第38話 魔物が作った階層

 代表してルイターが話を始めようとした時に、トコピが割り込んだ。


「すまない、大事な話だと思うのだが、それを聞く前に今この空間に姿の見えない存在に対して見聞きできないようもう一段階の結界を張ってくれないか?」


 それに対してラドヤが言った。


「我々と少し違う魔法体系のルコットに頼もうか」

「ん、やりましょ」


 ルコットは食堂範囲に結界を張った。


「感謝する。第28階層に入った時にここの冒険者とは違う匂いがあった。それを探っている時に三人の姿が消えたんだ」


 トコピが伝えた後、ルイターが話し始めた。


「リステア・パラジ、そしてこのルイターが姿を消したというのは、強制転移させられていたからだ。場所は、別次元。三人とも背中を触れられていた。そして、魔物管理センターという奇妙な場所に着いた。狙ってそこに飛ばされたかは分からない。意図が不明なので。その魔物管理センターには、このダンジョン含め複数場所に出現するモンスターが育てられ転送する目的の施設だ。我々は非常に驚いたが、そこを管理するセンター長という存在もまた驚いていた。異種族が来る所ではないとね」


 続けてルイターが話した。


「センター長が言うには、古参な依頼主から要請を受けモンスターを育てている。そして送り込む。それが古龍だそうだ。変化へんげした姿の名前がラギンということ。もうひとつ重要な話がある。我々三人がこちらに戻される際、勝手に飛ばされてきたヤツを送り返したばかりだと言われた。見た目の特徴から、おそらくアシィドだ」


 冒険者たちの目の色が変わった。また同時に寒気もした。

 そして、ラドヤが説明を始める。


「三人が消えた後、炎のムチが飛び交って捜索どころじゃなかった。モクレンが勇敢にも懐に飛び込んだ瞬間、アシィドが現れた。モンスターが背中から斬られ、上半身が崩れ、赤紫の炎が上がった。もちろん灰になった」

「アシィドは襲ってこなかったのか?」

「そこなんだ。モクレンの身を案じて、エリスが加勢するとアシィドは設計仕様書の宣言をして離れたんだ」


 皆がエリスを見る。そして、ルコットが尋ねた。


「エリス、護符とか持ってんの?」

「いえ、王室から頂いたネックレスはありますが、加護のある物は何も。前もアゥカリは攻撃してこなかった」

「・・・知り合いじゃないよね」

「クラウンという職業であっても相手はモンスター。接点がないのです」

「そうだよな~、他に王室とヤツらが言ってた"宮廷"と関係があるか、って一般冒険者じゃ知りようがないしさ」

「えぇ、宮廷がある国は、遥か遠くなので頻繁に交流があるわけではないですし」


 ゴンブトが会話に割って入った。


「結局よ、アシィド倒せばいいんだろ?あの大鎌さえ奪ってしまえば、前みたいな連携でとどめを刺せばいい。今日はこの辺でいいか。疲れた、休ませてくれ」


 まだ話すべきことがあったが、今日はこの辺りで中断し休むことにした。

 宿泊施設に移動した[サンピラー]は、ルイターから説明を受ける。別次元には僻地と呼ばれる想像も出来ない魔物が住む場所があり、そこにラギンを転移させることが望ましいこと。ただ、アシィド対策は保留のままだった。


 翌日、冒険者たちは第29階層が出来ているのか確認のため下りることにした。改めて装備品の確認をし、いつアシィドとの対戦になってもいいよう覚悟を決めていた。

 第28階層を横切り、下り階段に近づくと、すでに階段は開放されていた。


「おーし、慎重に行くぞ」


 ゴンブトが先頭をかって出て、最後尾はモクレンが担当することになった。

 他階層に比べると、角度が急な階段を下りる。下りた先には、とても深い青い色した絨毯が見えた。そのまま進むと左側には中庭が見え、陽の光があるように明るく、右側は通路の壁になっている。手すりや壁の装飾は気品が感じられる。


「なぁ、エリス。王室内ってこんな感じか?」


 ノルチェンが尋ねた。


「いえ、王室はもっと質素です。このような装飾の綺羅びやかさは見たことない。どこの物なんでしょうね」


 エリスが通路の欄干部分に触れ、身を乗り出し中庭を見ようとした。


「おぅわっ!何かある!」


 欄干の少し先に、ふにょふにょとした膜のような層があり、外には出られないし飛び出せない。


「蜃気楼みたいな実態がないものなのか」


 冒険者たちは、さらに進むと、右側に扉が見えてきた。確認のため、ゴンブトが取っ手を引いた。まったく動かない。今度は押してみる。それでも、開こうとはしなかった。


「ちょっと見せてくれ」


 ノルチェンが鍵穴を覗いてみる。


「これ、鍵の構造になってない。扉があるだけで、この扉自体も装飾品だ」


 通路には、他にもいくつか扉があったが開くことがなく、ただ取り付けてあるだけだった。また、通路も分かれている箇所もあったが、膜のような層があり進めなかった。今のところ、一本道の通路をひたすら進むだけである。

 どれくらい時間が経っただろう、慎重に調査しながら進むと、絨毯が赤茶色に変わる。その通路は左右壁で絵画が飾られていた。山や森、庭園が描かれており、建物外観もあった。いくつか見ていると肖像画に変わった。おそらくこの屋敷に住んでいた人々の個人、家族の肖像画がある。


「なんじゃぁ、エリスによく似ておるな」

「え~、そうかな~」

「この別の絵の角度だと、細面がよく似ておるぞ」

「べっぴんさんな絵だな。ま、エリスもべっぴんじゃがな」


 [陽だまり]が肖像画がまとめて飾ってある所で騒いでいた。


「爺さんたちよ、アシィドがいつ襲ってくるか分かんねぇんだぞ、何を言ってんだ?」


 ゴンブトが戻ってきた。


「これ、エリスに似てんだろ」

「ん、確かにそうだな。さっきはそう思えなかったが。ちょっとエリス来てくれないか?」

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