第31話 魔法の鏡

 [王室調査隊]は、再度階層主となった。まだ手つかずの基本となる一定範囲が広がった空間がある。[王室調査隊]の目的はただ一つ。ラギンの正体が知りたい、それだけ。階層を作ることは、二の次もしくはどうでも良かった。


「[サンピラー]から教えて頂いた魔法の鏡を作成したい、今の目的はこれしかない。ただ、階層をどうするか」


 エリスは隊員に伝えた。


「魔法の鏡を設置するとして、どのように偽装するかということですね?」

「そう。ただ壁や柱に鏡を取り付け、話を聞いたところで、他冒険者たちが黙っていないのは当然」

「それなら、冒険者らしいことをしてもらうのはいかがですか?」

「例えば?」

「これまで想定外にドラゴンが2体出てきたので、これからも不意をついて出現することが考えられます。そこで、あらゆるブレスに耐えうるマントを宝箱に置くというのはどうでしょう。設計仕様書の力で、第一発見者のパーティ分はマントを用意するようにしておけば大義名分がたったことにはなるでしょう」

「その間に、こちらは鏡にいろいろと質問する時間が取れるわけだ。では、それぞれの目的のため設計をしよう」

「了解!」


 [王室調査隊]の手短な会議が終わり、階層設計に入った。目的が定まっていると設計が早い。程なくして第20階層のセーフエリアに連絡が入った。


「第23階層が完成したので、準備が整い次第、下りて頂くようお待ち致します」


 準備が済んだ冒険者たちが、ぞろぞろと下りてきた。


「冒険者の方々、お待たせしました。第23階層が完成しております。説明致しますので、お集まりください」

「なんだかさぁ、王室に関わってるヤツらは言うことがお堅いなぁ」


 ゴンブトが嫌味を言いながら集まった。


「この第23階層はアイテム捜索が目的です。これまで2度もドラゴン襲撃に会い、ブレス攻撃に苦しめられた。そこで、あらゆるブレス効果に耐えられるマントを作り、宝箱の中に置いております。そのマントを最初に発見したパーティが次の階層主権利を得られます。もちろん、第一発見パーティの人数分マントが与えられます」

「そういうの、ありがたいな。ダンジョン探索やってる感もある」

「ただし、この階層での部屋数は56。隠し通路もあるので、そう簡単には見つかりません。また、モンスターも出現するので油断することのないように」

「おーい、ドラゴンが出るってことはないよなぁ?」

「こちらの設計では予定にありません。ただ、意識した内容になってます」

「なんだよ、それ~」


 [王室調査隊]は、冒険者たちと少し和やかなやり取りで階層説明を行なった。


「では、これより探索開始です!」


 冒険者たちは、各通路に分散して探索が始まった。


「では、我々も動きましょう」


 [王室調査隊]は、周囲を警戒しながら通路を進んだ。外壁に見える角に隠し通路を作り、リーダーのエリスと護衛が4名進み、残り4名が冒険者が進入しないよう治療中のように見せかけ、隠し通路入り口を護った。


「おい、ずいぶん部屋数あるな。宝箱の中身が何か入っているから助かるが」


 [ビッグトルク]が探索する宝箱は、回復ポーション等の薬品が主。他の冒険者も似たようなものだった。しかし、モンスターは出現する。リザードマンやコモドドラゴンといった、爬虫類だけどドラゴンを思い出させるような姿が多かった。

 一方、エリスたちは設計した部屋の扉を開ける。ここは、魔法の鏡がある部屋。広くはない専用部屋。中を確認して、エリス以外の隊員は部屋の外に出て侵入者がないよう防ぐ役割。


「さて、伺いましょうか」


 エリスは緊張しながら、鏡の前に立つ。本当に設計仕様書で作った魔法の鏡が望む通りの働きをしてくれるのか期待と不安が入り交じる。


「ふぅ、鏡よ。話ができますか?」


 返事がない。


「え、鏡!魔法の鏡!返事してくれないの!」


 エリスの姿が映ってから、しばらくしてモヤがかかった姿になった。


「何を焦っているのだ。慌てない」


 魔法の鏡が反応して、声がした。


「魔法の鏡、あなたは何でも答えてくれるの?」

「そなたが知りたいことを答えよう」

「はぁ、はぁ、では質問します。このダンジョンのある土地所有者のラギンという男について知りたい」

「・・・ラギンは男性。老人」

「え、それだけ?もっと詳細な情報を」

「"知りたい"だけでは、何が知りたいのかが分からない。詳細・・・」

「イザベルという娘がいる。ここの土地所有者、それだけでなく他の土地所有も多数ある」


 エリスは、いきなり確信に触れず探りを入れた。


「ラギンは、どこの出身?」

「他の地域から来た。・・・元の出身・・・探れない・・・遮られる」


 魔法の鏡が沈黙した。少し時間が空いて、また話し始めた。


「中身が異なる」

「それ、どういう意味?」

「違和感しかない。なんだ、その力は」


 そう言うと、魔法の鏡がガタガタと揺れ始めた。


「どうしたの、鏡?何が起きてるの」

「ん・・・ん・・・」


 エリスが振動する魔法の鏡を押さえると、その鏡に大きな瞳が映った。とても人のものではなく爬虫類に近いと思えた。


 バリィィン


 魔法の鏡は、大きな瞳が移った後、ヒビが入り、割れ、砕けた。


「聞きたいこと、知りたいことが何も分からなかった。聞き出せなかった。・・・邪魔されたんだ。ラギン、お前がドラゴンとして介入していると疑う余地がないんじゃないか」


 エリスは部屋を出た。隊員と一緒に隠し通路を抜け、他の隊員たちと合流した。


「魔法の鏡は、本題を語る前に、大きな瞳が映って割れてしまった。我々は見られていると思っていい。それと、助言をくれた[サンピラー]には先程起きた事を話すべきだろう。情報が必要だ」


 エリスは、隊員たちと情報共有して、第24階層への下り階段に向かった。

 階段付近に到着すると、他冒険者たちがすでに集まっている。


「なんだ、遅いな。すでにワシらが見つけたぞ」

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