第32話 ありえない出来事

 [陽だまり]がドラゴンブレス対策マントを身に纏って、自慢げに見せてくれた。


「似合っておられますね」


 エリスが感想を言うと、[陽だまり]の爺さんたちは満面の笑顔をした。そして、エリスはカメロに設計仕様書を渡した。[陽だまり]それぞれの体が薄っすらと光った。


「この勢いで、第24階層を作り上げるぞ~」


 鼻息荒く[陽だまり]は下りて行った。

 エリスは、ラドヤに近づき、こう伝えた


「魔法の鏡の件、第20階層のセーフエリアで報告致します」

「分かった」


 それから冒険者たちは、それぞれの行動に移った。

 [王室調査隊]は、第20階層の図書館で待った。


「お、待っておったか」

「いえ、問題ないです」


 [サンピラー]が揃って、会合となった。

 エリスが伝える。


「結果として、魔法の鏡は本題を答える前に砕け散りました」

「なんと。状況はどうだったのだ?」

「これまでの目撃していたラギン情報以上のことは何も言わず、さらに鏡が分析し始めた時、獣の大きな瞳が鏡に映って、鏡が割れたのです」

「・・・見ていたな、古龍」

「はっ!そうか、そうなのか」


 ラギンが答え、エリスは少し震えていた。それから少し報告した後、解散し宿で休むことにした。

 それから数日、図書館で調べ物をしている[サンピラー]と[王室調査隊]が見られた。


「いや~、面白いものが出来たぞ!冒険者諸君よ、集まってくれ~」


 [陽だまり]がセーフエリアに上がってきて、声をかけていた。ぞろぞろと集まる冒険者たちに対して説明を始めた。


「ようやく第24階層が仕上がった。この場で少し説明をする。ワシらのように年老いてくるといろんなことが若い時のように簡単ではなくなる。そこでだ、年齢、性別、種族、その他、さまざまな優劣や格差を仕方ないと諦めるようなことをせず、分け隔てない勝負がしたい!それは運だと、平等かつ公平な運による勝負が出来ることだとワシらは考える」

「いいぞ、よう言うた」

「もっと言ったれ~」

「そうだ、そうだ」


 [陽だまり]の4人だけが異様に盛り上がっている。


「そこで、ワシらが作った階層では、サイコロの出目による運で競い合う。サイコロを振って、目的地まで最初に到達した者が、次の階層主だ」

「すごろくか?」


 ノルチェンがボヤいた。


「そうだ!すごろくだ!もちろん、止まったマス目によってはイベントがあるぞ。準備を整えて第24階層に参られよ。先着順でゲームスタートだ!」


 呆気にとられる冒険者たち。拒否できないので、準備して次々に階層を下りていった。

 第24階層に到着すると、すでにスタート地点に[陽だまり]が準備していた。しっかり、第23階層で獲得した対ドラゴンブレス用マントを装着している。


「最初の手本として、ワシらがサイコロを振るぞ~」

「お~、早くやってくれ~」


 ゴンブトのヤジが飛ぶ。


「そぉれぃ!」


 サイコロを振り、階層の床に描いてあるマス目を移動する。マス目を見ると、○△☆といった印があるが全てに描いてあるわけではないようで、毎回イベントが起きない仕様。また、空間は広く作られており要所に柱はあるが、外壁以外の壁が作られていない。

 順番になると足元に大きなサイコロが出現し、次々に振っていく。

 パラジがサイコロを振った。出目の数だけ移動すると、○印の場所だった。


 ピンポーン


 パラジの足元に、回復ポーションが出現し手に入れた。


「ポーションもらいました~」


 どう反応していいのやら分からず、近くにいた冒険者たちは拍手を送った。

 [ビッグトルク]の番となり、サイコロを振る。移動した先は、☆印。床がパッと明るくなり、目の前に大きなカマキリのモンスターが出現した。


「おう、久しぶりに戦闘だな。いくぞ野郎ども!」


 体を動かしたくてうずうずしていた[ビッグトルク]には丁度よいイベント。負傷することなく、無事勝利した。


「ほれ、丁度よい設計だろ。なぁ、モスモス」

「あぁ、カメロの配置が良かったんだよ」


 [陽だまり]は自画自賛していると、サイコロの順番が回ってきた。


「ほれ、よっと」


 ☆印が付いている場所。[陽だまり]が到着すると、二人のクラウン(道化師)が現れた。


「クラウンの動きに対して、笑ってはいけない」


 説明書きを読んだ[陽だまり]は、しばらくクラウンの大道芸を見ることになった。始めに挨拶がある。


「ようこそこんにちは。クラウンの兄弟、兄がアシィド、弟がアゥカリと申します。宮廷に仕えておりますお抱えクラウンの大道芸、とくとご覧くださいませ」


 少しぽっちゃりした緑の服装で赤い髪をしたアゥカリが、玉乗りを披露した。横で細身で角が生えたような帽子を被ったアシィドがジャグリング・エイトリングを繰り広げている。

 多少コミカルな動きも取り入れ、いかにもお客さんを楽しませる流れとなっているが、アゥカリが玉乗りの途中、足を滑らせ床に落ち、玉がアゥカリの上を転がっていった。思わず、演出と思いモスモスが大笑いした。


「いや~、そこまで計算して出来るのか。すごいなぁ」


 アゥカリが起き上がり、モスモスの前に近付いた。


「人の失敗を笑ったな」

「あれは演出だろ?」

「失敗を笑った。笑ってはいけない約束だ」


 アゥカリは背中から長い杖を取り出し、モスモスの左腕を殴打した。


「ぐうぅぅ」


 モスモスは激しく倒れた。


「これだから冒険者は嫌がられるんだ」


 アゥカリはカメロを標的として、素早く移動した。


「オレは笑ってないぞ」

「そんなことはどうでもいい。好き勝手に召喚するんじゃないよ」


 アゥカリは杖でカメロの腹部を激しく突いた。


「がぼぅふっ」


 カメロは胸元に入れていた設計仕様書が飛び出てしまった。


「これが元凶か」


 アゥカリは設計仕様書を奪い、叫んだ。


「このアゥカリが次のあるじだ!」


 あり得ないことにクラウンである二人の体が薄っすらと光った。そして、アゥカリは第25階層へ下りていった。それに続くようにアシィドも消え去った。

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