泣き虫とシアの「我に策あり」

 今の状況を、一言で表すなら

「こりゃ、出番は無さそうだねえ」

 

 このエンチェンさんの言葉につきる。PKプレイヤーキラー討伐に参加をして山岳地帯に来たは良いけど、相手の人たち失礼だけど弱すぎない?

「待ち伏せなんて、バレていればこんなものよ」

 シアさんは当然とばかりに、お胸を張って仁王立ちである


「うわあああ!!」

「ぐはっ!」

「ちくしょう、何てパワーだ」

 などと油断していれば、体格の良い巨漢が向こうで暴れ始めました。その腕力で味方をなぎ倒し、こちらへと突進して来ます

「ちょっと!? 何であんな目立つのを見逃してたのよ!! ……攻めの性分を持つレンジャーなのかしら?」

 威風堂々としていたシアさん、今度は大慌てです。確かに気づかなかったなあ、今まで潜伏して機会をうかがっていたのかな

 ちなみにレンジャーというのは、野外活動に特化した職業で、屋外ならば盗賊のように気配を消してしまえるのだ


「うむ、ワシらも少しは働くかの」

 そう言う、サオトメじいちゃんだが動こうとはしない

「力任せのやり方は、より力の強い者が現れたらアッサリと制圧されるもんじゃ」


 ズウウウンンン


 突然、空からカタマリが落ちて来た。いや、それは虫のような翅と甲殻を持つ巨躯の自立型戦闘人形ゴーレム

 我がチームの絶対盾であるリックスさんだ。標的をあちらの巨漢に定め、真っ直ぐに突っ込んで行く

 やがて接敵すると、手四つに組んで力比べに。だけど勝負はあっさり終わった

「ほらの」

 じいちゃんの言葉どおりに、リックスさんの圧勝だ。上から押さえ込むと周りの味方が、一斉に襲いかかって巨漢のPKは消えた


「ぎゃああ!」

「今度は何ーっ!」

「は、速え!」

 おっと、次の強敵のようです。わたしの目の端にチラチラと小柄のPKが映る

 どうやらスピード特化した人みたいだね

「えーっ!? あんなのどうやって捉えたら良いのよ!!」

 シアさんが、また叫んでる。そんなに慌てなくてもいいのになあ


「ふむ、確かに速いが単調じゃのう」

 じいちゃんが言うように、スピードを活かしてフェイントとか使えば、もっと上手く戦えるのに

「ほれ」

 いつの間にか前へ出ていたじいちゃんが、何も無い空間へ剣を置いた

「ぐへらぁ!」

 そこに現れたのは、スピード特化のPKさん。じいちゃんの剣をお腹に受けて、くの字に身体を曲げてる

「そうりゃ!」

 そのまま剣を野球のバットみたいにして、PKさんを空中へと放り上げる。そこへ向かってミサイル発射、PKさんは爆散して儚いことに

「何で来る場所が分かったの!?」

「動きが単調だと言うたじゃろ。あとはまあ、戦場のカンといつやつなんじゃが……ゲーム風に言えば経験値の差かのう」

 驚いているシアさんに、じいちゃんが説明してる。実際にはあんな簡単な言葉じゃ説明できないんだろうけど、ああいうのは分かるから分かるとしか言えないんだよなあ

 それにしても、あの単身突撃上等だったじいちゃんが腕を上げたもんだ

「ハア、現実リアルでもこれだけ動けたらのう。仮想現実に依存するのも分かる気がするわい」

 じいちゃんの呟きは誰に語るでもなく、風に溶けて行く。若いわたしには分からない感覚だからか、あまり重くは受け止めなかった


「あらかた片付いたわね。よーし、残敵掃討しつつ撤収よ!」

 シアさんが宣言すると、あちこちから了解の声が上がった。結局、わたしの出番は無かったなあ

「何言ってるのよ、爆弾娘ボンバーガールの威圧感は、あちらには相当キツかったはずよ。うしし、狙い通り」

「い、威圧なんかしてないんだけど……」

「爆弾娘ポシェットが居るという事実だけで、向こうが勝手に萎縮してくれるのよ。もうちょっと、名声に自覚を持ちなさい」

「は、はあ」

 じ、自覚が無かったわけじゃないんだけど、まさかプレイヤーさんにまで恐がられてたとは思わないじゃない

「ハア、こっちとしては羨ましいくらいなんだけど?」

 ……なんか、ゴメンなさい


「あたしも何もしてないけど?」

閃光の火竜シャイニングサラマンダーも自覚が足りない!!」

 エンチェンさんが同じ理由で怒られてる。それにしても、スゴいアダ名が付いたねえ

「ハア、気にするならチームの報酬として受け取れば良いじゃない。分配は好きにしなさいな」

 さすが大チームをまとめるシアさんである。ありがたく、そうさせてもらいます

「ハイハイ、まだ仕事は終わってないわよ! 次の討伐に向けて会議よ、会議! あなたも参加しなさい、これは強制よ」

「仕方なしだね。じゃあ皆んなも……」

「ワシ、メンドーじゃからパス」

 さっそく裏切り者が出やがりましたよ。まあ功労者だから、サオトメじいちゃんはカンベンしてあげよう 

「じゃあエンチェンさん、一緒に……」

「うわあ、うわあ!」

 うお! 目をキラッキラさせながら報酬の食材を確かめてる。わたしの言葉は届いてないみたい、こりゃダメだ

「リックスさん! 戦闘訓練お願いしまっす!」

「リックスのアニキ!」

