第24話 テイマー
ゼピンは、カメロの胸元にあった設計仕様書を取り、ページをめくる。
「・・・ん?何も書いてないな」
「決めてないってこと?」
「んふふふふふふふふ」
「笑ってないでさ、いつまでもこの階層で飲み続けるわけにもいかないから決めてくれない?」
「よーし!次階層主はルコットに決定しました。受け取って!」
「そんなんでいいの?というか、決まらないでしょ」
ルコットは設計仕様書を手渡された。受け取ると、薄っすらと体が光った。[陽だまり]パーティが階層主なので、その中のメンバーが宣言してしまうと効力が働いてしまう。
ゼピンは手を振りながら、こう言った。
「いってらっしゃい」
ルコットは愛想笑いをして、第17階層への階段を下りていった。
ほとんどの冒険者たちが酔いつぶれ寝ていた。階層主権利のこともこれまでの疲労ですっかり記憶から飛んでいた。
「次の階層出来たんだけど~、来る~、来ない~?」
「はっ!」
冒険者たちは慌てて装備を整える。
「君らが酔い潰れてた時に、私が階層主権利を拝命した。そして、もう出来たよ」
「なんだってー!」
ルコットの後を皆ついていく。
階段を下り、第17階層は天井が高く、広さは外壁が少し近く感じた。また、外壁周囲には11枚の幕が見える。まだ少し酔っている冒険者たちは、ぼんやりとして質問も出てこない。そこでルコットは、30cmくらいの杖をスッと取り出し、指揮者のように振りかざした。
ズゥンズゥン
一つの幕から、大きな物体がこちらに向かってくる。ざわつく冒険者たち。
「おぉ~、そうきたか」
[サンピラー]のルイターが声を上げた。
「そう、この階層の主役はゴーレム!ずっしりとした巨体を操作して、競い合ってもらう」
ルコットはゴーレムを操り、冒険者たちの目の前まで動かした。ずんぐりとした形。ゴーレムの体は胴体から頭部、手足が生えたつるんとしており、体長5mはあるだろう。見た目、土で出来ているのが分かる。また、その体長を支えるため、足の太さは冒険者が抱きついても手が届かないくらいの直径がある。
「さて、説明しよう。皆さんにはゴーレムテイマーとして各パーティ代表者が操作する。それには、これから渡す魔法の杖を持ち、思念を伝えてゴーレムを動かす。各ゴーレムは、全て同じ大きさ。均等に作っている。また、思念を伝えるからと言って、元々の形状を変えることは出来ない。例えば、『球体になれ』とか『腕と胴体が一体化』ということは不可能。今回、土が素材となったゴーレムなので、激しい動きによる乾燥が生じた場合のため柱にはミストシャワーが設置してある。適度に湿らせるように」
ルコットは、階層にある4本の柱に設置されたシャワー部分を指差した。また、説明に戻った。
「対戦形式はトーナメントという一対一ではなくバトルロイヤル、一斉にゴーレムを戦わせます。ルールはゴーレムが操作不能になるまで。部位破壊でゴーレムが戦えなくさせるか、核となる赤い水晶が胸部に収めているのでそれをゴーレム内部より取り出しても勝利扱いとなる。ゴーレムの操縦者について、二人以上のパーティは途中で操縦者が変わっても構わない。相性があるか分からないが、思念が弱ければゴーレムは動かない。他に質問が出てきた場合、個別に伺う。以上」
ルコットは、各代表者にゴーレム操縦用魔法の杖を渡した。
「こんな棒っきれで伝わるのかのぉ」
[陽だまり]で酒が多少抜けているのはピレンしかおらず、魔法の杖を手にした。
「そぉれ、前に進んでみろ!」
魔法の杖を前方に振ってみると、ゴーレムがズゥンズゥンと音を立て、ゆっくりと歩みだした。
「あれ、意外と簡単だな。思念って言葉通りだ。思って念ずるのかぁ」
他冒険者たちも同様にゴーレム格納部屋から階層中央に歩いている。その状況を見てルコットが叫んだ。
「では、今から勝負開始!」
次第にゴーレムたちが、お互い攻撃の当たる距離になってきた。先手を打ったのは、ルイター。ゴーレム操縦経験があるのか、ゴーレムを走らせている。ズシンズシンとトコピのゴーレムを狙い胸元に助走をつけたパンチを放った。勢いのある衝撃は、胸元をえぐり赤い水晶をゴーレム体外へ吹き飛ばした。トコピのゴーレムは何も出来ないまま、失格となった。
その光景を見たゴンブトは、勢い任せな攻撃を試すことにした。
「ぬぉぉぉぉぉ!」
当人が走っているわけではないが大きな声を出し、ゴーレムと一体となっている。突進型の攻撃は操作に慣れない他ゴーレムを弾いていく。ピレンゴーレムは、見事に弾き飛ばされ転ばぬよう床に両腕をつこうとした。しかし、タイミングが合わず両肘がついてしまい、その衝撃から肩部分が粉砕してしまった。立ち上がろうとするピレンゴーレムだが、もそもそ動くたびに体が削れてしまい、動作不能による失格。
「なんじゃぁ~」
ピレンは思わず声を上げた。
ゴンブトゴーレムは同様な攻撃をノルチェン、パラジにも仕掛けた。これに便乗しルコットゴーレムが倒れたノルチェン、パラジゴーレムの核を破壊した。
「ははは~、ナイスフォローだ!数を減らしてからアンタと勝負するぞ!」
ゴンブトはルコットに言った。しかし、ゴンブトゴーレムに異変が起きる。膝辺りに亀裂が入り崩れ落ちるように前のめりに倒れた。
「なんだとぉ!」
これを見逃さなかったルコットゴーレムは、背中から何度も踏みつけゴンブトゴーレムの核を破壊。
「なんだよこれ、設計ミスだろ!やり直しだ!」
文句を言うゴンブトにルコットは言った。
「最初の説明を聞いてなかったのか?何のためにミストシャワーを設置したか。あれだけ動き回っていれば土で出来ているゴーレムには乾いてヒビが入る。だから、崩れたんだ。ほら、ルイターゴーレムはシャワーにいるだろ」
「ぐぬぬぬぬぬ」
ゴンブトとルコットの戦いの最中、ルイターゴーレムは無双状態だった。あっという間にリステアやイモウ・レイラ組のゴーレムの核を破壊していた。残っているのは、[王室調査隊]、[サンピラー]、ルコットの3体。
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