泣き虫の光あれ

 その姿を真っ黒に変え、防御力を限界まで上げた魔皇樹だコン。スキル、ワルキューレの騎行で攻撃力は上がってるコンが、効果的なダメージは入ってないコン

 突破口を見つけるべく、色々な事を試しているコンが、今のところ有効な手だては見つかってないコン。さて、どうするコンか……


「~っもう! この語尾はどうにかならないコン!」


 どうも、ココちゃん製作のマントに仕込まれたイタズラのようで、効果発動時にケモミミと尻尾が生えてきました。それだけならいざしらず、語尾にコンが付くコンキツネとなってしまったのです


「ケ、ケモミミ!」

「うおおお! スクショ撮れ、スクショ!」

「ポシェットちゃん、こっち。こっち向いて~」


 おまえら! 戦闘はどうした! って先頭でパシャパシャ撮ってるのは!

「モモちゃん! これ、どういうことコン!」

 ぐるぐる渦巻きおさげのミニスカ忍者、モモちゃんこと同級生の美咲ちゃんに詰め寄る。彼女はマントの製作者であるキツネ幼女、ココちゃんの保護者的立場でもある

「多分、悪気は無いと思うよー。チームハウスに招待されたお礼にーって、一生懸命だったもん」

 うっ……そんな風に言われると、文句も言えぬ、ぬぬぬ

「それにねー、裁縫はスゴいんだけど付与術はまだ未熟みたい。お姉さんが厳しいから、泣きながらやってたよー」

「じゃあ、このミミや尻尾も?」

「うん、付与術から漏れてる魔力の影響っていうか呪いに近いかなー。妖怪なだけに」

「呪いって……コン」

 ひょっとして、怖いやつですかい


「うっわ、ホントだ。ポシェットちゃん、種族が半妖怪になってる」

 目を細めてジーッと見てきたスクルドさんが、そう言ってきた。もしかして鑑定された?

「うん、正解。これ気をつけないと危ないんじゃない?」

「げげっ! コン」

 進化したばかりなのに、また変わるんかいな。いや、今度は転職クラスチェンジに近いのかな

「アハハ、ようこそ妖怪こちらの世界へー。まあ大丈夫だよー、しっかり精霊である事を意識すれば、変わる事なんてそう無いらしいから」

 ホントに~? よし、信じたよモモちゃん。う~ん、わたしは精霊、わたしは精霊にゃむにゃむ

「おっ、戻った」

 スクルドさんの言葉に頭とお尻を触ってみれば、確かにケモミミも尻尾も消えてた

「や、やった。え~と、コン?」

「何で思い出したかの様にコンを付けるかなー」

 ちょっと気に入ってたのは内緒だコン。ココちゃんには、後でエンチェンさんのお菓子を持って行ってあげよう

 頑張って作ってくれたみたいだしね。さて、またモモちゃんにツッコまれないうちに戦闘に意識を戻しますか


 防御力が上がったとはいえ、属性の相性は健在のようでして、火とか光とかは有効みたい。それでもチマチマとしかダメージを与えられないようです

 そんな中で活躍しているのは、サオトメのお爺ちゃん。その身に炎をまとう霊機獣、炎駆と共に火属性の攻撃を繰り返してる

 これは光魔法の使い手として、負けてはいられない。早速、魔法を撃ち込もうとしたんだけど──


 ウオオオォォォ


 ──狙われてる!? そりゃそうか、さっき手痛いダメージを与えたばかりだからね

 敵愾心ヘイトはMAXなのだろう。その証拠に複数指定の闇魔法が、全部こっちに向かって来てる

「全力で回避ー!!」

 こちとらバフの起点なんだ、倒されてなるもんか。警告を発しつつ、全弾を空中高機動で華麗に回避

 スクルドさんやモモちゃんも近くに居たので巻き込まれてたけど、どうやら回避に成功したようだ。スクショを撮っていたプレイヤーさんたちが、何人かヤられたね

 追尾してこない魔法なんだけど、当たっちゃったか。尊い犠牲となりました


 しかし、これはチャンスなのではなかろうか。わたしがおとりとして攻撃を引き付けている間に、サオトメ爺ちゃんたちに攻撃してもらおう

 ヘイト管理というやつだね。本来は盾職タンクの仕事なんだろうけど、わたしでも回避盾なら勤まりそうだ


 ……ただし、この戦術だと問題が1つ有る


「じっくり攻めるのもいいけど、スキルの効果時間は大丈夫なの?」

 そう、スクルドさんの言う通りでワルキューレの騎行が時間切れしてしまう恐れがある。そうなるとバフが乗らない分、かなり大変な事になると思う

 もう1度、かけ直せって? 残念、強力なスキルには次回使用までのクールタイムが存在するのだ。スキルにより様々な条件が有るけど、ワルキューレの騎行は何とゲーム時間で1日に1回だけ

