第39話 到達した最終階層

 [陽だまり]とゴンブトが見ている絵にエリスが近づく。他冒険者たちも隊列を崩して、絵に集まった。


「そうだな、よく似てる。他人の空似だろうけどさ」

「ん~、そうかな?」


 エリスはよく分からない表情をしている。今度は少し離れた絵の所で、リステアが叫んだ。


「ちょっとこっち来て!」


 ぞろぞろと移動し、離れた絵の所で絶句した。


「・・・クラウンの兄弟だ」


 この屋敷にクラウンの兄弟を始めとする大道芸人の集合した絵やそれぞれの肖像画が複数飾ってある。

 ピレンとゼピンが言った。


「そういや昔、旅商人から聞いたことあったよな。南方の国には宮廷があって、専属の大道芸を雇える程のとんでもない大富豪」

「あ~、聞いたことあるな。多種族の集まりで、大道芸と王様の護衛もしてんだよな」

「じゃぁ、なんだ、アシィドって用心棒か?」


 この会話にノルチェンが入ってきた。


「アシィドは王様家族を守護してきたから、姫に似たエリスには忠義を尽くしている感覚なんだろ」

「そう考えた方がしっくりくる」


 皆がエリスを見た。


「な、なんです?私の出身は南方とは違います」

「そりゃそうだろ。時代が違いすぎる。この手の絵画を鑑定したことあるが、数百年は経ってる」


 ノルチェンは、そう答えた。

 また、冒険者たちは進みだした。モンスターは出ず、アシィドの気配すら感じない。通路には絵画がたくさん飾ってあるが、大きな絵が見えてきた。


「これが原因で没落したんじゃないのか・・・」


 他の絵画にはない大きさの内容は、宮廷がドラゴンに破壊されている場面。逃げ惑う姿と戦う姿。しかし、その姿に対し、ドラゴンの比率がおかしなくらい大きい。


「まさか、古龍」

「我々が見た大きなドラゴンは、古龍しかいないから、そう思ってしまうがな」


 絵画を見て会話をし、緊張を解いていた冒険者たちが、この推理で緊張感が高まった。大きな絵画に気を取られていたが、近くに下り階段があった。

 とうとう、最終の第30階層が目前にある。ラギンもしくは古龍が絡んでくるのは間違いない。また、アシィドに設計仕様書が奪われたままで、階層主はアシィド継続のようだ。下り階段は開放され下りられるようになっている。もう進むしか冒険者たちには残っていない。残り1階層分を放棄して地上に戻ろうにも、必ずラギンかアシィドに妨害されるだろう。

 意を決した冒険者たちにゴンブトは声をかけた。


「よし、下りるぞ」


 皆で階段を下り始めた。


「長すぎない?」


 ひらすら、まっすぐ下りる。それがずいぶん続いている。


「膝が抜け落ちそうだ」


 [陽だまり]たちが痛みを訴える。しかし、他冒険者たちも、膝の力が抜けて階段を踏み外しそうになるくらい疲労がたまる長さ。


「お、明るくなってきた」


 ようやく下り終え、下りた第30階層。

 地下とは思えない、広く天井の高い階層。床は一面赤絨毯。謁見の間と言うのか、宮廷の部屋と言うべきか。冒険者たちは、警戒しながら中央に進む。中央正面には二段差分高く背もたれの高い赤い椅子がある。


「これは、玉座なんだろうな」


 ノルチェンがつぶやいた。


「おぉ~、冒険者諸君、とうとう第30階層まで到達したんだな、おめでとう!しかし、数がずいぶん減ったな」


 しっかり警戒していたのに、どこからか急に現れたラギンとイザベルがいる。


「この第30階層の階層主は誰かな?我々のために玉座を二つ用意してくれてありがたい。階段は長いがな」


 冒険者たちは黙っていた。


「おいおい、こちらが質問しているんだよ。この階層主は誰だ?」


 ゴンブトが答える。


「設計仕様書は奪われたままだ。知ってるんだろ?」

「階層主を競い合う冒険者たちが奪われたのか?嘆かわしい」


 煽るラギンに対して、パラジが仕掛けた。


「大地の足枷あしかせ!」


 パラジは両手をギュッと握り、こぶしをコツンと合わせた。ラギンの足元から、ゴーレムの手が伸びラギンの両足首を掴んだ。


「お、なんじゃ?」


 ラギンは足が固定された。それを確認してモレニが魔法を重ねた。


「重力魔法!」


 ラギンのへそ辺りに小さな光の玉が現れた。それが上下にキュッと音を立て、伸びた消えると同時にラギンを中心に直径2m範囲に円柱状の淡い光が包み込み、ラギンが上から押し潰され始めた。それを確認したモレニはさらに魔法の重ね掛けを試みた。


「破壊加圧!」


 ラギンを上からだけでなく円柱が次第に小さく狭く絞り込みだした。顔だけでなく、腕からも出血し始めラギンが声を出して苦しみだした。


「お前さんには、まだ余裕があるだろ」


 モレニはラギンが古龍になる前に、瀕死レベルの攻撃を与えたかった。


「モレニよ~、補助かけるぞ~」

「頼んだぁ~」


 ルイターが魔法を唱えた。


「極限真空!」


 円柱状の重力魔法範囲に絡みつくよう高速の風を起こし、円柱内の空気を吸出していく。ラギンはさらに出血が激しくなり、眼球が少し飛び出したようになった。


 冒険者たちは、魔法効果が弱まった時にいつでも攻撃に飛び出せるよう身構えている。イザベルはただ見守っていた。しかし、何を仕掛けてくるか分からないので、一部の冒険者は[サンピラー]を守るよう配置についている。


「様子が変わった、注意しろ!」


 モレニが声を出した。円柱状に包まれた部分に真っ黒なすすが現れだした。やがて、煤が円柱内を満たし円柱自体がひび割れ崩壊した。


「キャヒィィィィ!」


 けたたましい叫び声がした瞬間、潜んでいたアシィドがラギンがいる付近めがけて大鎌を振りかぶって飛びかかってきた。

 それを見たイザベルは、白に近い水色の体表のドラゴンへ瞬時に変化へんげし、翼でラギンを包み隠す。当然、イザベルドラゴンも重力と真空魔法の影響を受ける。

 アシィドは、構わず大鎌を振るった。

 イザベルドラゴンは声を上げる間もなく、首を落とされた。体は赤紫の炎が包み込み、切断面は吹き出す冷気の勢いにより、イザベルの灰が周囲に撒き散らされた。


「ぉ・・・ぉ・・・ぉぉ、イザベルよ。最後まで無力だったな。本当に力を授からなかった。力というのは絶対的なものでなければならない」

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