第37話 魔物管理センター

 今度はルイターが聞いた。


「迷子?ここは、別次元ということか?」

「そちらさんの言い方に合わせるなら、次元が違う。ただ、ここは隔離されてるから『なんでココ選んだの?』って、こっちが聞きたいくらい」

「我々は、飛ばされてきた被害者だよ。ワタシはルイターと申す。なんと呼んだらいいかね?」

「特に名前はない。ただ、センター長という扱いされてる」


 センター長という存在は、薄暗いの布を被った姿をして顔が見えず、実態がない幽体のように感じる。


「センター長、リステアと言います。魔物管理と言われましたが、わたしたちがいたら襲われますか?」

「ワタシが近くにいるから襲いはしない・・・はず。さっきから興奮状態だから何事かと思ったのよ」

「しかし、来ておいてなんですが、異種族が入れる場所じゃないですよね?」

「そう、どちらかと言えば、こちらから送り出すばっかり。ここ数年は特に忙しいから、アンタたちみたいなイレギュラーな事されると、まぁ~大変!」

「お互い被害者ってことで」

「まったく!ちょっとついてきなさい、ここで立ち話してもしょうがないから!」


 センター長にぞろぞろとついて行く。こちらの次元で目が見えるようになったからといっても、通路に色が無い。少しずつうごめく闇な感じの粒子が空間を仕切って見える。


「さ、入んなさい」


 三人は部屋に通された。この部屋は、応接室と事務所が合わさったような場所。ただ、背もたれがない椅子は切り株のような形状。

 センター長が話し始めた。


「ホント忙しいの。アンタたち、これからどうしたいの?」


 代表としてルイターが答える。


「元いた世界に戻る方法を知りたい。可能なら送り返して欲しい」

「あ、それなら単純よ。今も育った魔物を送り出してるから。好き勝手に言う古参が、のさばっててさ」

「ん、どういうことだ?魔物は特定のエネルギーが帯びている所に湧くんじゃないのか?」

「それは、局所的な限定的で特定の場所だからよ。新しく作り出された場所には、数百年単位で待つんじゃない?だからよ、古参が『よこせ、よこせ、育成を早めろ』ってガゥガゥ言っちゃって。こっちも大変なの。知能の低い魔物は繁殖を勝手にやってくれるし、丈夫だからどんどん増えてくれるけど、知能の高い方はさぁ、希少種もいるじゃん。種族管理が必要で、繁殖も繊細になるし、成長後は雇用契約をしっかり結ばないと転送拒否してくんの。それを見た他の魔物種族もこんなこと言い出すの。『我々は狩られるために生まれたのではない!』って。でもさ、たまにこの管理センターに古参が来て、圧倒的な力を見せつけ魔物たちをたしなめる。『魔物としての誇りを持て!』知能が低い魔物たちは、あっさり感化されて望んで別次元に送り出されていく。はぁ~むなしい。空っぽよ。あのいにしえの龍にはどうしたものかね」


 早口でまくしたてるセンター長の話を聞いていると、最後の言葉で三人は、ハッと気付いた。

 またルイターが聞いた。


「古の龍って、古龍こりゅうとも言ったりするやつか?あのでかいのがここに入らないだろう」

「そりゃ、ドラゴンサイズで空間は自由に変化するけど身動き取れないでしょ。人の姿に化けて来るわよ」

「名前は・・・」

「あぁ、名前ね。ラギンて名乗ってたはず。古参のくせしてイタズラ好きで、飽きたら何でも破壊すんの。育てた魔物たちもまとめて潰してくれる。ホント厄介」

「・・・おそらく我々はラギンにここへ飛ばされた。どうにかヤツを退治しないと」

「そうねぇ。あの強大な力に立ち向かうには、アンタたちでは厳しいと思う。魔物ですら地獄と呼ぶ僻地があるの。そこには制御不能な力が溢れる魔物たちを追いやって放置されてる。そこにどれだけの魔物の亜種がいるか見当もつかないけど、亜種に古参を放り込んで対処してもらうのが、程良いかしら」

「その僻地への転送手段は?難しいのか」

「ん?魔物が書く魔法陣があるから、それを古参に貼り付けると飛ばせるわ」

「おや、そうなのか。では、共通の敵が分かったので、我々が実行に移す。その僻地魔法陣をもらえぬかな?」

「異種族に協力するわけね。ま、あの古参を飛ばしちゃってよ」


 センター長は、ささっと魔法陣を書き上げ、書いた布をくれた。


「1枚しかないので気を付けてね。さっきも飛ばされてきたヤツが来て魔物とケンカして、送り返してやったの。アンタたちも魔物とやりあう前に、とっとと帰って頂戴」

「なんだ、その飛ばされてきたヤツって」

「体半分で色が違う格好の小柄なヤツ。どこの魔物なんだろね。育ちが別物だった」

「そいつは、頭が紫だったか?」

「よく覚えてないけど、アンタたちとは違う気持ち悪さがある見た目よ」


 三人は顔を見合わせ、アシィドがここに来たことを察した。


「では、長居した。協力を感謝する。ありがとう」

「ま、異種族でも礼を言ってくれるのね。さ、その部屋に入ると、送り返されるわ」


 三人は、転送用魔法陣部屋に念のため手をつないで入った。入るなり、即転送された。声が出る間もなかった。


「あがっ!」


 第28階層に戻ってきた三人は、床に落ちた。すぐさま状況確認すると、階層中央に灰が散らばっていた。


「どこ行ってたんだ!」


 ゴンブトが叫んだ。


「ラギンに飛ばされてたんだよ、三人共な」


 パラジが答えた。それから、ルイターが尋ねる。


「何がどうなった?犠牲者は?」


 ラドヤが話した。


「一瞬だった。炎のムチを持ったモンスターがいただろ、背後からバッサリ斬りやがった。アシィドが現れていた。そして、設計仕様書が現れたから、アシィドが階層主宣言をしたために、第29階層に下りて行った。幸い誰も死んでない。しかし、どういうことなのか・・・」


 リステアが冒険者たちに呼びかけた。


「わたしたち三人が見てきたことを話したいので、一旦、上のセーフエリアに行きませんか?」


 無言で同意した冒険者たちは、第27階層に戻った。荷物を置き、食堂に集まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る