第20話 竹林庭園

 冒険者たちは、第14階層に下りた。


「なんだ、公園か?」

「階層主であるノルチェンが、ご説明致しましょう。この第14階層は旅先で聞いたことのある、とても遠い東の方にある国で整備された竹林庭園を再現してみたかった。垣根ごとに手入れされた竹林は風にそよぐ竹同士の擦れ合う "さわさわ" した音が趣深く、また竹の香りがとても心地よい。今回は、中央に喫茶スペースがあり垣根で区切られた区画が8箇所用意してあります。垣根を越えたり、壊したりするとペナルティがあります。必ず、区画入り口から入るように。そして、次の階層主権利決定は、この竹の中に光る部分が存在する。その中には金塊があるので、それを探し出した方が次の階層主となる。また、モンスターはでません。では、竹林庭園をご堪能ください」


 冒険者たちは、各パーティごとに分かれて探索を始める。近くの垣根入り口を探す者や中央付近から光る竹が確認できるか、行動に移していた。


 第14階層は緩やかな風が吹くよう設計してあるので、竹林がよくそよぐ。周囲を見物しながら、巨人族のモクレンは[王室調査隊]と行動を共にしている。視点が高いこともあり、先に光る部分を見つけた。


「おーい、隣、光ってんぞ」


 モクレンは垣根の上から方向を指した。


 バシュッ!バシュッ!


 垣根から矢が真上に放たれた。とっさに腕を引っ込めるモクレン。


「なんだよこれ!」

「最初に言ってたルールか。垣根に関わるのは避けるべきだな。厳しい庭園管理だよ」


 垣根をぐるりと周って、入り口をようやく見つけた。

 その内部は竹の根が地表を走っており、少々歩きにくい。慎重に進むと、光る竹が見えてきた。


「やっと見つけた」


 隊員の一人が駆け足で光る竹に近寄った。


「イテッ、アァーッ!」


 隊員の右足首に紐でくくられ、宙吊りになった。ぶらんぶらんと逆さになり揺れている。


「おい、大丈夫か~?」

「骨は折れてません。出血もないようです~」


 調査隊員同士で確認し、他の罠がないか、棒で突いたり、石を投げて確認をする。安全だと分かったところでモクレンが腕を伸ばし、紐の元がある竹をゆっくりしならせ隊員を地面に下ろす。


「いや~、モクレンがいて助かった。他隊員だと、竹を切る必要があった。感謝する」

「お安い御用だよ」


 隊員が戻ったところで、エリスが竹に慎重に近付いて様子を見たり、コンコン叩いてみた。しかし、反応がない。切り倒すには大きな竹だったので剣を突き刺し、少しずつ竹を削った。ある程度穴が開き、そっと覗いてみると照明で使う魔法光石が置いてあった。


「魔法光石だ、ハズレ」


 エリスは、そう隊員たちに伝えた。念のため、同じ垣根範囲に光る部分はないか探し始めた。

 すぐ隣の垣根では、[ビッグトルク]が探索している。しかし、竹の光る部分が見当たらない。


「全く何なんだよ、この木でもない妙に硬いのは。縦に走ってる繊維質が厄介だ」


 伐採して探そうにも、非効率。普段の筋肉利用が出来ないので不機嫌になるゴンブト。

 少し離れた所で探索していた[ビッグトルク]メンバーが呼んでいる。


「ゴンブトさーん、埋まってる部分が光ってます~」

「よーし、全員集まって掘るぞ!」


 竹の根が歩きにくく、のそのそと集合したメンバーたち。


「半分以上埋まってんのか。掘るしかねぇか」


 近くにある石や剣の鞘で少し掘ってみる。カチッと音がした。


 ザザザザ!


 地面から手のように編み込まれた竹が左右出てきてメンバーたちをすっぽり包み込んだ。さらに追い打ちで上空から籠がさらに包み込んだ。二重の竹籠に覆われ、[ビッグトルク]は身動きが取れなくなった。


「籠なんか、持ち上げてしまえばいいだろ!」


 内側籠は、バネのようにしなり少し開くと勢いよく締まる。外側竹籠が重すぎて、隙間から剣で押すがちょっとズレるだけ。


「あら、見事なまでに罠に収まってますね」


 様子を見に来たノルチェンに嫌味を言われる。


「うるせぇ!とっとと出せよ!」

「自力で出てください、私が手を出すと失格ですよ。もしくは、誰かが金塊見つけたなら、罠を外します」

「なんだとぉ!籠の中で、みっちり詰まって狭いんだよ。おーい!」


 ノルチェンは小さく手を振り、他の垣根エリアを確認しに移動した。

 [陽だまり]と同じ垣根にルコットが入り込んだ。


「あれ、エルフの娘さんか?」

「奇遇ですね」

「うちらは構わないが、お宝は早い物勝ちだぞ」


 エルフが一緒ということで上機嫌になる爺様方。そして始まる武勇伝語り。


「いや~、昔な極東の国で、鬼退治した時があってな」

「・・・おい、カメロ、それ猪狩りだったろ?」

「ピレン、牙あるから似たようなもんだ」

「いやいや、寸法違うし、立ってないし」


 急に立ち止まって、カメロとピレンが話しだしたので、後ろから付いてきたゼピンがピレンとぶつかった。倒れまいと一歩踏み出したピレンは足に違和感を覚えた瞬間、足元がパカッと割れ、ピレンは前のめりに倒れかかる。


 旋風つむじかぜ


 とっさにルコットが魔法を唱え、ピレンを吹き飛ばした。カメロとゼピンは驚愕する。ピレンがそのまま前に倒れていたら落とし穴に落ちていた。その落とし穴は、鋭利な角度に切られた竹槍が待ち構えており、落ちたものを絶命させていただろう。


「これ野生動物狩る罠じゃ。ピレン狩られてたよ」

「カメロ、この手の罠、得意だったりしないのか?」

「いんや、オレ、真正面から戦うタイプ」

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