 つまり、あきらめたらそこで試合終了なのである。こうなったら、もう1度コンキツネ状態で魔法を連打するしかないかなあ

 回数制限は無さそうだけど、下手したら妖怪から戻って来れなそう。ちょっとだけ不安だ


「そこで、俺の出番だぜ」

「ひゃっ!」

 唐突に話しかけてきたのは、ヒルデセンパイと一緒に居たはずのエイルさんだった。気配を感じなかったから、ビックリしてしまった

 いつの間に背後に来たのだろう。この人……デキる! ニヤリと笑ったエイルさんが話すのは、自らのスキルについてだ

「ワルキューレの騎行はさ、各々で違うって言ったろ。俺のは防御系……なんだが、少し毛色が違ってな、つまり全回復なんだ」

 そりゃ、スゴい。一気に態勢を立て直せる、スゴく有能なスキルだね

 でも、それってHPとかの話しでしょ。クールタイムに何か関係が有るの?

「それが、有るんだなあ。全回復には状態異常も入ってる、そしてそれはクールタイムも含むって話しさ」

 何と! それじゃ、もう1回ワルキューレの騎行が使えるって事じゃないですか。そうだ、どうせならセンパイとスクルドさんも使ってしまおう、そうしよう

「あー、アネキのは相性の問題であまり意味が無いぜ。さっきも、大分苦戦してたからな」

 メビウスの魔法を消し去る闇魔法でさえも、相性の前では無力ですかい。まあ、一緒に戦ってたエイルさんが言うのなら、そうなのだろう

 センパイは魔皇樹と同じ、闇属性だからなあ。MP大量消費して、眠られても困るし

「わたしのは使用回数、うんぬんは関係ないんだ……準備もまだみたいだし」

 準備って……この期に及んで、まだスクルドさんは隠し球を持ってるのか。早く出さないと間に合わないよ


 ウオオオォォォ


 ハッ! イカンイカン、ヘイト管理を忘れるところだった。魔皇樹の攻撃がプレイヤーさんたちに散り始めてる

 仕方ないから、またアレ使うか

変化へんげ! コンキツネだコン」

 うん、ミミと尻尾が生えたね。魔法の攻撃力が上がってるみたいだから、撃ち込んでやりますか


「……うん? 何だろう、この違和コンは」

 いつも通り光魔法を使おうとしたんだけど、何か違う感覚が伝わって来る。え? ……そうなの? 分かった、やってみる

「我、精霊とあやかし化生けしょうなり。奇縁、合わさりて事象これ沸き立つなり」

 何か……言わされてる感が。実際、何かのシステム的な物に言わされてるんだろうけど、思考しているのは自分だからスゴく奇妙な感覚

 そういえば語尾のコンが消えてるなあ。口の中にも違和感がするし、何だコレ


「火精合身、紅炎の暴君タイラントプロミネンス


 自分では太陽光線ソーラレイを使ったつもりなんだけど、口から出たのは違う魔法。太陽の表面に伸びてる様な巨大なプロミネンスが2本、地上に出現した魔方陣から襲いかかる

 効果はバツグンみたいで、苦しそうに悶える魔皇樹


 自分の高揚感がハンパない。これに身を委ねてしまえば、精霊に戻って来れなそう


 それに、コレは……


「ポシェットちゃん、尻尾が増えてる!」


 ああ、やっぱりか。どうもキツネ魔法(勝手に命名)とは相性が良いみたい

 スクルドさんの驚く顔を横目に首を向ければ、確かに金色の尻尾が2本生えてた。それに口の中の違和感はモゴモゴするし

 これおそらく、犬歯が大きくなってるんじゃないかな。着実にキツネ妖怪へと近づいてる


 グオオオォォォ


 むう、コレでも防御を剥がせないか……って! 何じゃ、ありゃ!?

 

 魔皇樹の中心に凄まじい魔力渦が発生してる。アレ、メビウスの銀河爆発と同じ規模の大きさやんけ!

 ヤバい、ヤバい。打ち消すにもセンパイでは相性が悪いし、紅炎の暴君でも火力が足りない

 一斉に攻撃すれば、何とかなるかな……いや、ムズいだろうなあ


「ポシェットちゃん、お待たせ。準備完了」

 お? おお、スクルドさんの隠し球がいよいよ、お目見えですか。ん~? 何か大きいモノがスゴい速度で魔皇樹に向かってる


『ワオオオン! 流星雨メテオシャワー!』

 アレは天狼シリウスこと、狼形態のワンジじゃないか。しばらく見ない間に、さらに大きくなってる

 相性関係無しの天魔法を放つと、その巨体を活かして体当たりをぶちかます。うん? 何か、ワンジからこぼれた?


