第22話 突風

 モスモスが小さな声で言った。


「我々[陽だまり]が第16階層の階層主権利を得た」


 全員の体が薄っすらと光った。お互いの顔を見あって、静かにバレないよう第16階層への階段に移動していく。

 その時である!洞穴中央付近に稲妻が走り、目がくらむ雷光と唸る地響き、その衝撃で爆発が起き第15階層全体を白煙に包まれた。

 白煙が濃く、隣にいる冒険者すら確認するのが難しい。


「下手に動くな、状況変化に気をつけろ」


 武器を取り、身構える。なかなか白煙は消えず耐える時間が続く。


「何か音がする、注意しろ!」


 バタバタと大きな音が遠くで聞こえるが、まだ変化がない。


「うわっ!」


 急な突風で冒険者たちは立っていられず、なぎ倒された。しかし、その突風で少し視界が開けている。さらに、突風は続く。地面に這いつくばって、体が吹き飛ばされるのを堪える。


「おいおい、この階層は何も出ないって言ったじゃないか・・・あれはないだろ」


 ノルチェンが呟いた。


 視界が開けた洞穴に大きな古龍がいる。とても深く濃い銀色、くすんでいるようで

ギラつく攻撃的な体色のように見える。

 冒険者たちが次々に起き上がると、近づかせまいと炎のブレスを吐き牽制してくる。そして、大きく羽ばたいて巨体を宙に浮かせると、羽ばたくのを止め勢いよく着地し、地面を震わせる。その衝撃が冒険者たちに伝わる頃を見計らって、再度翼による突風でなぎ倒しにかかる。この攻撃は巨人族であるモクレンですら軽々と転がってしまう。

 何もできない冒険者たちは、散らばって取り囲むように少しずつ移動を始める。


 ブロロロロォォォォ


 古龍によるブレス攻撃。引火性があるのか、単なる呼吸か?冒険者たちは、さらに警戒をする。


「ん、臭ぇ」


 今のブレス攻撃は、とんでもなく悪臭を吐き出していた。毒性がないので、悪臭には毒消しの薬や魔法は効果を示さない。

 古龍は次の攻撃を考えているのか、冒険者たちを見渡し、また外壁の方を見ているようだ。


 ンオオオォォ


 古龍は低く響く叫び声を上げ、再度両翼を大きく何度もはためかせた。洞穴の外壁を伝って突風が左右から挟み込んで吹いてくる。冒険者たちは突風に飛ばされながら中央に集められ、その状況を見て右翼でこれまでにない程の強烈な風を起こし、冒険者たち全てを第16階層へ下る階段へ追いやった。

 誰も冒険者が残っていないことを確認して、階段周辺を軽くブレスを吐いて氷漬けにした。


 古龍に女性が近づいてきた。


「もういいんじゃない?」

「そうだな」


 古龍から何度かまばゆい点滅する光が発せられた後、老人の姿になった。


「氷漬けにしたら、移動できないんじゃないの?」

「あぁ、あれはすぐに階段から上がって来れないようにしているだけだ。1週間もあれば溶ける」


 老人と女性は、見たことある姿だった。


「しかし、ホント悪趣味」

「イザベル、そう言うなよ。どの程度階層が出来上がっているのか確認したいじゃないか」

「それなら、こっそり見て回ればいいじゃない。昔住んでた洞穴に似てるからって古龍の姿を真似て幻覚魔法を使ってさらに体を大きく見せるなんて。古龍は、悪臭ブレスやらないでしょ?冒険者を全滅させるなら、一気にやれるのに」

「何言ってんだ、苦しませないと面白くないだろ。ダンジョンはまだ半分だ。ダンジョン主であるこのラギンが、もう冒険者を仕留めてしまうなんて早すぎる」


 一つため息をついて呆れるイザベル。ラギンが言う。


「次の階層は、どんな内容になるかのう」


 突風により、冒険者たちは階段を一番下まで転げ落ちていた。


「んだよ、痛ぇな!」

「モンスターでないって言っておいて、あのジジィたちは」

「前もこういうのあったよな。サキュバスから逃げた時か」

「っ~か、ココどこだよ!」


 順番に起き上がってみると、噴水があり、水飲み場がたくさんある。しかし、それほど広い空間ではない。

 冒険者たちが噴水まで歩いていくと[陽だまり]の面々が近寄ってきた。


「いや~、びっくりしたな、あれは」


 ゴンブトが叫んだ。


「嘘つきやがって!あれほど大きい龍を見たことがないぞ!冒険者を全滅させたかったのか!」


 カメロが答える。


「それは違う。こちらの設計仕様書に書き込んである仕様を見てほしい。古龍出現等書いていないんだ」


 近くにいた冒険者たちは、第15階層の仕様項目を読んだ。確かに、モンスターを出現させる記述がない。


「一体なんだったんだよ」


 ふらふらとピレンとゼピンが近寄ってきた。


「おめ~さんたちも、喉を潤せ。落ち着くから」


 一同が言った。


「酒臭っ」


 カメロが説明する。


「我々[陽だまり]としての願望があった。うまい酒をとことん飲みたい。誰に制限されるわけでもなくな」


 イモウがつぶやいた。


「サキュバス街で浴びる程、飲めるじゃないか・・・」

「何を言うか!サキュバス街は、我々が高齢だからという理由で中央通りでは入店拒否され、裏路地に行けばドレインかます程の生命力もないからといって、門前払いされた。酒池肉林を望むとか節操のないことを言ってるんじゃない。オレらはな、浴びる程に酒を飲むのがジジィとしての願望なんじゃぁぁぁ」

「そうだぁ!もっと叫べぇぇ!」


 すでに酔っている[陽だまり]たちは、よく分からない主張で鼻息を荒くしていた。

 一通り話を聞いたイモウが質問した。


「向こうの噴水で、がぶ飲みしたり、ひっくり返ってるのは何?獣人?」

「いんや、モンスターだ。適度に戦いたいだろうから、モンスター配置したが酔っちゃった。ほぼ寝てるぞ」

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