第30話 冒険者たちの連携

 王室の宮殿を再現した外壁接した柱が斜めに立っており、垂れ幕が引き裂かれていた。冒険者たちはその垂れ幕の前に集まり、様子を見ている。


「なんか急に冷えてきてない?」


 リステアが話しかけると、周囲も寒さを感じ始めた。


「おわぁぁぁぁぁぁ!」


 パラジが声を上げた。外壁の垂れ幕に気を取られていると、背後には、白に近い水色の体表のドラゴンが鎮座していた。ドラゴンの口からは白い息が漏れ、空気が凍りキラキラと明かりを反射していた。


 ボワァァァァァァ


 ドラゴンが第23階層へ続く階段に氷ブレスを吹きかけ、厚い氷の壁を作っている。


「おい、炎の魔法を・・・[サンピラー]はまだ来ていないのか!」

「まだ回復中だろ」


 第15階層の古龍に比べれば、大きさは小さいし細身ではあるが、ドラゴンである。冒険者と比較すれば相当な大きさ。さらに氷ブレスがあるので、うかつに近づけない。

 いつしか各パーティも連携を取ろうという考えが染みついて、大きなモンスターだと挟み込んでそれぞれが得意な攻撃を繰り出そうと行動に出る。しかし、ドラゴンは階層内を飛び回り、挟み撃ちを避け空中から氷ブレスで対抗してくる。

 ノルチェンは弓矢による攻撃を行ない、有効打にはならないが牽制として攻撃を続ける。それに対してドラゴンは床に着地をした。

 そのタイミングを見計らって、ゴンブトを始めとする[ビッグトルク]は一斉に攻撃をしかける。振り払うドラゴンだが複数による攻撃を相手にするのは無勢。声を上げるドラゴンは、左腕を負傷した。しかし、浅い傷。その体躯からすれば、少々血を流しても余裕。


 ブゴォォォォォ


 ドラゴンは、これまでにない凍てつくブレスで冒険者たちを襲う。身を寄せ合って耐えるしかなく長時間のブレスが終わるのを待っている。[王室調査隊]はモクレンが盾となって必死に防いでいた。凍りつく床が冒険者たちの足も冷え固め、次第に身動きが取れなくなり、容赦なく体温を奪っている。

 回復を終えた[サンピラー]とイモウ・レイラがようやく到着し、状況を見てラドヤが声を上げた。


「これは、いかん!」

「そぉれぃ」


 モレニがドラゴンを中心とした円形範囲に重力魔法をかけた。凍り付いていた床がビシビシィと音を立てながらひび割れさせ、冒険者たちが動けるようにした。その状況を確認したズフィッチは第22階層に下り立ち、詠唱を始め唱えた。


「獄炎の抱擁!」


 第20階層図書館で複製されていた禁書で覚えた新規魔法。いきなりの実戦投入は危険だが、急を要する事態にズフィッチは今できる最大火力を放った。階層の天井と床から、うねる炎が螺旋に伸び絡みついてドラゴンを包み込んで逃さなかった。悲痛な声を上げるドラゴンは、羽ばたいて逃げようとするが螺旋に渦巻く炎により包まれ外に出られず、炎の中心に戻されてしまう。また、炎の勢いで凍りついた床もすっかり溶けてしまった。

 一定の距離を取り、状況を見守る冒険者たち。ドラゴンの声が一切聞こえず、炎も少しずつ弱まり、ゆっくりと燃え尽きた。

 戦闘態勢のまま、慎重に燃えた跡を確認する。そして、ゴンブトが言った。


「おーい、ドラゴンが跡形もなく燃え尽きたぞ!」


 喜ぶ冒険者たち。しかし[サンピラー]は、そうではなかった。


「あの炎でも、ドラゴンの残骸が残らないということはないだろう。逃げたか」

「そう考えてもおかしくないだろう。少なくとも骨まで燃え尽くすには時間が短すぎる」


 モレニとズフィッチが、そう判断した。近付いてきたトコピが言った。


「第23階層への下り階段が凍りついていたが、溶けている。そこへ逃げ込んだかもな」


 それに対してルイターが問う。


「ドラゴンが階段を通れるのか?」

「いや、姿を変えていると思う。以前の古龍と同じで、いきなりこの階層に出現したんだ」

「なんだと?」


 そこにエリスが話に加わった。


「[王室調査隊]がこの階層作成している所に、ラギン・イザベルが突然来たんです。見学目的だと言って。階層主ではない者が進入できないのに、土地の持ち主だからと入れたのです。とてもおかしなこと。そしてあの氷のドラゴンが現れた。関連がないとは言い切れないし、疑念が生じています」


 [サンピラー]たちは黙り込んで深く考えている。


「あ、あの、設計仕様書は[サンピラー]の方々にお渡しします」


 エリスが差し出した。


「いいのか?では、受け取ろう」


 ズフィッチが設計仕様書を受け取った。しかし、変化がなかった。


「あぁ、宣言してないからか。我々[サンピラー]が第23階層の階層主となった」

「え?そんなはずは。少しお借りしていいですか?」


 エリスは、設計仕様書を手に取った。


「[王室調査隊]が第23階層の階層主・・・か?」


 [王室調査隊]の体が薄っすらと光った。


「なぜ?・・・もしかして」

「どうした、エリス」


 ラドヤが尋ねた。


「先程話した、階層作成中にラギンたちに進入され、階層主権利決定条件を定めないまま、ドラゴン出現でうやむやになってたんです。だから、階層主継続になってしまったのかも」

「なるほど、そういうこともあるのか。しかし、ラギンは一体なんなのか。目的が分からん」

「もう少しラギンの情報や意図が見えてこないと。魔法アイテムで調査できる物ってご存知ないですか?」

「そうだなぁ・・・鏡を使ってみるか」

「鏡?何でも答えてくれるあの魔法の鏡を持っているのですか?」

「いや、設計仕様書に作らせるんだ。図書館で禁書の複製ができたんだから、魔法の鏡の複製再現も可能だろう。ただし、[王室調査隊]だけが入れる小部屋を作って、そこで質問する。他冒険者たちにはモンスターと戦ってもらえば怪しまれないし、ダンジョン探索しているという大義名分が成り立つだろ?」

「あっ、ありがとうございます。さっそく試みます」


 エリスは[王室調査隊]に集合をかけ、第23階層に下りていった。他の冒険者達は、第21階層に戻り休息を取った。

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