第34話 やられたので、やり返す

 アゥカリは、エリスの近くまで来ると、何故か大鎌の杖を柱に立てかけ、また歩いてきた。エリスの前に来たアゥカリは、胸ポケットから花一輪を取り出し、座り込んでいるエリスの足元に、そっと花を置いた。


「え、何?」


 エリスが思わず言葉が出た。アゥカリは立ち上がり、エリスに背を向けた。


「油断したな、道化」


 忍び寄っていた大鎌の杖を持ったゴンブトが、剛腕を活かし豪快にアゥカリを斬りつけた。


 ギィァア゛ァァァァァァ!


 アゥカリは断末魔の叫びを上げながら、上半身から斜めに切断された。もちろん冒険者と同様、切断面から赤紫の炎が立ち昇り、あっという間に灰になった。

 アゥカリの叫び声により、他冒険者たちが集まってきた。


「おい、やったのか?」


 カメロが尋ねた。それに対して、ゴンブトが答えた。


「あぁ。オレがこの大鎌でクラウンを斬った。しかし、エリス、なぜ無事なんだ?」

「分からない。この花を私にくれたようだった」

「どういうことだ?」

「出会い頭にアゥカリとぶつかって、柱に右腕が当たったけど、アゥカリは何もしてこなかった」


 それを聞いてラドヤが仮説を立てた。


「ぶつかってケガをさせたと思い、詫びる気持ち。もしくは、知り合いに似てたか」


 ゴンブトが言った。


「妙に言葉は通じるし、勝手に召喚されたのかもしれないが、こっちは仲間を失った。情は持たんぞ」


 ゴンブトは、アゥカリの灰の中から設計仕様書を取り出し、こう言った。


「次の階層主はオレだ」


 ゴンブトの体がが薄っすらと光った。そして、続けて言った。


「いつまでもこんな杖を持ちたくねぇよ。くそぅ。次の階層は墓を作る。みんなも一緒に下りてきてくれ」


 ゴンブトは、遠くに杖を投げ捨てた。

 それから、生き残った冒険者たちは、ゴンブトの誘導で第26階層へ続く階段に向かった。


 冒険者たちは大事なことを忘れている・・・。


「すぐ仕上がるから、このまま待機しててくれ」


 ゴンブトは、そう言い残し第26階層へ下りていった。残った冒険者は、体力回復と装備品の確認をした。

 1時間も待たずに、ゴンブトが戻ってきた。


「皆いいかな?墓が出来上がったんで下りてきてくれ」


 ゴンブトはそう言うと冒険者たちを案内した。

 第26階層は、第18階層の草原と丘に似ている。空間は広くないものの草原と柵に囲まれた墓地部分があるのみ。第18階層と異なるのは、とても薄暗くあまり見渡せない。


「第25階層で多くの死者が出た。しかも灰になり混ざってしまったため蘇生が出来ない。いつ地上に戻れるか分からないし、戻れない可能性もある。だから、灰の半分をこのダンジョン内墓地に埋葬してあげたい。残り半分の灰は地上に戻った際、家族の元、故郷に送り届けるなり、弔うのが生き残った者の役割だと思う。では、埋葬を始めよう」


 [ビッグトルク]は3人、[王室調査隊]は6人も犠牲者が出た。墓はゴンブトが階層作成時に人数分作り灰を納める小さな壺と格納場所が用意してあるので、冒険者たちは手分けして収めていった。

 それから[王室調査隊]の僧侶に任せ、簡易的な葬儀を行なう。レイラは属性上、神聖な儀式には参加できないので少し離れた場所からイモウといっしょに眺めていた。


「イモウ、あんたは参列しなくていいの?」

「ん~、直接知り合いではないし、ただ一緒にダンジョンに潜ってただけだから。それにレイラ一人にするのもなんか違うでしょ。パートナーだし」

「こんな時に、さらっと言うねぇ」


「なぁ、レイラ。薄暗くてよく見えないんだけど、あの外壁近く何かある?」

「ちょっと待って」


 レイラは、イモウが言う外壁周辺をギッと目を凝らした。


「マジか・・・」


 レイラの視力で見えたものは、石を積み上げ、そこに帽子を置いている。服装が半分が黒、もう半分が暗い赤の衣装、髪の毛が紫の小柄な姿。見られているのに気付くと、ゆっくりとレイラの方を向いた。

 涙を拭ったのかメイクがぼやけ、目の周りは黒く、口紅が左右に広がりぼやけている。衣装が違いメイクが崩れても、地面から持ち上げた大鎌の杖は見覚えがある。

 レイラは叫んだ。


「ヤツがいる!武器を持て!危ないぞぉぉ!」


 祈りを捧げていた冒険者たちは、慌てて装備を整える。

 アシィドは、素早く移動していた。あっという間に、冒険者たち接近している。


「オレが、お前の相手をしてやる」


 ゴンブトは一人立ち向かい、他冒険者たちは適度な距離を保ち、様子を伺う。その状況を確認したアシィドはゴンブトに狙いを定め急接近した。


「弟を・・・よくも・・・殺したな」


 小柄な体からは考えられない威力で大鎌を振り回し、ゴンブトは防いだものの大きく弾き飛ばされた。


「このままでは、また犠牲者が出る。もしくは全滅だ」


 ルコットがつぶやいた。それを聞いたラドヤが近くにいた冒険者たちにひとつ提案をした。うまくいくか分からないが、やってみるしかない策。灰になりたくないので、冒険者たちは即、動き出した。

 ラドヤ、ズフィッチ、ルイター、そしてルコットが輪になり詠唱を始めた。それを守るため、モレニとパラジが前に立つ。さらに、囮として残った冒険者たちがアシィドをこちらに誘導するため遠距離攻撃や挑発を試みる。


「おぃ!こっちの草が伸びてるから、その鎌で刈ってくれよ!駄賃やるぞ~」


 ノルチェンがアシィドをからかった。それに反応して、ものすごい勢いで突進してくるアシィド。


「ちょっと待て速すぎんぞ」


 注意を引くことは成功したが、ノルチェンは逃げ出した。


「お互い死なねぇようにな」


 レイラとモクレンの高身長コンビが、さらにアシィドを誘導する。モクレンの武器攻撃を避けるアシィドにレイラの悪魔の瞳で一瞬だけアシィドの体を硬直させる。その瞬間、モクレンがアシィドの背中を蹴り飛ばす。

 アシィドは前のめりでひざまずく。この体勢を待っていたパラジは、土のこぶしという地形操作でアシィドを斜め上空に跳ね上げた。アシィドの小柄な体は大きく飛びすぎ外壁まで行きそうな勢いだ。

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