第18話 腹黒

 第12階層へ下りる許可がでないまま、数日階段周辺で待機している。負傷した者も魔力を消費した者も十分回復しているため、下手にセーフエリアまで戻って階層探索に出遅れてしまうと非常に厄介な話。仕方なく、武器防具の手入れ等、準備をして待っていた。

 それから、さらに1週間過ぎてルンドが階段を上がってきた。


「いやいや、時間かかっちゃった。どうぞ、第12階層へ」


 各パーティが荷物をまとめ、階段を下りる。


「いや~お待たせしましたね。第12階層へようこそ。ここでの階層主権利は、鍵を見つけること。どこかにあるので探してください、以上」


 [ルンド商店]は、通路の奥へ去っていった。

 第12階層、階段から見える景色は、天井にパイプが設置してあり、ずいぶん奥まで繋がっている。通路は2本しか確認できず、長そうだ。仕方ないので、冒険者たちは二手に分かれ進むことにした。

 目的の鍵は、どこにあるのか?隠されているのか、モンスターを倒すことで出現するのか。冒険者たちは、パイプの上や小さな扉を開け、箱内を確認する。その箱内部にはメーターがあり、小刻みに動いている。どうやらパイプ内の圧力を確認しているようだ。

 別の冒険者はモンスターと遭遇する。しかし、よくいるネズミやスライムで、剣が振れない広さなので突きで戦った。しかし、鍵は出現しない。


 パーティが3人になり、より機動力が増した[タマハガネ]は、他冒険者が密集しているのを避けどんどん通路の先を目指した。


「どこまで掘り進んだ?長すぎだろ」


 タマは、文句を言いながら突き進む。やがて、階段が見え、その横にドアがあり、こう書いてあった。


「ルンド商店出張所 ※関係者以外 立入禁止※」


 タマはドアを『コンコン』と叩いた。

 少し間があり、ゆっくりとドアが開いた。


「誰かと思ったよ。タマさんか、入って。」


 [タマハガネ]全員が出張所内に入る。まず、タマが質問した。


「ルンドさんよ~、この縦長の通路はなんだよ?すげぇ歩いたぞ」

「この設計仕様書の資源採掘という項目に沿ってガス溜まりを探してたら、あっさり見つかったんだよ天然ガス。でも、これまでの階層が邪魔して地上に供給するパイプをまっすぐ最短で通そうとしたら、こんな縦長通路がどうしても必要でさぁ」

「あ~、上の階層って無駄に広いのが何箇所もあるな。欲深さが現れてるよ」


 二人が話しているうちに、[タマハガネ]の二人が[ルンド商店]従業員に近付いていた。


「さて、ルンド。あんたが階層権利の鍵を持ってるだろ?どういう手段で隠したって言わなかったからさぁ」

「いやいや、冒険者は探索するのが好きなんだろ。探しなよ~」


 タマは目配せした。[タマハガネ]の二人が従業員二人の首を斬り、周囲に血が飛び散った。残った従業員はルンドを守るために移動し、身構えている。


「仕留めたのは二人か。ま、こんなもんか。さて、ルンドさ~ん、ルンドさ~ん、どうする~?こっちが人多いぜ」

「・・・分かった、鍵はちゃんと隠してあるんだ。この部屋じゃない、ついて来い」


 ルンドは従業員と先に出張所を出て、隣りにある圧力調整室に入った。そして、[タマハガネ]の一人が従業員の首に刃物を当て、逃げ出さないようにしている。


「ほら、あの上にぶら下がってるだろ。取れよ」

「何言ってんだ。ルンド、お前が取れよ。」

「くそっ」


 壁に立てかけてあったハシゴを使い、パイプの調整バルブに引っ掛けてある鍵を取った。次の瞬間、ルンドは左腕に仕込んでいたクロスボウを従業員の横にいる[タマハガネ]の一人に撃った!

 見事に左目を撃ち抜き倒れた。タマはハシゴを蹴り飛ばし、ルンドは床に打ち付けられる。


「やってくれたな!」


 タマはルンドを狙う。残っている[タマハガネ]の一人は、従業員の胸を貫いた。


「なんでここまでするんだよ!地上での天然ガス販売契約で両方が儲けられる話じゃないか!」

「・・・全部欲しいんだよ。販売契約だけじゃなく、所有権もな」


 ルンドは、倒れたままクロスボウを撃った。しかし、狙いはタマではなく[タマハガネ]の一人だった。クロスボウの矢は頭部を貫通し、その場にしゃがみ込むように倒れた。


「なんだ、俺ならいつでも殺せると思ったのか?」

「こんな間近でも、アンタは避けそうだからな。ウチの従業員を殺しやがって」

「うるせぇな、商売人は!」


 タマはルンドを何回も突き刺し、絶命させた。そして、鍵と設計仕様書を奪い取った。薄っすらと体が光った。


「ぁ~、駒を使い果たしたな。しかし、目的は果たした。次の階層で、このダンジョンから抜け出せば天然ガス事業に取りかかればいい。全部俺のものだ」


 タマは圧力調整室を出て、近くにある第13階層への下り階段に向かっていた。すでに階層構造案はある。階層内を暗闇にして、たいまつや照明魔法も無効化し、階層を支える柱が数本。そして設計仕様書を適当にぶん投げる。最初に設計仕様書を見つけた者が階層主となり、階層内に照明がつく。ただし、階層主だけ暗闇効果は無効で、明るく見える。そして、タマは階層を上がり、ダンジョンから抜け出す。


 さっそく、階層を作るため第13階層へ下りていった。


「逃げろ~、引火するぞ~」


 冒険者たちは、お互いぶつかりながら必死に下り階段を目指していた。何があったのか。巨人族には狭い通路での移動でモクレンが頭をたくさんぶつけていた。そこに出てきたモンスターの床を這う黒い虫がぞわぞわっと現れた。虫が苦手なモクレンは、大暴れ。


「落ち着け!踏みつければやっつけられるぞ!」

「それすらイヤなんだよ!」


 エリスが落ち着かせようとするが、這う黒い虫の動きがモクレンをさらに追い詰める。


「イヤだー!」


 モクレンは、[王室調査隊]が持っていた鈍器を奪い取り、虫を叩き潰していく。大きく振りかぶるため周辺のパイプにガンガンぶつかってしまう。


 ぷしゅー


「これ、ガスなんじゃないのか?」

「・・・・・・逃げるぞ。皆、走れ~!」

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