第41話 対 古龍

 二人は管理センター内に入る。また、センター長から聞かれた。


「で、今度は何よ?」


 レイラとリステアは顔を見合わせ、リステアが話し始める。


「センター長が古参と呼んでいる古龍が、ダンジョン探索を依頼したラギンでした。最深度の階層で、今戦いが起こっています。冒険者たちでは歯が立たず、転移して戦闘から離脱することにしました。そこで転移したら、この次元に来ちゃいまして」

「戦況は最悪なの?」

「正直、古龍への攻撃が無効化されているように感じます。武器も魔法も弾き返されて、有効打がないのです」

「アンタたちの次元には、有効な武器があるはず。でも、探す時間がないわ。・・・やっぱり、僻地転移が得策なのかも。しかし、厄介ね、あの古参。ホント迷惑してんのよ。管理センター総出で向かうのもアリかも」

「どれくらい魔物管理されてるんです?」

「ん?アンタたちの世界の半分を1週間で、どうにかできちゃうくらい」

「それは困ります。まず、階層に入りきれないし、ギュウギュウでパンパンに詰まっちゃいます」

「そりゃ段階は踏むわよ」

「段階踏んでも困ります。それに古龍が変なブレスで待ち構えてるので・・・」

「わー、アレ吐き出してんの?アレ、溶けるのよ。古参はもちろん耐性あるけどさ、不平等よね」


 レイラが割り込んだ。


「お話の途中で申し訳ないが、あまり時間かけると全滅の可能性があるので戻る方法を教えてはもらえませんか?」

「あ、そうね。そこの扉に入るだけ。・・・アンタ、イイ能力値ね。ウチに登録しない?子供でもいいわ。すごい適性と能力が化ける子が生まれるわよ」

「・・・そうなんすか。結婚まだなんで、子の話は何とも」

「覚えておいてちょうだい」


 リステアが聞いた。


「あ、転移で戻ったとして、即ブレス浴びる避けたいんだが、何か対策知りませんか?」

「どのくらい長くブレス吐いてた?」

「深い一呼吸分は吐き散らかしてた感じです」

「それなら、当分大丈夫よ。今、こうしている間がアッチの数倍の時間過ぎてるから、古参は当分吐けない」

「うわっ、急いで戻らないと!」

「あの僻地転移が無駄になってないといいわね。もし残っていたら、体に張っても、飲ませても面白いわよ」

「覚えておきます!」


 リステアとレイラは、センター長に礼を言い、転送用魔法陣部屋に転移中、離れないよう手をつないで入った。


 第30階層に戻った二人は、酷い惨状を目撃した。

 ブレスにより赤絨毯は残っておらず、焦げた状態の床面に、古龍に引き裂かれたであろうノルチェンの遺体と古龍の口元にはゴンブトが垂れ下がっていた。

 他の冒険者たちは疲弊しており、なぜ地上に転移しなかったのかが分からない。リステアとレイラは静かに冒険者たちの元へ移動した。


「何をやっておる!地上に戻ったのではないのか?」


 ズフィッチが聞いてきた。

 リステアが答える。


「転移したら、移動先が魔物管理センターの別次元だった。転移用紙が混ざってたみたい」


 それに対してラドヤが割り込んだ。


「あの揺れた時だな・・・。こちらは惨状になってしまった。ブレスが収まってきた頃、あの二人が特攻したのだ。先走り過ぎで無計画だ」

「残っている冒険者たちは、転移できたでしょ?」

「それがな、古龍の瞬間的な金縛りを受けてしまい、まだ指先の自由が効かんのだ」

「アシィドは、どこに?」

「どこかに隠れているようだ。死体は見当たらない」


「ちょっと待って」


 リステアは、まず[王室調査隊]僧侶の麻痺を回復させた。その後、僧侶により冒険者たちを麻痺回復魔法を一斉にかけ、動けるようになった。

 それを見逃さない古龍は、大きく足踏みをして冒険者たちを転がし、身動きを取れないようにする。その間、ゴンブトの体を吐き捨て、冒険者たちに迫りくる古龍。


「まだ身なりのキレイなお前から頂こうか」


 古龍は動けないエリスを噛みつこうとした。


 ガキィィン!


 潜んでいたアシィドが、古龍の目を狙い攻撃した。しかし、まぶたに弾かれる。それもまた好機。

 パラジが叫んだ。


「土のこぶし!最大隆起!」


 地形操作により床が隆起し、古龍の顎を激しく突き上げた。よろめく古龍に対して、ルイターとルコットが瞬時に魔法を重ねた。


「上昇気流!」

「旋回風!」


 二つの流れる風は合わさり、斜めに押し上げる効果が増し、古龍の巨体を横転させた。


「ほぉれ、いくぞぉ~!重力魔法!破壊加圧!」


 ルイターが、ラギンに試した魔法を古龍の頭部に狙いを定め、圧力をかけた。

 頭部が押し潰される古龍は、激しく暴れ、胴体や尻尾をバタつかせ抵抗している。


「姫君、ご無事でしょうか?」

「え!?」


 アシィドがエリスに対しての言葉だった。


「私は姫などではありません。王室に仕える者」

「・・・そうか。時間が経ち過ぎて、記憶が混ざる。そなたは姫君の生まれ変わりのようだ」

「絵画にあった人のことですか?」

「道化を兼ねた護衛、宮廷を魔物から守っていたのに、魔物になっているこの体。宮廷を破壊し、国を滅ぼしたあの古龍を滅殺せねば・・・刃が通じぬとも手段があるはず」


「危ない!」


 モクレンがエリスの前に飛び出し、古龍の荒ぶる尻尾の身代わりとなった。気を失うモクレンに僧侶が回復魔法を施す。


「そなたは、よい護衛がついている。このアシィドも主に報いなければ・・・」

「アシィド、我々が持つ手段がひとつあります。この場だけでも、共闘といきませんか?」

「何を案じている」

「我々の仲間が持つ魔法陣の紙があります。これを古龍に貼り付け、転移させます。今は、これが最善だと」

「・・・命じなさい。このアシィドに命じるのです。姫君の生まれ変わりの方」


 エリスはラドヤから僻地転移の紙を受け取り、冒険者たちでは近寄れない古龍に対して、アシィドに託すことにした。


「アシィド、お願いします。この僻地転移を古龍に貼り付けてください」

「仰せのままに。この命はあなたのために。ひとつ我儘わがままを聞いてもらえるか?」

「何でしょう?」

「そなたの名前を教えて頂きたい」

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