泣き虫と幼女のイタズラ
世界樹
それは大地に深く根差し
植物たちを庇護し
その生い茂る葉は
落ちて大地に活力を与える
それはこの世界を整えるための
大いなる理
魔皇樹
それは命失いしモノのため
自ら闇に堕ちた世界樹
その身に亡者の無念を溜め込み
想いが彼岸にいたるまで
この世界にとどまる事を許す
慈悲深き存在
日下と泉下の調停者は倒れた
うつしよの者たちよ
かくりよに踏み入りたくば
その守護者にちからを示してみよ
新たなる道は
その先に開かれん
むむむ。魔皇樹の役目を語っているPVのようですが、何やら倒してはいけない様な文言が入ってる
でも、守護者って魔皇樹の事だよね。力を示せとは倒せって事だろうし、プレイヤーを惑わす作戦か何かかな?
「多分、裏妖精郷が開放されるんじゃない? 一般的には知られていないから」
なるほど、つまり、守護者である魔皇樹を倒す事が開放の条件であると。このレイドバトル自体が裏妖精郷のために用意されたというのが、スクルドさんの見解か
だったら、ビミョーに攻撃しにくい事を言わないで欲しいよね
さて戦闘が始まりました。魔皇樹の攻撃方法ですが、枝による通常単体攻撃
標的指定型による闇魔法の複数攻撃。そしてやっかいなのが根っ子による、なぎ払いの範囲攻撃
根っ子さえ気をつければ、割りとシンプルな方法だ。あと瘴気も出てるけど、これはエル君たちを中心にした結界で防げてる
ところで相方のファラちゃんが居ないと思ったら、瘴気の中を元気に飛び回ってた。そっか、吸血鬼だから結界に入れないし、むしろ瘴気を浴びた方が元気になるのか
見たところ被害は出てなさそうなんだけど、プレイヤーの皆さんの顔には焦りが浮かんでる。一体、何が起こっているのだろう
「くっ! 固ってえ」
「アカン、魔法も通らへんで」
「おーい! バフくれ、バフー!」
あー、なるほど。攻撃が単純な分、防御が固いのか
こりゃ
「防御力特化のボスかあ、どっかで見たなあ」
「あー、魔銀の時かな」
そうそう、そうでした。賢者の石を作るため、素材を求めて裏妖精郷に行ったんだった
その時、戦ったのが魔王と呼ばれる存在。目の前に見えていたのは幻で、本体は湖の中だったんだよねえ
そういえば最近、見てないなあ
こっちに現れないという事は、やりがいのある仕事なのだろう。ぜひとも、ゲームを盛り上げて欲しいものである
「出来ましたぞ」
すっかり魔皇樹に気を取られて、ジャックの事を忘れてたよ。修復されたヨロイと槍なんだけど……これは!
「少しばかり壊れ過ぎておりましたので、修復に時間がかかりました。量産品質ですが、それでは寂しいので鍛治スキルの改修を使い──」
「そっちの説明はいいから! 時間がもったいないの、概要をお願い」
「……仕方ありませんな。では」
【
弱点であった自動攻防システム稼働中に、魔法の射出が出来ない点を改善いたしました。これで、アスラモードであっても魔法攻撃が可能になります
防御力も少しではありますが増えました。他に大きく変わった点はございませんが、1つだけ
キツネ殿が作ったマントが付属されております。ああ、キツネ殿というのはモモさんの知り合いでして
え? ご存知ですと? ……そうそう、そうです、そのキツネ幼女殿ですぞ。それでですな、そのマントに刺繍されている紋様には魔力が走っておりまして、様々な効果が有るそうです
え? 効果の説明ですか? ワタクシ裁縫は専門外でありまして……まあ、悪い事にはなりますまい。えー、説明を続けます
【
これぞ、新しき力として
そこはご注意を。そして大太刀から受け継いだ精霊特攻と、専用装備化機能が搭載されております
専用化の利点としてはステータスの向上などですな。その代わり、
ささ、どうぞどうぞ
以上がジャックによる説明。なるほど確かにヨロイは、あまり変化が無いみたい
そして、キツネ幼女ことココちゃんが作ってくれたマントだけど、白地に金糸で刺繍がされてる。マントの縁を彩るように縫われており、デザインされているのはブドウの蔓かな?
唐草模様に見えなくもないが、西洋的な感じだ。あと、所々に炎の紋様みたいなのが見える
キツネ火かな? よく分からないから、キツネ紋様とでも言っておこう
さて、槍の方は布に包まれてるので開けて見ると……なんじゃ、こりゃ!
全体が白銀に輝き、所々で知らない文字がポウッて感じで明滅してる。バランス良く配されたそれは、まるでこの槍の脈動の様だ
この文字って何だろう?
「ルーン文字っぽいものですな。ハッキリ言ってしまえば偽物ですが、カッコ良さ重視です」
……あ、そう
真ん中辺りに持ち手があり、両端に行くにつれ細くなっていて先端には水色で尖った六角柱の水晶が……浮いてる!?
