第23話 酒の席

 離れた場所からモスモスが酒瓶持って歩いてきた。


「あれ、みんな来たんだな。コボルトをベロベロに酔わせてきたぞ。ぐわっはっはっはっは」


 確かに、奥の外壁付近では、毛むくじゃらな存在が何体も倒れている。冒険者たちは仕方なくこの階層を探索し始めた。噴水が3ヶ所あり、モンスターが確かにいるのだが襲ってくる気配はなく[陽だまり]が言うように酔い潰れている。さらに、最初の印象通り、大した時間かからずに周回できる階層。しかし、すごい酒の匂い。酒が苦手な冒険者は、匂いで酔っていた。


「おーい、リステア。ちょっと話があるんだがいいか?」


 トコピがリステアに声をかけた。


「なんだい、トコピ」


 一杯ひっかけながら、リステアは返事した。


「さっきの古龍のことが気になってさ」

「あれね。確かにおかしい。あっちのモンスターが寝てない所に移動しようか」


 リステアとトコピは、外壁まで歩いて行く。その途中、[王室調査隊]が休憩をしていた。リステアはモクレンに目配せして、一緒に来るよう促した。


「なんでアタシに合図を送ったんだ?」

「そちらの目的に関係するかもしれない話を今からするので」

「?」


 リステア・トコピ・モクレンは、外壁に背を向けて座り、トコピから話し始めた。


「あの古龍は、ずばりラギンだろう」

「だよね。前と同じで、どの程度階層が出来上がっているのか興味があったのだと思う」


 モクレンが驚いた。


「ラギンは、あんなに強いのか!」

「直接戦ったことが初めてだったので、あの強さが本当なのか分からない」

「分からないって、リステア、みんな何もできなかったじゃないか」

「力の差を見せつけるなら、吹き飛ばすだけじゃなく誰か見せしめのような形で数名仕留めていてもおかしくない」

「確かに大怪我もなく、ブレスも臭いだけだった。戦闘不能だけど命はある」


 トコピが考え込んでいる。


「あのさ、ラギンがドラゴンである姿を見たことがない。また、いろんな地域で情報を集めていたが古龍の存在も聞いたことがない。さらに、設計仕様書を見せてもらって古龍出現が書いてなかった。また情報不足。[サンピラー]の知恵も借りないか?」


 リステアは言う。


「ラギンについて聞くつもり?」

「いや、古龍のことを聞いて、特徴が戦ったヤツと同じなのか」


 3人は、周囲を見渡した。少し離れた場所に[サンピラー]は陣取っている。噴水で竹筒に酒を汲み、サンピラーに近付いた。


「ども、皆さん。我々、リステア・トコピ・モクレンです。お話伺えますか?」


 リステアは、挨拶をして酒が入った竹筒を見せた。


「何用かね?」


 ルイターが尋ねた。


「さまざまな知識と研究を重ねている魔法使いの方々は、古龍について何かご存知かなと。我々は、対ドラゴンが未経験ないし、さらに古龍となると滅多に遭遇しないと聞いたことがあって」


 ズフィッチが話し始めた。


「まぁ、座って飲みながらで話そうじゃないか。[サンピラー]はそれぞれ専門分野が少々違うが、魔法だけでなくやはりモンスターについても研究はしておる。この世界での古龍の話は伝承として残っておるがここ数十年は目撃した話は聞いたことがない。[王室調査隊]とは別に我々も王室と接点があるから、国中の話は耳にする。そこで疑問に思うのが、あの大きさだ。伝承とは異なる」


 モクレンが食い気味に聞いた。


「大きさがどう違うんだ」


 今度はモレニが話した。


「古龍は、我々の前に出てきた姿だと体長が2倍以上ある。あまりにも大きすぎる体は長く生きるに非効率。洞穴への通路も幅広く必要で侵入者が増え、いくらドラゴンとはいえ、敵がいないわけではない。他のドラゴン種のような凶暴さより、もっと知力が高いのが古龍と伝わっている。我々との戦い方は、もてあそぶやり方であって消し去る手段ではなかったように思える」


 さらにラドヤが言う。


「冒険者たちを見ている存在があるのだろう。退屈しのぎに干渉してきたかのような出現だからな」


 それからも酒を酌み交わしつつ、情報交換や模索と考察が続いた。

 その頃、ルコットは軽く酔えたかな?程度なので、もっと強い酒が飲める場所がないのか[陽だまり]に聞くため、階層をうろうろしていた。


「我々は~王室に身を捧げているわけなので、もっと勤勉かつ武力を持ち合わせつつ、優雅さを~」


 エリスが酔っぱらって、[王室調査隊]隊員たちを説教していた。しかし、酔いつぶれて誰も聞いていない。


「ちょっとエリスいいか?」

「ん、なによぉ~」

「階層主の[陽だまり]がどこにいるか知らない?」

「おじい様の方々はぁ~、噴水でお手入れしてたよ」

「お手入れ?何の?」

「ぉ~ひ~げぇ~」

「あぁ、そうか。探してみるよ」

「ルコットって、飲んでないのぉ?酔ってないじゃないの~」

「ん、ほろ酔い程度だ。だから、もっと酔える場所を聞きたくて」

「でた、うわばみ!わぁたしが苦労してるの飲んでるのに余裕ぅがあられますんのねぇ~」


 面倒くさくなり、ルコットはエリスを放置し[陽だまり]を探した。噴水周辺で酔いつぶれてないか見回したが発見できず、外壁にあるライオン頭部の彫像から酒があふれ出ている場所に向かった。


「ぁ~、こんな所にいたのか」


 外壁にモスモス以外の3人が横たわっていた。眠っていないのはゼピンだけだった。


「もしも~し、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「おりょ、エルフの嬢ちゃんじゃないか、飲んでるぅ~」

「飲んではいるけど、もっと強い酒飲める泉みたいなのはないの?」

「作ってみたんだけどさ、揮発しちゃって、この階層内を漂ってるよ」

「それなら噴水とかの液体は、水で割ってあるってことか」

「うまいこと調整して飲みやすくしてるんだ。ちゃんと考えてあるんだよぉ」


 ルコットは、少しがっかりした。もっと酔いたかったからだ。


「それとさ、次の階層主権利の条件って何なの?」

「ん、ワシ知らんよ。カメロが決めるんじゃなかったかなぁ」

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