第21話 老人たち

 驚きすぎてピレンを忘れる二人。ルコットが言う。


「もう一方ひとかたは、左の奥で手を挙げてます。一緒に行きましょう」


 ヨタヨタと竹の根に引っかかりながら、ピレンの元へ急ぐ。


「うぉ~ぃ、ここだぁ~!なんか光ってんだよぉ~」


 ピレンは怪我の功名、光る竹のそばに飛ばされていた。ルコットは、ピレンの怪我具合を確認してゆっくりと体を起こした。


「いや~、罠で死ぬか、打ちどころが悪くて死ぬか、ヒヤヒヤしたよ」

「咄嗟にやったことなので加減が難しくて」

「ルコットとか言ったな。風魔法が得意なのか?」

「えぇ。他にもいくつか出来ますよ」


 ピレンとルコットが話していると、カメロが呼んだ。


「この光る竹どうしたらいいんだ?切るのか?」


 そう言いながらカメロが光っている部分を両手で触ってみると、さらに強く輝き出した。そして、ずっしりと重い金塊がカメロの両手に収まっていた。


 ゴ~ンゴ~ンゴ~ン


 どこからか鐘の音が鳴り響き、ノルチェンが走ってやってきた。


「おめでとうございます!次の階層主はあなたです!」

「え、あ、ちょっといいか?」

「何でしょう?」

「階層主権利ってパーティ自体でも可能なのか?」


 ノルチェンは確認のため設計仕様書を開いて項目を探している。


「いいみたいですよ、パーティでダンジョンに踏み込んでいるなら、名乗るったら良いみたいです」

「そうか、悪いなエルフの娘さん。助けてもらったのに、オレたちだけに権利があって」

「今、奪い取ったら、私が権利受け継げるの?」


 笑いながらルコットは言った。

 それに対してノルチェンが答えた。


「あくまでこの階層では金塊を取った冒険者が権利取得って条件なんで」

「そうよね」


 それを聞いて、カメロが設計仕様書を受け取り、宣言した。


「オレたち[陽だまり]が、第15階層のあるじとなったぁぁ!」


 [陽だまり]の三人の体が薄っすらと光った。その後、[陽だまり]は第15階層へ下りていった。


 次の階層主が決まったことで、竹林庭園の中央に冒険者たちは集まった。そこで、ノルチェンが言った。


「またしばらく時間がかかるでしょうから、この階層主である私がおもてなしをしたいと思います」


 そういうとノルチェンは、喫茶スペースの小屋から何やら持ち出し準備を始めた。手際よく動いているので他冒険者たちは邪魔せぬよう、趣ある竹林庭園を眺めていた。


「お待たせしました~」


 数時間経って呼ばれてみると、焼き筍、竹の器に入った筍ご飯、笹の茶、竹筒の温かいお酒等、竹林庭園で取れる食材を使った料理が振る舞われた。


「どうぞ召し上がってください」


 ホクホクの食感、なんとも芳しい爽やかな香り、それぞれの採れたてを味わった。そして、お酒。

 疲れた体に見事に酔う冒険者たち。レイラとモクレンという長身同士が意気投合し酌み交わす。[ビッグトルク]のポージング余興に、トコピの毛づくろいをするリステアとパラジ。ルコットは、全く飲み足りない表情をしている。

 この宴は、9日間程続いた。


「なんじゃ、酒臭いな」


 第14階層に戻ってきた[陽だまり]の第一声だった。


「よーし、オレたちの理想であり願望が次の階層になった。準備を整えて、いざ参ろうか!」


 翌日、冒険者たちは第15階層へ向かう。ぞろぞろと階段を下りていくと、土や岩石がむき出しな大きな空洞が広がっている。


 カメロが言った。


「ようこそ第15階層へ。老い先短い我々[陽だまり]は多くの願望がある。その中でも冒険者として一度は見たかったものを設計仕様書はどのような再現をしてくれるのか試したかった。いや~見たかったんだ、是が非でも見たくてしょうがなかったんだよ」


 ゴンブトが言う。


「説明は手短に頼む」


 カメロは続けて言った。


「我々の悲願なのだよ、分かってくれよ若い冒険者たちよ。見たいのはドラゴン。それも古龍!他種族よりも相当な年数生きながらえる古龍の住処を設計仕様書は作り上げてくれた。それがこの第15階層だ」


 薄明りに照らされた階層内は、楕円形のような洞穴で他に通路や区切られた場所が見当たらない。

 ノルチェンが尋ねた。


「確かにドラゴンの住処はこのような洞穴が多いが、ドラゴンと戦うのが目的なのか?」

「我々ジジィ共が勝ち目のない戦いをすると思うか?次階層主権利は、龍の鱗を見つけ出すこと。脱皮後も再現してあるので、どこかにある。他モンスターは出現しないよう設定しておるので、安全だ」


 冒険者たちは洞穴の中心部分まで進むよう指示され、そこから分かれて龍の鱗を探し始めた。先程まで龍が横たわっていたようなくぼみ付近や、塞がれているが通った跡がある通路、細かく再現してある。

 鱗を探しながら、イモウがレイラと話していた。


「レイラは龍や古龍を見ることってあったの?」

「ん、サキュバスの頃は無いよね。階層というより深度が違う。そもそものレベルも別次元だし」

「今の体なら戦えそう?」

「全く別物で魔力とか桁違いに上がってるけど、単独では話にならないでしょ。大人数でもどうなんだろうね」


 それから数時間探すが、龍の体の一部すら見当たらない。


「案外見つけられないもんだな。置いた場所近くを探してるパーティもいるのに」


 カメロが言う。

 それに対して、ピレンが言った。


「どれ、設計仕様書に記した場所を確認するか」


 設計仕様書を開くと、ひらりと何かが落ちた。


「・・・これって、まさか鱗じゃないよな?」


 モスモスが拾い上げると、体が薄っすらと光った。


「おいおいおいおい、どうすんだよ!設定ミスだ、自作自演じゃねぇか!」


 ゼピンが詰め寄る。[陽だまり]4人が円陣を組み、皆で鱗をそっと摘まむ。

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