第27話 魔法使い
どれだけ走ったか、皆が息を切らした頃、広い空間に辿り着き左右に分かれ、壁沿いで呼吸を整え、戦闘体勢に入る。幼虫は、加速しズシズシと空間の奥まで突き進んだ。体をくねらせ、冒険者たちの方を向く。すると、体の色が変化し枯れたような色になり、動かなくなった。
その幼虫目掛けて、モクレンは落ちていた石を投げつけた。カツーンと跳ね返り、硬い物に当たった音がした。
「あれは、サナギの状態なんだろう。羽化するぞ」
誰もがそう思い、どういう攻撃をしようか思案を巡らせる。
パキーン!
幼虫の背中が割れ、中から想像通りの大きな蛾の姿が出てきた。ノルチェンが弓矢を放つと、大蛾の周りに膜があるため突き刺さることがなく、[サンピラー]ズフィッチが魔法で火の玉を飛ばしてみたが、やはり膜が邪魔をした。
様子を見ることが我慢できず、[ビッグトルク]が駆け寄り、大蛾が羽を広げる前に総攻撃をかける。
突き、切り裂き、いろんな物理攻撃を試みるが、今ひとつダメージを与えられない。それどころか、鱗粉が舞いだし[ビッグトルク]の皮膚が出ている部分が赤みを帯び、腫れ上がっている。
「くそぅ、一旦離れるぞ」
[ビッグトルク]は大蛾から距離を取り、鱗粉の痒みと痛みに悶えていた。
大蛾は、ゆっくりと羽を広げ、ばさばさと冒険者たちに向かって鱗粉を飛ばしている。この鱗粉は冒険者によっては毒症状を引き起こす者がいて、まだ未知なる症状を引き起こす可能性があると、出来るだけ鱗粉に触れないようローブを纏ったり、鼻や口を塞いだ。しかし、目を閉じたままでは戦えないので、目の粘膜から症状が現れ始めた。
「知識がないって悲しいのぉ。何のために薬草が前の階層にあったと思っとるんだ」
「やっぱり、限られた環境を有効に使っていかないとなぁ」
[サンピラー]が仲間うちで話していた。また、こういう話もしていた。
「あの古龍の突風に比べれば、全然大したことない」
「あれ経験しちゃうと、飛ばされんよ」
「しかし、この空間が黄色く鱗粉色になりだしたので、もうケリつけるか」
「そろそろ、いいだろ」
[サンピラー]の4人は、前に出て詠唱を始めた。
「それ、まず動きを止めるか」
モレニが重力魔法で大蛾を押し潰して動きを止める。
「鱗粉を纏めるぞ」
ルイターが数カ所に小さな竜巻を起こし、鱗粉が撒き散るのを抑えている。
「しかしデカイな。ズフィッチ、お前さんの効力上げるとしようか」
ラドヤは、ズフィッチの魔法効果を上げる補助魔法を重ねがけした。
「おぉ、これは久しぶりによく燃えそうだな」
ズフィッチは、補助魔法がかかった時に出せる『紅炎の波』を唱えた。床から次々と打ち寄せる炎が合わさり炎の波となって高さと勢いが増し、大蛾に波状攻撃として炎が打ち付ける。あまりの勢いに、同じ空間にいると火傷と酸欠してしまうくらい、連続した炎の波が絶えず襲いかかる。バタバタとのたうち回る大蛾。しかし、羽を
バタつかせる程、勢いよく燃え出す。
あまりの炎に大蛾は、あっという間に灰になった。一旦、通路に避難していた冒険者たちは、魔法の激しさに圧倒され、言葉を失っていた。
「[サンピラー]の方々、これお渡しします」
パラジが、ズフィッチに設計仕様書を手渡した。
「我々が階層主となった」
[サンピラー]の体が薄っすらと光り、そしてラドヤが言った。
「我々の階層案はすでにある。あまり大した時間はかからんだろう」
そういうと、第20階層へ下りていった。
「さて、我々が階層主になったわけだが、どうするよ」
ラドヤが相談を始める。
それに対して、モレニが言う。
「階層が深くなるに連れ、古龍のようなモンスターが出るやもしれぬ。だから、研究と調査が必要だ」
ルイターも賛同した。
「他の冒険者たちは興味なかろうが、我々の研究意欲に重きを置いても構わんだろう」
ズフィッチが提案した。
「それなら、セーフエリアとして大きな図書館というのはどうだろう。もちろん、宿泊施設も完備して」
それから、[サンピラー]は動き出した。
まず広めの階層を作り、第8階層のセーフエリアに習い、作業員としてパペットを作成した。それから設計仕様書の力を使って、王立図書館や魔法都市博物館にあるごく一部しか入れない禁書エリアの文献を複製させ、階層中央に置いていった。
「本棚は何段にしようか?」
「あまり高くても、ハシゴから落ちてしまうぞ」
「そのためのパペットたちだろ」
膨大な文献を前にして、少し楽しそうな[サンピラー]たち。
「さて、パペット諸君、出番だぞ。まずは分類ごとに運んでいこうか」
天井の高さまである本棚に、魔法関連の本を並べていく。その他、医学書や武器に関すること精錬やモンスターに対する伝記や食にまつわる文献、様々な国の王室についての歴史書、演劇や大道芸等、幅広く各種の文献・書籍を用意した。
また、作業用パペットには担当ごとに文献の名称と配置を覚えさせ、利用者の要望に応じて文献を探し出し、提供できるよう、特化型高機能パペットとして成長させた。
この第20階層の7割程を占める図書館。残りの部分は、宿泊所、診療所、蘇生所、食堂、道具屋、鍛冶屋といった最低限冒険に必要であろうという設備が作られた。また、各設備の受付応対は専属パペットが行う。
ズフィッチは、階層全体の最終点検を行なっていた。利用する側の行動や気持ちを考え、図書館の家具類を少し変更するといった配慮をしている。
机を少し移動させるため、パペットに頼んでいると、一冊の本が床に落ちていた。
「おーい、これは誰の担当だ?本が落ちているぞ」
ズフィッチは、本を手に取った。その本は勝手に開き、黒い煙がズフィッチにまとわりついた。
「ん゛んっ!」
その光景を本棚の角で見ている者がいる。ラギンの指示を受け、姿を消すローブに身を包んだイザベル。[サンピラー]やパペットたちは気付かない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます