたんだけど、風竜ハラグィーの反応を見るにNPCの皆様にも効果があるようでありまして、まあことごとく断られました
仕方なく自力で木工などをやってみたのですが……
「あねは集中しないと、すべて大雑把になる」
ポーちゃんの指摘通り、まともな物は出来ませんでした。どうやら何となくでは、無理なようです
はい、あきらめましたよ。年末の忙しい時期というのもありますが、チマチマやってられっかい!
そんでですね、今現在、何をしてるかと言いますと
「あね、お鍋煮えたよ」
はい、遅めのクリスマスパーティー兼、忘年会です。クリスマスイベント中、わたしは忙しくしていて、参加を見送りました
その反動も有りましてか、年末年始は楽しんじゃえと宴会ざんまいです、ハイ。季節感を味わうために会場は氷雪の都こと、エイスブリンガルにある、わたしのお家
ふっ。ふふふ
もともと、この家は皆んなで集まってパーティーするためのハウジングを施しているのだ。今日は、その記念すべきお披露目である
クリスマスツリーはもちろん、お鍋もデッカいのを用意してるし、音楽を奏でる装置もある。メンバーもいつものチームメンバーだし、さあ気がねなく楽しむのだー!
「お邪魔してるわよ」
「こ、こんばんわ!」
おや、お客様ですかってシアさんじゃないですか、お久しぶりです。もう1人はモカさんだね、こちらはエクトちゃんの部屋によく来るから顔見知りだ
まあ、2人増えたからって宴会料理がなくなるわけじゃない。せっかくだから、食べてってくださいな……作ってるのはエンチェンさんだけど
あ、ネブラちゃん、お給仕なんてしなくていいから座って座って。この子、顔はエクトちゃんにそっくりなのに、性格はしっかりしてるんだよなあ
もう1人のモカさんの従者であるララちゃんは、シアさんとポーちゃんに挟まれて甲斐甲斐しくお世話されてる。2人とも子供好き(危ない意味ではない)だからニッコニコで、モカさんが申し訳なさそうにしているのが対比的だ
そんな感じで、てんでに盛り上がっておりますが、ふとシアさんが真剣な顔をこちらに向けた
「お楽しみのところを申し訳ないんだけど、今日は用事が有って来たのよ」
あ、何だかやっかい事の気配がする……シアさんの用事というのは、やはりというかPKについてでした
「それなら、さっきまでシアさんとこの新聞を読んでたよ。ゲームの中なのに物騒な話しだよねえ、ところで──」
「そう、読んでくれたなら話しが早いわ。その中に討伐隊の事があったでしょ、つまりそれに参加して欲しいのよ」
ありゃ、話しを逸らす前に言われたか。まあ、そんな事だろうとは思ってたけど
皆んなが困ってるなら、それでも別に構わないんだけどね。ただ、ポーちゃんとかエルくんのような若年者に物騒な事をして欲しくないんだよなあ
「あら、知らないの? PKは15歳以上でなければ、お互いに出来ないのよ。今までの対人戦とは内容がまるで違うから」
へえ、そうなんだ。でもさ、すぐ復活してくるなら討伐する意味なくない?
「PKをしたプレイヤーを討伐すると、ちょっとした報償が出るようになったのよ。それに討伐された方は、そのエリアにしばらく侵入禁止になるわ」
なるほど、それでプレイヤーキラーを討伐した方はPKにはならないの?
「どうやっているのか知らないけど、運営はちゃんと区別できてるみたい。まあ事前に討伐する事を届け出なければダメだけど」
そこまでちゃんとしてるなら問題ないかな
「まあ、ちょっとグロ耐性は必要かもしれないけどね」
うおい! 今、何かヤヴァめな事が聞こえやがりましたよ。説明、お願いします
「分かったわ、まず今までと違うのは部位欠損が発生する事ね。腕を切られたら、そのままぶっ飛んで行くわ」
「ブフォッ!!」
手羽先のからあげを食べてる時に、聞きたい話しじゃなかったよ。こりゃ確かに15歳以下はダメだわ
「それに、そこまでヒドい欠損だと戦闘不能で死亡扱いになるわね。一撃もらって即終了なんて事も有るのよ」
ははあ、なるほど。つまり現実に近い戦闘になるというわけですか、う~ん
「シアさん、ご存知だと思うけど、わたしのキメ技って……」
「もちろん知ってるわ。いざとなったら敵陣に放り投げてあげるから、思い切り散りなさい」
「いや、もう戦闘エリアごと儚くなりそうなんですが」
「……自爆の威力ってどんだけなの」
「え~と、まずは自爆と大爆発の合わせ技でしょ、それに称号の爆弾魔で2割増し増し。追加で両手に究極爆弾を持てば、倍々プッシュだよ」
あれ? 頭、抱えちゃったよ。成り行きでこうなったから仕方なくだよ、ホントに
「ま、まあどうしようもなくなったらお願いするかもね」
はいはい、了解です。ところで、うちのチームメンバーはどうするんだろ?
「サオトメじいちゃんは参加だよね?」
不参加なんて事が想像できません
「やれやれ、ワシは狂乱ほど戦闘バカではないんじゃがのう」
「どの口が言ってるんですかね」
じいちゃんとリックスさんが、軽く言葉のジャブを交えだしちゃった。明確な答えはもらってないけど、これは2人とも参加オッケーだね
ポーちゃんとエルくんは年齢制限で不参加で、エンチェンさんはどうだろう?
「あー、特に興味も無いしね。パスで」
「あら、報償の中には珍しい食材も有るのよ」
「いざ、行かん。まだ見ぬ食材を求めて!」
あらら、シアさんの言葉に乗せられちゃったよ。この辺は、まったくブレないエンチェンさんであった
「じゃあ、残るはエクトちゃんだけど……」
「個人戦闘の能力は低いので~。遠慮します~」
やっぱりそうなるか。その代わり、アイテムを提供してもらおう
もちろん、お金は払うよ……うん?
「そうよね。その方が良いかもしれないわ」
何だろう、シアさんがエクトちゃんの顔をみてモカさんの方にチラッと視線を向けてた。わたしの方も見て、アゴに手をあてて考え事をする仕草を見せる
シアさんの言い方に、少しだけ引っかかるものを感じたのは気のせいじゃなかった?
「とにかく、これで参加者は決定ね。さて、何が起こるのやら……」
また何やら不穏な事を言い出すシアさんに、わたしはイヤ~な予感がするのであった
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