第29話 不穏

 外壁で、ぐったりしているズフィッチの体が祭壇の方に這いつくばって動き出したので[王室調査隊]の僧侶が悪魔祓いの聖水をズフィッチに振りかけた。それに反応したズフィッチの体は、一度大きく跳ね上がり、また床に落ちようやく設計仕様書を手放した。


「レイラ、すまないズフィッチの体を固定して運ぶのを手伝ってくれないか?取り憑いた悪魔の特定もしたいんだが、さっきの状況からつかめそうか?」

「運ぶのは構わないけど、悪魔は・・・結構低級。おそらく、本に細工がしてあったんじゃないの?」

「そうか、やはりあの本は異物。先程の僧侶の方!こちらに来てくれないか」

「私も容態を見た方が良いでしょうか?」

「いや違う。この設計仕様書をお渡し致す。あなた方が次の階層主だ」

「お、そうですか。では、お預かり致します」


 [サンピラー]とレイラは、第20階層にズフィッチを運んでいった。レイラの荷物を持って、イモウも階層を上がっていく。

 僧侶は、リーダーであるエリスに設計仕様書を渡した。[王室調査隊]の体が薄っすらと光った。


「次の第22階層主は、我々[王室調査隊]となった。次階層が出来上がるまで、冒険者の方々は念のため第20階層で待機をお願いする。[サンピラー]が第21階層主であるため、この階層の構造・状況を解析しない限りは何が起こるかわからない。少しでも安全な階層での待機をお願いする」


 エリスは発言し、第22階層へ[王室調査隊]を率いって行った。他冒険者たちは、それに従い階層を上がった。

 先に上がった[サンピラー]、レイラ、後からイモウが診療所に集まった。


「ズフィッチ、分かるか?」

「・・・ぁぁ。首が折れるかと思ったぞ。体が元に戻るより、土に帰るのが先なのか、と」

「冗談言えるくらいなら、精神は大丈夫そうだな」


 ラドヤはズフィッチに回復魔法をかけ、さらに回復薬と気つけ薬を念のため診療パペットに用意させた。


「はぁ~、しかし、何だったんだ。階層を生み出すダンジョンなのに、本に取り憑かれるとは」


 ズフィッチがつぶやいた。

 それに対し、レイラが言った。


「アンタに入り込んでいたのは、低級の悪魔。あれでも大した力はない。アンタも魔法唱えようと出来たんだし」

「そうだよな。どうにかしようと唱えてた、少し覚えている」


 ラドヤが聞いた。


「レイラ、あの悪魔が低級ということだが、そもそも土地に憑いていたということか?」

「ん~誰かにくっついてきたか、本に入れて持ってきたか」

「誰かか。階層作成中は他冒険者は立ち入り出来ない。我々の一人が本を持ち込んだとするなら、魔法無効化エリアを作るのは頭が悪い。我々は魔法使いであり、腕力勝負を挑まない。さらなる他者の存在が疑える」


 その後、しばらく状況の整理のため意見を出し合い、話し合いが続いた。

 冒険者たちは、宿泊所で休息を取っている。その頃、第22階層では、また異変が起きていた。


「あなた方は、どこから入ってきたのですか!」

「何を言っておる?この土地は、ワシ所有のものだ。どこにでも入って構わないだろう」

「一般の方が作成中の階層に入るのも危険ですし、ダンジョン内にいることはもっと危険です」

「この深さまで下りてきて無事なんだから大丈夫だろ。少し見学させてもらうぞ」

「ちょっと、話がまだ・・・」


 [王室調査隊]が第22階層作成途中に入り込んできたのは、そう、ラギンとイザベル。勝手に徘徊している。


「は~ぁ~、これは宮殿か、王室の宮殿を再現しているのか。忌々しい王室絡みだな、イザベル」

「えぇ、整い過ぎています」

「しかし、イザベルよ。さっきの階層は加減し過ぎだな。他に召喚させる連中はいなかったのか?」

「育成が間に合ってないとか、成長に時間がかかると言い出されて、手短なモノを本に挟んできました」

「あの事務所が時の話を言い訳にするとは、あの管理者はたるんどるな」


 階層を一周歩いて、エリスの元にラギンとイザベルがやってきた。


「次階層の権利条件は、どうするつもりだ?」

「我々が考えているのは、一対一の冒険者同士の対決を考えております。王室では、正々堂々とし真っ向勝負が美徳とする教えがあるので、それを遵守し階層主権利条件にも当てはめたいと思っております」

「優等生だな。いや、忠実な犬か下僕しもべか」

「・・・どういうつもりで仰っていますか?」

「おっと、気に障ったかな。言葉通りだがな」


 ラギンとイザベルの前に[王立調査隊]が集結した。


「なんだ、侮辱罪でも適用して捕まえるのか?縛り首にでもするのかね?」


 挑発するラギンに険悪な雰囲気になった。


「おい、もう入れるようになっているが、階層は完成しているのか~?」


 [ビッグトルク]他いくつかのパーティが尋ねに来た。


「いや、まだ通行許可は出してません。なぜ入って来れるんですか?」

「聞かれても、階段下りられるからいいんじゃねぇの」


 ぞろぞろと第22階層に冒険者たちは入ってきた。慌てる[王立調査隊]。そして、エリスは思った。『全てはラギンによる影響。文句言ってやる』と。

 ふと気付くと、ラギンとイザベルの姿がない。


「ラギン、どこにいますか!言いたいことがあります、ここまで来てください!」


 [王室調査隊]が周囲を見渡すが、やはり姿が見えない。

 後からやってきたリステア・トコピを見つけたエリスが駆け寄ってきた。


「ラギンとすれ違わなかった?」

「え、こんな深い階層にあいつ来たの?わたしだけじゃなくて、他に冒険者は5人以上いて、見なかったよ」

「作成途中なのに勝手に入り込んで、我々を軽んじる扱いをしてきた」


「エリス!外壁を見てください!」


 [王室調査隊]数名がエリスに呼びかけた。


「外壁がどうしたの。え、こんな設計じゃない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る