第33話 強襲

 他のマス目にいた冒険者たちは、サイコロの出現がないため待っていたが、[陽だまり]の騒ぎ声や異変により階層ルールを無視して、人だかりがある方へ集まっていた。


「何があった?」

「マス目にある通りにしたがったんだが、クラウンが勝手な行動をした。設計仕様書も奪われた」

「そんな事ありえない話だろ」

「それが実際に起こってしまった。そもそもの階層主の権利が通用しなかった」


 さまざまな考えが巡る中、回復等済ませ、冒険者たちは第25階層への階段に移動した。


「何時間も経ってないが、もう下りられるのか」

「何のための階層主権利を競っているか、分からなくなったじゃないか」

「他の力が働いていると思うべきだろう。これまでもあったからな」


 冒険者たちは、慎重に第25階層へ下りていく。

 第25階層、青と緑が合わさった淡い色で構成され、外壁以外の壁がなく柱の数が多い。潜みやすくしているのだろう。


「固まって移動してもしょうがねぇ。各パーティで分かれ、見つけたら挟み撃ちにしてやろうぜ」


 ゴンブトはそう言って、[ビッグトルク]が先行した。それから、用心しながらアゥカリを探す。


「装備品もあまり音を立てるなよ。ヤツは小柄だから足音も立てずに動いてくるだろう」


 ゴンブトは小声で言う。


 シャキーンッ キュッ キュッ キュッ


 物音がした瞬間、[ビッグトルク]の背後からアゥカリが現れた。杖の上部から大鎌の刃が出ており一気に間合いを詰め、最後尾にいたメンバーの上半身が斜めに切り落とされた。しかし、血が吹き出さず切断面は、赤紫の炎で包まれ、燃えながら灰になっている。

 その光景を見ていると、速攻を受け、また一人メンバー犠牲になった。


「ふざけんなよぉぉぉ!」


 ゴンブトは剣を振り回すが、アゥカリは身軽にかわす。そして、もう一人のメンバーの首を刈った。あっという間に三人の仲間が灰になり、呆然としているゴンブト。

 それを見てアゥカリは、灰を足で踏みつけ、クラウンらしくおどけて見せた。激昂するゴンブト。


「あ゛ぁぁぁぁぁ!ぶち殺してやる!」


 その声で冒険者たちが集まってきたが、アゥカリは姿をくらました。


「どこに行きやがった!出てこい!」


 ゴンブトは周囲を走り回るが、気配がない。

 ルコットが灰になった[ビッグトルク]メンバーに祈りを捧げる。


「灰になっただけでなく混ざってしまったら、蘇生は不可能・・・」

「くそぅ!くそぅ!あの大鎌で斬られたら、燃えた瞬間に灰になりやがった。触れた時点で終わりだ」


 ゴンブトは、散らばったメンバーの装備品を柱の角に集め、灰を寄せ集めた。また、メンバーの回復ポーションを飲み干し、空き瓶に灰を詰めた。残っている灰にゴンブトの涙がボタボタと落ち、やりきれない感情が抑えられなかった。

 周囲を警戒していると、物音がする。何かが回転しているような、擦れ合っているような。


 シュィィィン シュィィィン


 次は[王室調査隊]が狙われた。キラキラと光る輪っかが次々に投げつけられ、首元、手首、内ももと多量の出血を狙った攻撃だ。不気味な笑みを浮かべながらアシィドがエイトリングを輪投げのように繰り出した後は両手で盾の形をさせ、クルクルと平面に回している。


「出血を止めないと!回復させてくれ!」


 [王室調査隊]が手こずっていると、アゥカリの強襲!負傷した隊員が次々に大鎌の攻撃を受けた。[ビッグトルク]の時のように大振りせず、サクッと少し引っ掻くように大鎌を使った。出血多量の隊員の体は、飛び出る血が赤紫の炎となり隊員の体内に炎が侵入し、内部から燃えていく。そして、灰になった。同様のことが他隊員6名被害にあった。

 モクレンは、途中から行動を共にした隊員たちが次々にやられていく様を見て、もちろん憤慨した。しかし、クラウン兄弟の動きは素早すぎて目で追えない。また、予測して攻撃しようにも、大鎌で斬られることを考えてしまい慎重になってしまう。

 冒険者たちが、なかなか攻撃できないことが分かると、クラウン兄弟は、また姿を隠した。

 イモウが言う。


「なぁレイラ、有効な攻撃はないもんかな?」

「動きが早すぎる。魔法で焼こうにも柱が邪魔して広がらないし、物理攻撃は大鎌が危険。アイツらを分断させたいがこっちも分断させられてるし、一瞬の隙を突くしかない。そのタイミングを逃さないことしかないかも」


 その話を聞いていたノルチェンやラドヤも同意見だった。そこで、ズフィッチが提案をした。


「私が、抑えた炎で直線に放つ。その明るさや火の勢いでクラウンの居場所を探しだそう。燻り出せれば、なお結構だ」


 会話をしている所に微かな音を察知したトコピが叫んだ。


「気をつけろ!奴らが近い!」


 何度か足音を聞いたことで耳が慣れ、獣人の本能が察したようだ。走ってくるアゥカリに、壁を蹴って飛んでくるアシィド。話し合いをしていたため、冒険者たちが集まりすぎて襲うには好条件だ。


「うむ、仕方ない」


 ルイターは、クラウン兄弟の向かってくる方向に局所的に突風を起こす。あまりにも近いため、クラウンを吹き飛ばせるが体重の軽い冒険者数名は、巻き込まれ一緒に吹き飛ばされてしまった。


「いててて」


 突風に吹き飛ばされた冒険者の中にエリスがいた。しかも、どこまで吹き飛ばされたか分からないくらい周囲に誰もおらず孤立状態。とても危険だ。エリスは周囲を見渡し、外壁沿いを進もうと走り出した。薄暗い中を進み、ようやく外壁が見えてきた所で何かと激しくぶつかり、エリスは弾き飛ばされ柱で右腕を強打した。

 苦痛に顔を歪めていると、近付いてきたのはアゥカリ。杖を床に引きずりながら、時折大鎌がキラリと光る。エリスは右腕に力が入らず、剣が引き抜けない。


「ここで、灰になるのか」


 エリスは、そう確信しつつも、どのように逃げ出そうか考えていた。

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