第28話 仲間の異変
ズフィッチは、しばらく下を向いたまま身動きしない。たまたま通りかかったラドヤが声をかけた。
「どうしたんだ?瞳孔開きっぱなしだぞ」
「いや、なんだ、あれか。そうだ。ん?どうした。そうでもない。違う。はい。」
「何言ってんだ、ズフィッチ?」
「ぬ。その設計仕様書を渡して、してくれまいか。か。最後の確認に必要なんだ。だろ。です。そう。」
「言葉が変だぞ?」
ズフィッチは強引に設計仕様書を奪い取り、ズカズカと歩いていった。
「モレニ!ルイター!急いで来てくれ~!」
慌てて駆け寄る二人に、ラドヤは状況を説明した。
一方、第19階層では階段が下りれるようになり、冒険者たちは待ちきれず歩みだした。
「もう下りていいんだよな?」
「お、すげぇ本が多いな」
ぞろぞろと第20階層へ下りてくる冒険者たち。
「仕方ない。まずは冒険者たちを受け入れて説明をする。パペットに手伝ってもらうから、モレニとルイターはズフィッチの捜索を頼む」
「分かった、そうしよう」
ラドヤは、下りてきた冒険者たちを出迎えた。
「おいおい、ずいぶん気が早いな。まだ報告しに上がってはないだろうに」
「19階層でのアンタらの魔法に興奮しちまってさ、うずうずして待ってられなかったんだ」
ゴンブトが前のめりで言った。
「まあ待ちなさい。この第20階層は、セーフエリアである。さまざまな文献を用意し、学習・研究を目的とした階層とした。改めて、モンスターや戦術等対策を練ってほしい。他に宿泊所や施設は作っておる。休息も兼ねて、この階層を十分に利用すると良い。また、次の階層主権利については、明日説明をしたいと思っている」
冒険者たちは、それぞれの行動に移った。
「どうにか誤魔化せたか。しかし、ズフィッチ・・・どこへ行った?この階層範囲でどこへ行く?」
モレニとルイターが戻ってきた。
「どこにいない。隠れているのかと思ったが見当たらない。警備パペットには伝えているので、見つけたら報告があるだろう」
「・・・まさか、すでに次の階層へ行っては、おらぬよな」
「設計仕様書を持っていたのなら、可能性はある。しかし、そんな暴走行為の理由が分からぬままだ」
「まず確認しようか」
三人は、第21階層へ続く階段まで移動した。
「なんと・・・」
すでに階段が下りられるようになっている。
「警備パペットをこちらに移動させ、守備を固めてもらう。冒険者たちには明日説明しよう」
「わしらは眠れぬぞ。回復薬を余計に飲んでおこうか」
[サンピラー]という魔法使い集団にとって、予想だにしない出来事。ズフィッチは最も攻撃魔法の優れた仲間。ヘタに暴走すれば、2~3階層くらい吹き飛ばすことも可能だろう。対ズフィッチを想定して文献を読み漁り、対策を講じていた。
翌日、冒険者たちは、宿泊所前に集められた。
ラドヤが説明に入る。
「おはよう皆さん。太陽が見えないので、実際朝かどうか分からないがよく眠れたかな?」
「そんな挨拶はいいから、階層主権利を教えてくれ」
ゴンブトは、急かした。
「申し訳ない、我々の仲間が勝手に設計仕様書を使い、第21階層を設計してしまった。なので、下り階段が通れるようになっている。しかし、昨日の段階で会話がおかしくなっていた。何か理由があるはず。準備が整い次第、第21階層へ調査に向かいたい」
「なんだ、仲間割れか?」
ゴンブトが聞いた。
「それも踏まえ、階層を下りたい」
ラドヤはそう言うと、集団から離れ身支度をした。
その後、冒険者たちは第21階層へ続く階段を下りていく。
第21階層は、とても暗かった。不気味な程の静けさで、比較的近い距離に何か燃えている。冒険者たちはそれぞれパーティでの陣形を取り、少しずつ近づく。
接近すると見えてきた。それは、4つの炎に囲まれた祭壇であった。炎が灯りとなり、ぼんやりと周囲が照らされる。赤く暗い空間で、暗闇に目が慣れてくると外壁が案外近くにあることが分かった。それくらい狭い階層だと理解できる。
階層の隅から、祭壇の方へ動く人影がある。コツコツ足音をさせながら、少しずつ灯りに照らされ両手に本を持っているのが見えた。ズフィッチだ。
ラドヤは、階層を明るくしようと照明魔法を唱えるが、変化がない。
「ラドヤ、ここは魔法無効化になっているぞ」
ルイターが小さな声で言った。
その間にズフィッチが祭壇に到着し、持っていた本が勝手に宙に浮き開いた。
「業火!」
ズフィッチが唱えた。しかし、魔法は無効化になっている。
「業火!業火!」
続けてズフィッチは叫んだ。やはり、魔法は発動しない。
宙に浮いている本が怪しく光った。
「おぉっ!んぐっ!」
この階層にいる冒険者たちは、体が痺れてしまった。
ラドヤは思った。ズフィッチはその本に対して抗おうとし魔法を唱えたのか、と。声に出したいが痺れてうまく言葉を発せられない。
「ふぅ~」
ひとつ息を吐き、祭壇に動き出す姿があった。レイラは、つかつかと歩いてズフィッチの前に歩み出てじっと顔を見た。
「取り憑かれてんな」
そう言うとレイラは悪魔の目になり問い詰めた。
「お前は誰だ?」
ズフィッチは、ぱくぱくと口を動かすが言葉が出ない。
次の瞬間、レイラはズフィッチの首がねじ切れそうな勢いのビンタを食らわした。体が何回転もして外壁に激突しズフィッチは黒い泡を吐き、その後、泡が煙となって本に吸収された。
宙に浮いていた本は、痺れて動けない冒険者たちに次々とぶつかっている。暴れているようだ。
外壁にもバチバチと当たる本は、とうとうレイラに襲い掛かってきた。本が開いた状態で、レイラの顔を被さった。
「お前のような低級がワタシを従えると思っているのか!」
レイラは、開いた本に噛みつき、引きちぎり、破り割いて、原型を留めない程にボロボロにした。周囲には黒い灰も散乱し、赤黒い炎が薄く広がり、本が燃えだした。
本が燃えてしまうと、冒険者たちは少しずつ動けるようなった。
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