第19話 激高
ドタドタと走る集団。必死で逃げると、下り階段が見えてきた。
「おい、階段下りられるぞ。階段に逃げ込め~!」
どうにか階段に間に合った時、大爆発が起きた。階層の外壁まで崩れるほどの大破壊。[王室調査隊]が持つ大盾を使って、モクレンとレイラが爆風と炎の侵入を必死に防いだ。
ゆっくりと第12階層を覗いてみると、通路が跡形もなかった。しかし、ここで階層設計の基本ルールが働き出す。外壁がモニョモニョと動き出し、修復が始まった。階層主が設計完了と宣言した後の外壁等の破損はダンジョンの維持のため、自動修復される。ただし、パイプのような設置物は維持に関係ないため修復されない。
他冒険者たちといっしょに、タマもその光景を見ていた。
「なんで、パイプは修復されないんだよ!なんだよ、俺の儲けが・・・」
先に階段を下りながら、タマがぽそっと言った。
「もういい。奪ってやる、皆殺しだ」
先に暗闇に紛れたタマ。そして大声で叫ぶ。
「いいか、この第13階層は設計仕様書を見つけた者が次の階層主だ!とっとと下りてきやがれ!」
皆、タマの乱暴な言い方にムカつきながら、階層内に入った。
「なんだ、この暗さは。すぐ横にいるのに姿が見えない」
ズフィッチが、小さな火の玉を飛ばしてみた。
「これは、なんと」
火の玉の光源だけが吸収され、まっすぐ飛んだようだが何かに当たり、ボワッという音だけがした。
しばらく暗闇にいれば目が慣れてくるんじゃないかと思う者もいたが、全く目が慣れない。
「ぐわっ、腕を斬られた!」
軽装備の者から、次々に斬られていく。もちろん、位置がバレるのでタマは声を出さない。
そこへレイラが発言した。
「ちょろちょろと、動き回っているのが一人いる。お前がタマって奴か。盗賊の下っ端の方がもっとマシな攻撃するんじゃないか」
トコピがレイラに聞いた。
「あんた見えるのか?これ夜の闇と違うから、見えないぞ。気配しか読めない」
「んふふ、ワタシは目の質が違うからね」
レイラは、そこで確信した。ここは自分が動くしかない、周りの者は誰も見えてないようだから。
「はっ!危ない!」
レイラが叫んだ瞬間、イモウの首が斬られた。ふぅ~ふぅ~と呼吸がしづらくなっている。
イ゛ア゛ァァァァァァァァ!
ビリビリと響く重低音の奇声に、皆、体が硬直した。
レイラは、タマの元へ一直線に走って行き、腹部から胸元へ貫手を刺した。
ぐぶぅっ、う゛ぶぅぉ
レイラは突き刺したタマの体を、集団がいる方へ投げた。
「イテッ、なんだよ」
暗闇で分からないノルチェンは、足元にある物体を触った。角張った物があり、掴むと体が薄っすらと光った。そして、階層全体がパッと明るくなり、周囲の状況が分かるようになった。
「うわぁ、なんでここに!」
遺体となったタマがノルチェンの前に横たわっていた。
レイラは、イモウの元へ急いだ。見ると出血量が多く、意識が遠のいていた。
「イモウ!」
叫ぶレイラに、[サンピラー]ラドヤが近づく。
「イモウは、よく死にかけるな。ほれ、いくぞ!」
ラドヤは、ハイレベルの回復魔法を唱えた。出血は止まり、傷もふさがった。
「血は少し足りない状態だ。しばらく無理はさせない方がいい。しかし、レイラが守ってやるから、どうにかなるかな」
「助かった。感謝する」
レイラは礼を言うも、まだ興奮が抑えきれないようだった。
明るくなった第13階層は、第1階層より狭い空間で柱が4本あるだけ。タマが冒険者たちを襲うための場所の設計。
斬られた冒険者は傷の回復をしている。そこでノルチェンが言った。
「次の第14階層は、私ノルチェンが階層主になりました。しばらくお待ち下さい」
そう伝えると、ノルチェンは階段を下りていった。
いろんな急展開が続いたため、冒険者たちは冷静さを取り戻すよう心がけた。しかし、レイラはブチギレているまま。タマの死体を遠くにぶん投げていた。瘴気でも出しているのではないかというくらい、低い呼吸音。目も血走っている。
「なぁ、レイラ。ちょっと提案があるのだが」
トコピが話しかけた。周囲がびびっているので落ち着かせるため、ひとつ賭けにでた。
「なんだ?」
悪魔の目をしたレイラが振り向いた。
「イモウは血が足りないとラドヤの判断があったな。第14階層が出来るまで時間がかかるだろうし、イモウは普段の動きができない。そこで、第10階層のジャングルに行って、狩りをしないか?血液を作るには、肉が必要だ」
「そう・・・トコピが案内するのか?」
「もちろん。階層主だし、狩り場も実は作っていた。他にも行きたい奴がいれば、食料調達にもなる」
トコピは冒険者たちをチラリと見た。
「俺たちは手伝えるか?もっと強くなりたいから鍛錬兼ねてさ、狩りってのも経験しておきたい」
「アタシは荷運びを手伝おう」
[ビッグトルク]とモクレンが申し出た。
「では、参加者は準備しよう」
それから狩りに行く準備を各々始める。
レイラは起き上がれるようになったイモウに言った。
「あんたは安静にしてなさい。それと[サンピラー]の人たちにちゃんとお礼言っといて」
「はい、了解です」
狩り部隊を送り出し、イモウはお礼を伝える。
「何度も助けて頂いて、ありがとうございます」
「出来た嫁だな」
ラドヤが返事をすると、イモウは顔を真っ赤にしていた。
機動力のある狩り部隊は、あっという間に狩りを済ませ、二日後には戻ってきた。その量は第13階層で待機している他冒険者たちにも分け与えても余るくらいだった。
エリスはトコピに聞いた。
「ジャングルとはいえダンジョン内だ。動物を狩って数が減る。絶滅するのではないか?」
「その辺は設計時点で考えてある。数が減ったら繁殖し、一定数は超えない。食物連鎖も起きる。あと、第10階層で生まれたものは、他階層に行けないようにしている」
「設計仕様書は、生態系も設定可能なのか。それは驚いた。私利私欲だけと限らないわけだ」
それから二週間程過ぎ、ノルチェンがようやく作業完了を伝えてきた。
「ようやく出来ました」
ぞろぞろと第14階層に下りていく。
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