第26話 ノームのパラジ
ぽつんぽつんと樹木はあるが、丘陵地形の草原が広がっている第18階層。各冒険者は、それぞれの目的で動き出した。
[サンピラー]は魔法研究の延長として、説明書を参考にしダンジョン内で地上効果以上の薬を作ろうと薬草採取に奮闘している。
それに対抗しているのが[王室調査隊]で、僧侶といったヒーラー担当が3名いる。普段の活動は、王室から要請を受け災害時の人命救助や疫病対策のような救援することが役割である。今回のようなダンジョン内部で任務を与えられることは貴重な経験。地上でも応用できるよう、日々努力と責任感が強い。
一方、ソロで探索に参加しているノームのパラジ。元々山育ちであるパラジは、薬草の見分け方等、日常行われていることなので、目新しさはない。なので、必要分の薬草を採取し、その後は、設計仕様書探しにかかった。
「ん~、こういう草原で野生動物ねぇ。しかも、盗みを働くやつは限られてくるんじゃないの~」
丘になっている所に重点的に探すが、大穴が開いていない。ウサギやネズミが住んでいそうな穴の大きさ。ここに設計仕様書を持ち込めない。
「次は、数少ない木だね」
ぽてぽてと歩いていると、後ろから大声がした。
「そんな歩き方じゃ、いつまで経っても目的地には着かんぞ、あっははははは」
[ビッグトルク]がパラジをからかい、通り過ぎていった。
「痛い目見ろ~、過去の反省も出来ない連中。他種族に助けてもらってたくせに」
パラジは、つぶやいた。[ビッグトルク]が通った後は、動物たちが逃げ出していて、とても静かになっている。そのせいか、パラジは独り言を言い出した。
「こっちだってさ、ダンジョンの潜り始めは他種族パーティだったんだぞ。手先の器用さと攻撃と回復魔法が少々使えることで参加してみたら、仲間たちは、お菓子食べすぎてお腹壊したり、サキュバス歓楽街で抜け出せなくなったり序盤で離脱して、おれ一人さ。せめて行けるとこまで冒険したいじゃないか」
ボヤいていると、目的の木に到着した。間近で見ると、ずいぶん大木だった。
「野生動物ってさ、木の根元に巣を作るんだよ。落ち葉集めてベッドにしてさ」
パラジは、木の根元にある空洞に手を突っ込んだ。
「やっぱり!」
あっさりと設計仕様書を見つけた。そして、パラジは[王室調査隊]がいる所へ戻ることにする。
その道中、また[ビッグトルク]が絡んできた。
「おいおい、その手に持ってるのは設計仕様書だろ!ちょっと見せてくれよ!」
大声出して駆け寄ってくるゴンブトは、強引に設計仕様書を奪い取った。
「あ~、これ偽物だ。階層主になったから分かるんだけどよ~、これ処分してやるよ」
ゴンブトは、パラジから設計仕様書を強奪した。
「ふざけんなよ!返せ!」
パラジが叫ぶ。
「なんだ、小さいのがピーピー言ってんな!」
ゴンブトがパラジを蹴ろうとした。その攻撃を避け、パラジは地面に手を付いた。
「土の
ゴンブトが立っている場所の地面が激しく隆起し、ゴンブトを跳ね上げた。
「ゴフッ!」
少し離れた場所に落下したゴンブトは設計仕様書から手を離した。パラジは、手を合わせ、その手をパッと開く。
「裂けろ!」
ゴンブトは、割れた地面に下半身が落ち込み挟まれた。
設計仕様書を手にしたパラジは言った。
「挟まれたままがいいか、地の底に行くか、潰されるか。どれがいい?」
「うるせぇな、調子に乗るなよ!」
「そう。動物たちが落ちないよう、塞ぐね」
ゴゴゴゴゴと音を立てて地面の割れ目が塞がっていく。
「すまん、悪かった!出してくれ!」
「他種族をバカにするな」
[ビッグトルク]メンバーがゴンブトを引き上げ、それから地面が塞がった。
それから振り向かずにパラジは草原を歩いていく。後方から何か言ってるようだったが、興味がなかった。
パラジはエリスに設計仕様書を見せると、こう言われた。
「次階層主は、あなたです」
パラジの体が薄っすらと光り、また、この階層では鐘が鳴って階層主が決まったことを知らせてくれた。
第19階層への下り階段へパラジは向かった。
他冒険者たちは、しばらく日数がかかるだろうと薬の調合や薬草の乾燥作業を始めていた。すると、パラジが戻ってきている。
エリスが聞いた。
「あれ、忘れ物?」
「いや、出来た。出来たんだけども、自然に任せる時間が必要なので第18階層で二日間くらい待った方がいいかな」
そして、パラジは他冒険者たちに同様の説明をして、二日後に第19階層へ進むこととなった。
準備を整えた冒険者たちは、第19階層へ下りていく。
階段を下りた先には、少し湿った土で出来た通路がある。他の階層は通路が四角だったが、この階層はトンネル工事が行われているような円形に掘られた通路。
「ようこそ第19階層へ。ボクは地中での暮らしぶりを見てみたかったので、再現している。それは遭遇してからのお楽しみということで。また、階層主権利条件は、その相手を倒すこと。以上」
各パーティごとに通路を進み出した。しかし、脇道がなく一本道なので、ぞろぞろと大人数で進む。
通路を進んでいくと、段々壁がテカりがあるように見える。イモウが剣の鞘で押してみると、ねっとりと糸を引いていた。
「これ、粘液じゃないか?」
そういうと、他冒険者たちは警戒を強めていった。しかし、聞こえの良い冒険者数名は気付いていた。
ズゥシズゥシ
何かが接近してくる音がしている。レイラは、後ろに明かりを照らしてみた。
「何だ、ありゃ!」
通路の形いっぱいみっちりに詰まった幼虫がこちらに向かってきていた。これまで大きいモンスターはいたが通路の通る空間がない程の太さを見たことないので、中には悲鳴を上げながら走り出す冒険者もいた。
とにかく一本道。後ろからは、迫ってくる幼虫。喰われるかどうか分からないが、下敷きになって潰されるより精一杯前に走るしかない。
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