第36話 罠とワナ

 ルコットがそれに対して言った。


「大きすぎる古龍が痺れる確証がない。あのクラウンみたいにどこかに飛ばすのが手軽でしょ」


 討伐、捕獲、転移のそれぞれの意見で割れ、なかなか話がまとまらなかった。お互いの批判になりそうな勢いになってきた時、イモウがレイラに話しかけた。


「捕獲罠で固定させた後に、討伐のため戦って、それでもあの大きさに太刀打ち出来ないようなら、転移して様子見るとか出来ないもんかねぇ」

「あ~、まとめちゃうのね」


 皆、イモウの方を一斉に見た。


「な、なんでしょう・・・」

「その案、いいじゃねぇか!」


 ゴンブトが叫ぶと、殺伐としかけた冒険者たちが、それぞれの持ち味を活かした戦い方を合わせないと古龍には勝負にならないと考えが一致した。それを踏まえ、ルコットから提案があった。


「次の第28階層も[サンピラー]が階層主をやってはどうかな?設計仕様書の力使って、階層主権利を競い合っているように見せかけ、対古龍もしくは対ラギンの魔法道具を作る。それなりの冒険者数が残っているから、役割分担も十分できるでしょ」

「いいのか?意見あるものは発言を頼む」


 ラドヤが、皆に問いかけると誰も発言しなかった。


「では、次の第28階層も我々[サンピラー]が階層主となる」


 設計仕様書を持ったラドヤが、その場で宣言し[サンピラー]の体が薄っすらと光った。


「階層を下りる前に、もう少しこの場で計画を話し合いたい。付き合ってもらおうかな、皆の衆」


 それから、4~5時間程、話し合いが続いた。


「よくもまぁ、それだけ議論が出来るものだ。座りっぱなしは尻が痛くなるぞ」


 食堂の窓がカタカタ揺れた。この階層に風が吹くことがありえないのに。


 翌日から[サンピラー]は第28階層作成に入った。設計予定の配置は、魔法陣を紙や布に描くための部屋があり偽装対決用モンスターの召喚は外壁にある本棚から本を取り出し、ページを開くことで行なわれる。

 あまり時間のかかる構造ではないため、半日もかからず階層は完成した。


「冒険者諸君よ、下りてきてくれ」


 ラドヤからの呼びかけで、冒険者たちは第28階層に下りていく。


「では、いいかな。この第28階層は、この本を使ってモンスターを召喚しモンスター同士で対決して勝ち残った者が第29階層の階層主権利を得られる。また、召喚する本を選ぶ前に皆に配布する物がある。順番に受け取るように」


 ラドヤは、対ラギン用の捕獲用呪符と転移用魔法陣が描いてある布を渡していった。


「ほぅ、そういう対策を練ってみたのか・・・」


 少し風が流れた。


「ん、なんだこの匂い。老人の匂いがする」


 トコピがつぶやいた。


「なんだ、ワシらのことか?」


 近くに[陽だまり]が集まっている。


「いや、ここにはない匂いがしたんだ」

「知らぬ人は見当たらんぞ」


「おおっと、獣人がいたか。鼻が利くのは厄介だな。せっかくの不可視幻術がもったいない。さて、油断しているようなので、さっそく利用させてもらうか」


 姿を見えなくしていたラギンは、本棚から本を取り出し、開いた状態で投げた。


「おい、どうなってるんだ!」


 本が急に飛び出したように見えたノルチェンが叫んだ。一斉に皆が注目すると、階層中央付近に落ちた本からパッと光が天井を照らし、炎のムチを持った長身のローブを着た姿が現れた。

 冒険者たちは、急いで武器を手に取る。しかし、意識が中央に向いている時、また隙きが出来た。


「甘いのぉ」


 ラギンは、作業部屋から転移用魔法陣が書かれた小さな紙を持ち出していた。


「ほれ、どこに飛ばされるかな」


 小さな紙をラギンは、近くにいたリステア、ルイター、パラジの背中にそれぞれ押し付けた。言葉を発する間もなく三人は、その場から姿を消した。


「今度は何だよ!」


 皆がいる目の前で消えたため、冒険者たちは周囲を警戒するようになった。それを見たモンスターは、大きくムチを振るい、攻撃を開始した。


「さて、時間かな」


 ラギンは、第28階層から離れていった。


 ブンッ!


 風を切るような音がして、床に落ちた。


「ここどこ?」

「誰がいるんだ?」

「どなたですか~?」


 真っ暗な空間で、触れることができるのに見えない。目は開いているが目隠しされてないるような感覚。


「わたし、リステアです」

「[サンピラー]のルイターだ」

「ノームのパラジです」


「何が起きて、ここにいるんでしょう?」

「背中を触られた気がするんだが」

「そう、背中を押された」


「近くにいるのに、壁だけでなく姿すら見えないって変でしょ」

「別次元というやつかな」

「地形操作が出来ないので、空間にいる感じ」


「お互いを触れるって出来そう?」

「パンッ!手を叩いた音に近づけるか?」

「寄ってみます」


「アィタッ!」


 二人が近寄ったので、ルイターと接触し、三人がぶつかった。


「では、お互いの装備に掴まって、壁っぽい所に触れながら移動しましょう」

「それが良い。後は、音の反響があれば聞き逃さないように」

「はい、集中しましょう」


 真っ暗な空間をすり足で進む。急な段差や空洞があって、バラバラに分かれてしまうと身動きが取れなくなる。慎重に触れられる場所を手掛かりにゆっくり進んで、二か所曲がり角があり、さらに移動を続ける。


「前の方に白いの見えるよ」

「出口かな?」

「さらに転送かも。手をつないでおきましょうか」


 三人は手を握りあい、真っ白な空間へ一緒に一歩踏み出した。


 ブゥゥンッ!


 また、空間を移動したようだ。急に真っ白でまぶしい空間に入ったので、目が慣れず、何も見ることができない。

 カッカッカッカッカッカッ!と駆け足で何者かが近づいてくる音がした。


「ちょっと、ちょっと!何してんのよアンタたち!こんな場所に異種族が来たらダメでしょ!」

「すみません、目が慣れるまで待って」

「それは無理だぁ~、異種族だもの。ほれ、見えるように魔法かけるから動かない!」


 何者かによって、この場所でも見えるよう特殊魔法がかけられた。


「うわっ、見えるってここどこです?」


 パラジが尋ねた。


「ここね、魔物管理センター。稀にアンタたちみたいな迷子がくるけど、三人も来るとはね」

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