「よっ! 鉄壁の鬼神様!」

 リックスさんはシアさんのチームメンバーに囲まれて身動き出来なそう。人気者だねえ

 結局、会議にはわたし1人で参加しなきゃいけないみたい。こういうのは苦手なんだぜ、ちくせう


「面倒だから、ここで会議をやっちゃいましょう。次は海賊たちなわけよ、ヤツらは手強いから入念に作戦を練るわよ」

 海賊かあ、個々人の戦闘能力が高いって言ってたなあ。だけど、最大の懸念はそれじゃなくて

「とにかく足場の確保よ。つまり船が必要なのよ、船が」

 である


 どうやらシアさんは、知り合いの生産職の人たちに総当たりするみたい。シアさんは顔が広いから、おまかせで大丈夫かな

「何、他人まかせで終わらせようとしてるのよ。あなた、船が造れるスンゴいNPCとかに知り合いは居ないの?」

 う~ん、スンゴいNPCさんは居るけど、船を造るとなると……カボチャでしょ、幼女に少女と大酒飲み……は違うか


「ぶえっくしょん!」

「おや、風邪ですかヒルデどの。気をつけてくださいよ」

「AIも風邪をひくのか、ジャック?」

「……さあ? って、前にもこんなやり取りしませんでしたかな?」

「……忘れた」

「さいですか」


 なんて会話してそう。それはともかく、船となるとなあ……鍛治や裁縫で金属の部品とか帆とかは作れそうだけど

「デッカいのは必要ないのよ、今からじゃ準備の時間も足りないし。簡単に造れて小回りの利く足の速い船が理想ね、数も欲しいわ」

 となると、画一的な素材にすれば作業が早くなりそう……だけどねえ。職人さんたちの作品という物は割りと個性が出るんだよね

 船なんて大きい物ともなると、設計図通りとはいかないと思う

「……手当たりしだい職人たちに頼むしかないか。3Dプリンタみたいにはいかないわよねえ」

 シアさんの言葉に何か忘れてた事を思い出した感覚が頭によぎる

「……3Dプリンタ……コピー……!」

「何か閃いたのかしら?」

「あ、いや……実は」

 わたしの持ちスキルである【取り込む】と【形態変化】。これ実は、コピーが可能なスキルなのだ

 素材の性質が変わっちゃったり、細かい部分は再現不可能だったりするんだけどね。年末にやってた職人修行で久々に使ってみたから思いついたのだ


「あなたって人は……じゃあ、それを使えば同じ形をした木材なんかに加工できるってわけじゃない。組み立てだけで済むのなら、時間はそんなに取られないわね」

「あ、いや。あまり大きい物は……あ!」

「まだ何か隠してるの!?」

「あやややや」

 待って。シアさん待って、襟をつかんで頭をガクンガクン揺らすのは止めて 

「と、とりあえず、うちのチームハウスへ行って大先輩のちからを借りましょう」

「大先輩?」

 シアさんの頭にハテナマークが見えるけど、あなたも知ってる人……いや、NPCなんですよ


 ─◆─◆─◆─


 今わたしの前には、デッカイ光ウサギが丸太を飲み込んでは板材にして吐き出してる。シアさんたちは、その光景をポカンとした表情で眺めていた

 正体は霊合大精霊コンバインエレメンタルである。レイドバトルの時に神馬スレイプニルの姿で、わたしの前に現れそのままここに居着いていたのですよ

 以前、わたしの巨大化した姿でボスとして立ちふさがった時にスキルはまったく一緒でした。ならば、取り込むや形態変化も有るはずと試してみれば、これがビンゴ

 いやー、良かった良かった。わたしじゃ身体が小さくて、丸太なんか取り込めないからね

 ちなみに光ウサギの姿なのは、わたしのリクエストです。わたしの姿で、飲み込んだり吐き出すのを見るのはイヤだから


「は! 見とれてる場合じゃなかった。皆んな! 組み立て始めるわよ!」  

 シアさんの合図で組立作業が始まりました。多勢居るから、作業現場はとても賑やかだ

「お茶がはいったよ。順番に休憩しておくれ」

 エンチェンさんがお菓子とお茶を淹れてくれた。ここはチームハウスの中でも、最も景色が良い湖のほとりである

 そりゃ、お茶も美味しくなるわな


 湖を作業場に選んだのは景色を楽しむためではなく、船を浮かべて不首尾がないか確認するため。ここはゲストハウスもあるから、長時間ログインする人は泊まり込んで作業をするみたい

 ログイン時間は制限が有るから、気分的な問題なのかな。調理職人のプレイヤーさんたちは、エンチェンさんと一緒に野外レストランで腕を振るうそうだ

 なんか湖畔キャンプみたくなってきたなあ。こんな、のんびりで大丈夫なんだろうか


「不安そうな顔をしてるわね。ちゃんと策も考えてるのよ、これがそう」

 ニヤリと笑うシアさんの手には、プレイヤーにとって、とても馴染みの有るもの


「石ころ?」


 そう、もっとも安上がりな飛び道具。そして、その手軽さと同じく与えるダメージも小さい

 こんなので、どう戦うのか? 今度は、わたしの頭にハテナマークが浮かぶ番だった


 さて、シアさんの策とは?


 



 


 

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