第25話 階層の仕様

 [王室調査隊]はエリスゴーレムが、よちよち歩いていて他ゴーレムに全く近づけなかったのが功を奏した。しかし、エリスが言う。


「このままでは負けてしまう。モクレン、あなたやってみない?」

「え?あ、こんな細いの握るのか」


 モクレンは、魔法の杖を折らないよう両手で拝むように挟み込んでみた。


「あれ?動く」


 モクレンゴーレムは、歩き出した。しかし、もたついている。それを見逃さないルコットゴーレムは、高速起動でモクレンゴーレムを一気に外壁まで寄り切ってしまう。どすぅん!と大きな音と共に、モクレンゴーレムは右腕が外壁と体に挟まれ、平べったくされてしまった。

 ルコットゴーレムは、左腕でモクレンゴーレムの核を打ち抜こうとした。しかし、忍び寄っていたルイターゴーレムはルコットゴーレムの右太もも辺りを刈るように殴りつけた。大きくえぐれ変形したルコットゴーレムは、腰が抜けたようにべたんと座り込んで仰向けに倒れた。それを確認したルイターゴーレムは、両腕を振り下ろし、ルコットゴーレムの胸元の核を破壊した。

 モクレンゴーレムの足元でルコットゴーレムが倒されたために、のしかかられ足が固定されてしまった。万事休す。


「おや、すまないね」


 ルイターは仕留めにかかった。モクレンゴーレムは上半身は動かせるので、必死の抵抗をするために平べったくなった右腕を投げ出した。伸された分、鞭のようにしなる右腕は威力が増し、ルイターゴーレムの頭部を粉砕した。その好機を逃さぬよう、続けてモクレンゴーレムは左腕を精一杯突き出した。ルイターゴーレムは勢いよく背中から倒れ込みその衝撃で核である赤い水晶が胸元から飛び出し、ルイターゴーレムは再起不能となった。


「あれまぁ、負けちゃったね」


 ルイターは油断した訳では無いが、モクレンゴーレムの変形した腕による攻撃は想定できなかった。


「あはははは、勝った!あの状況から勝ったぞぉぉ!」


 モクレンは喜び、[王室調査隊]もモクレンを褒め称えた。


「いや~、ゴーレムがあんな動きできるとは思わなかったよ。はい、設計仕様書」


 ルコットからモクレンは設計仕様書を受け取った。そのまま、モクレンはエリスに渡し、エリスがこう言った。


「[王室調査隊]が次の階層主です」


 その宣言を受けて、モクレンを含めた[王室調査隊]9名の体が薄っすらと光った。

 エリスはルコットに尋ねた。


「あのゴーレムたちは、どうなるのです?」

「あの子ら、放って置いていいよ。次階層主が決まったので、今後は第17階層の護衛に切り替わる。私が新しい赤い水晶を埋め込むので、時間が経てば起き上がり、護衛のため外壁徘徊を始める。モンスターが来たら排除してくれるよ」

「護衛任務か~」


 その後、[王室調査隊]は第18階層へ下りていった。またしばらく待つ時間ができ、各々行動に移った。ゴーレムをのんびり眺める者や、他階層に行って補給する者。

 それから数日、エリスが第17階層に戻ってきて通達した。


「第18階層へお越しください」


 冒険者たちは、準備を整え第18階層に辿り着いた。

 そこはダンジョン内とは思えない明るい場所。草原が広がっており緑の香りがして、丘があり、適度な日差しを感じる。


「ずいぶん爽やかな場所だな」


 ゴンブトが言った。

 それを聞いてエリスが説明を始めた。


「この第18階層は、窮屈なダンジョンから一時的にでも開放されたいので、あえて地上っぽく作ってみました。また、階層設計でどの程度が限界や制限があるのか、今思いつくことを試したので情報共有として結果を先に報告します」


 何か変わったことを言い出したな、と冒険者たちはエリスを注目した。


「設計仕様書は、階層主の欲望や要求を叶えてくれるというのならば、何をしてもいいのだろうと読み漁り、次のような文章を見つけました」


『ダンジョンと地上の均衡を崩してしまう事は認められない』


「例えば、強力な破壊兵器をダンジョン内で作成し、地上に持ち込むことができない。作成しようとした時点で具現化出来なかったり、消失しました。また、ハイポーションやエリクサーのような地上でもある高価高品質な薬は作成可能だけど、不老不死の薬は可能だがダンジョン内でしか有効ではない。仮に不老不死となり地上に出たら自然の摂理や均衡を破るため、その肉体が灰になって消失するでしょう」


 ラドヤが質問した。


「そのような調査を踏まえ、この階層では何をするのだ?」


 続けてエリスが説明した。


「はい、せめてダンジョン内でポーション等、回復や状態異常に対しての薬をこの階層で作成・補給できないかなと思い、草原は薬草を自生させています。ただし、地上に持ち帰ると消失します。しかし、体力回復した後に地上で体力が奪われることはありません。体力というものが形で表されるものではないから。皆さんには、薬の作成手順や種類を記した説明書を配布します。それに基づいて、薬が必要だと思う方は作られてください」


 エリスは一呼吸置いて、また話しだした。


「次の階層主権利条件ですが、この第18階層の地形が完成し、権利条件を決める段階で設計仕様書が野生動物に盗みされられました。みなさんがこの階層に入られているということは、階層完成と満たされているようです。なので、階層主権利は、設計仕様書を見つけ出した方に次の階層主となります」


 小難しいことが苦手な[ビッグトルク]の面々は、エリスの説明がとても長く感じて飽き飽きしていた。なので、薬の説明書が配布される前に、設計仕様書を探しに動き出した。

 [サンピラー]やリステア、トコピといった魔法や自然要素に価値を見出している者、過去の苦い経験がある者は薬作成に重点を置き、同時に設計仕様書も探すといった行動に移った。

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