 ズウウウン


 体当たりの衝撃で、魔皇樹は横に倒された。その瞬間、魔力渦から極太の真っ黒ビームが空に向かって放たれる

 あ、危な~。ワンジが体当たりで向きを変えてなければ、あの極太ビームの餌食になってたよ

 それにしても、ワンジも大きくなったねえ。これがスクルドさんの隠し球だったのか

「いやいや、あの子には運んでもらっただけだよ。ついでに攻撃もしたけど」

 運んだ? そういえばワンジから、何かこぼれてたような。それって……え、人!? それも複数人って、皆んな目を回してるじゃない

 そりゃ、あの速度にしがみついてりゃそうなるわな。最後には振り落とされたわけだし


「ほらほら姉妹たち、しっかりしなさい。リーダーが見てるよ」

 スクルドさんが声をかけると、皆んな目をパチクリさせながら整列する。1、2、3……5人か、彼女たちNPCのワルキューレだよね

 持ってる武器はそれぞれ違うけれど、ヨロイはわたしのとソックリだもん。色は皆んな違うけど、そりゃ見れば分かるよ

 姉妹たちって言ってるしね。それに、何だか初めましてな気がしないんだよ、この娘たち


 わたしの前に1列に並ぶワルキューレたち。でも、言っては難だけどワルキューレがそろったところで事態が良くなるとは思えないんだよね

 この娘たちがワルキューレの騎行を持ってるなら、話しは変わるんだけど……あ、もしかして

「ほいほい、やっとわたしの出番だね。ワルキューレの騎行発動! これで人種ヒューマノイドのプレイヤーは一時的にレベルが上がってステータスが強化されます。そして幻想種アナザロイドは……」


 その瞬間、わたしの中を火の様な魔力が駆け巡る。髪の毛は金色に輝き、同じ色をした尻尾は9本に増えていた

「あ、ありゃ。妖怪そっちで進化しちゃったか、これは……どうしよう」

 なるほど、スクルドさんのワルキューレの騎行は幻想種を強制進化させるのね。これは、良いかも

「ふ、ふふ。わらわが燃やし尽くしてしんぜよう」

「うっわ。ポシェットちゃん、口調まで妖怪の影響を受けてる」

 だって、ねえ。何か気分がそんな感じなんだもん……さてと


「ワンジ、行くよ」

『ハッ!』

 進化したワンジの種族は天狗あまきつね。昔の僧侶が流星を見て、そう言ったそうだ

 いわゆる高鼻の天狗テングではなく、天を駆けるいぬという意味らしい……狼はどこ行った? もしかしてイヌ科繋がりで、わたしの進化に引きずられたかな

 そして、わたしの種族は空狐くうこ。神通力(魔法)において最高峰の種族であり、自在に使いこなす事が出来るらしい

 その存在は精霊に近いらしく、この種族に進化したのも必然だったのかもしれない。以上、後で語られたスクルドさんによる鑑定の結果でした


 さて、魔皇樹が転けてるうちに最強魔法を叩き込んでやろう。おっと、その前に全体チャットで警告しないと

『ゴッツイ範囲魔法行くよ。皆んな、離れてー!』

 態勢を立て直される前に撃ちたいからね。足の遅い人には逃げながら避けてもらおう


流星砲弾メテオキャノン

 ワンジの流星が魔皇樹に降り注ぐ。10個のソレは、着弾後に爆発した

 これだけでも、かなり効いていると思う。でも、まだだ

 頭に魔法を発動させる言葉が浮かぶ

「臨む兵、闘う者、皆陣ならべて前に在り。狐流魔法、獄炎監獄ヘルファイアプリズン

 9つの巨大な炎柱が魔皇樹を取り囲む様に地面から吹き上がる。やがて炎柱は、魔皇樹の周りを高速で回りだし、ついには炎壁となって完全にその中へ閉じ込めてしまった

 あそこは、かなりの高熱だろう。これだけでもダメージは大きいはずだ


 でも、仕上げが残ってる


「光……あれ」


 両の手のひらの上に出現した光球が


 炎の監獄の中へフヨフヨと飛んで行く


 そして炎壁へと吸い込まれると


 激しい閃光が辺りを包み込んだ


 遅れて来た爆音と衝撃が、その威力を証明する


 ガオオオォォォ


 まだ息の有る魔皇樹の木肌が剥がれ落ちた。ついに、その堅固な防御を突破したのだ

 だが、それは魔皇樹最後の攻撃を呼び込む


 その巨体による体当たりが


 闇魔法と共にポシェットへと迫るのであった

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