「姉君の使い方は刺突や斬撃よりも打撃がメインですので、穂にはそちらを採用しましたぞ。柄にくっついていないのは、ちょっとした仕掛けがございまして『回れ』と念じてみてください」
む~、回れ! おわ、クリスタルが回転しだした。ドリルみたいにして、敵の防御をこじ開けれるかな
「耐久性は?」
「そのクリスタルは特別製でして。まあ、とてつもなく硬いファンタジーな石だと思ってもらえれば」
……あ、そう。NPCによるメタ発言、いただきました
変な機能が搭載されている槍だけど、そんなモンをまとめてブッ飛ばす様なものも付いてるんだよね
「ジャック、これって……」
槍全体を覆う
恐いので今も包んでいた布越しに抱えて持ってる
「それこそ、この槍を専用装備たらしめるものです。とにもかくにも登録をば……オーケーですぞ、では握ってみてください」
え~! このトゲだらけの蔓薔薇が巻き付いた槍を? じゃあ、そ~っと。うわ、蔓が動いた! え、何コレ?
「登録者以外が持てば、そのままトゲが刺さります。登録者の姉君ならば、蔓の方から勝手に避けてくれますぞ。面白いでしょう? 植物に見えますが、実は金属素材を使っておりますので滅多な事では切れません」
確かに面白いけど、もっと攻撃力が上がる様な仕掛けでも良かったんじゃないの?
「作品というものは作者のアイデンティティを現すのです。その薔薇はワタクシの美的感覚そのもの! 実用的かつ、美しさを追及するのがワタクシのモットーなのですぞ」
……あ、そう
ジャックの美的感覚はともかく、これで装備も整ったね。うん、ちゃんとしっくりくる
「ジャック……その……アリガト」
そっと、ジャックを見てお礼を言ったら、ポカーンて顔してるよ。何よ、わたしがお礼を言ったら悪いの?
「い、いえいえいえ。まさか、姉君から感謝をされるとは思ってもいませんで……あのー、この後、罵倒されるとか? それとも蹴られるのですか?」
「わたしの事を何だと思ってるのよ!」
ゲシッ!!
「コレコレ、コレですぞ。やはり姉君はこうでないと」
蹴られて納得すな、この変態が!
スクルドさんの方を見ればプルプル震えて、笑いをかみ殺してるし。とんだ恥さらしだよ
「仲が良いんだね。善きかな、善きかな」
何でそうなるのよ、まったく……ところで
「もう、スキル発動させていいよね? 装備は整ったし」
「そうだね、いよいよ出番だよ。ハリきって行こう!」
ようし。じゃあ、スキル『ワルキューレの騎行』発動だ
バフの上昇率は20%
範囲内のワルキューレ1人あたり(発動者のわたしは除く)が10%で3人いるから、攻撃力、防御力、魔法攻撃力が合計50%アップ
戦意高揚で命中率30%アップ
同じく戦意高揚で回避率20%ダウン
これが、わたし含めプレイヤーさんたちに乗るバフである。つまり1.5倍、なかなかのものだと思う
「おお? 攻撃が通りだしたぞ」
「ポシェットちゃんのスキルか!」
「ナニナニ? ワルキューレの騎行!?」
バトルアナウンスにより、皆さんに認識されたようです。さて、わたしも攻撃に加わるか
「
5本のビームが魔皇樹を貫く。うん、アームも槍も正常に働いてる
ウオオオオオオォォォ
うん? 何だか魔皇樹が苦しそうだ。こちらは光属性で、あちらとは相性が良いとはいえ、かなり効いている気がする
「アハハ! ポシェットちゃん、何ソレ。すんごくカワいいよ」
スクルドさんや、何ぞおかしな事が有りましたかの? おんや? 頭とお尻に違和感が……うわわ!
何と、自分にケモミミと尻尾が生えてるではないですか! 何で、いきなりこうなった!?
「マントの刺繍が光ってるよ。キツネさん、こんなの仕込んでたんだ。多分だけど、さらに魔法の攻撃力が上がってるんじゃない?」
そ、それはうれしいサプライズだけどミミと尻尾は必要だったのだろうか? ……まあ、今さらだしこのままでもいいかな
少しばかり注目されてるけど、気にしないでおこう
形勢は有利
このまま行けば──
グオオオォォォ
──!! 突然の咆哮と共に、魔皇樹はその身を真っ黒に染めた。これ見覚え有るんだけど、まさか……
「湖が黒くなった時と同じだね。防御力が跳ね上がったよ、まったくやっかいな」
スクルドさんの言葉に、やっぱりかと思う。このままでも攻撃が通じれば良いけど、そう甘くはないだろうね
希望が見えたとたんにコレだ。何とかして突破口を見つけないと、こちらはアイテムやMPがジリ貧になって押し負ける
暗雲たちこめる未来に光は射すのか
金色に光る尻尾をポシェットはギュッと握りしめる
「ここまで来たら、もう負けられないコン!」
……あれ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます