第17話 それぞれの気持ち

 [サンピラー]ズフィッチが、まだ動いているオーガに対してさらに魔法を唱える。


 業火!


 オーガの周辺に小さな火柱がポッ、ポッと取り囲むと一つの火柱となってオーガを包み込んだ。苦しみ悶え通路の壁に体をドガッドガッと打ち付ける。それを見ているレイラが悲しい表情をしている。


「ひと思いに仕留められないかな。モンスターだって苦しいんだ」


 そう言うレイラに対して、[陽だまり]カメロが言った。


「あれだけ大きなモンスターを仕留めるのは、そう簡単にいかない。あのオーガは、我々に対してもちろん抵抗してくる。いくらお前さんが強くても、さっきのゾンビみたいに肉体をえぐれないだろ?首の骨を折るのも容易くない」


 この話に、タマが割り込んできた。


「オレの仲間が殺されてるんだ!3人も!一瞬の苦しみで終わらせられるか!」


 レイラに突き進むタマ。イモウがそれを阻止するが、タマがイモウを殴りつけた。それを見たレイラはタマの胸ぐらを掴み、目線が合う高さまで持ち上げる。そして悪魔の目になり、こう言った。


「矮小なお前らなど知らぬ」


 タマは、悪魔の目を見て背筋が凍りつき、目の前でしゃべっているのに、後ろから話しかけられているような感覚で、ぞわぞわと身震いが止まらなかった。数々の犯罪行為や修羅場をくぐってきたタマであるが、別次元の恐怖を味わった。小刻みに震えながら、タマは言った。


「・・・恥かかせたな。許さんぞ」


 レイラが指先をコキコキ鳴らしだし、一触即発の状態になってしまった。

 そこへ[陽だまり]ピレンが、タマに近づく。


「お前さん、タマとか言ったな。ザインのファミリーにいたことあるか?」

「それが今、何の関係があるんだ!」

「ワシの顔見て思い出さんか、写真が飾ってあったはずだが?」

「・・・はっ!ザイン兄貴の先代!」

「ザインは何を教育しているのか・・・。引け!バカモノ。状況を読み取れ!」


 ピレンに一喝され、タマは離れていった。

 その間に、オーガは息絶えた。[サンピラー]モレニが炎が広がりすぎて酸欠になることを防ぐため魔法により真空状態を局所的に起こし、オーガも同時に窒息させた。


「さて、負傷したものはいるか?」


 [サンピラー]ラドヤが確認し、また通路を歩き出した。[タマハガネ]メンバーの遺体が横たわっているがまず、階段を目指すとして、突き進んだ。

 第12階層への下り階段には、左ルート選択集団がすでに来ていた。


「もう次の階層主は決まったようです」


 リステアが伝えた。大きなモンスター相手と広すぎる通路に疲労も限界を超えていた。

 そこへ、タマが皆に話しかけた。


「申し訳ない、ウチのパーティメンバーが3名やられた。蘇生するため第8階層セーフエリアまで運びたいため協力して頂けないだろうか?もちろん、対価は支払う」


 静まる冒険者たち。


「休息して出発していいなら、第10階層の安全な獣道を案内しよう」


 トコピが発言した。その後、発言が続いた。


「俺たちに原因はある。遺体を運ぼう」

「調査隊は救助隊も兼ねている。手伝おう」


 ゴンブトとエリスも同様に協力を申し出た。他の冒険者たちは補給物資を頼み、全員が動くことを避けた。

 一日ほど休息を取り、第8階層を目指す集団が出発した。


 [陽だまり]モスモスが、見慣れぬ姿に質問した。


「そこの巨人族の方かな?強そうだな」

「アタシは、モクレン。訳あって途中参加だ」

「そっちにいるレイラも途中参加だったか。背が高いと、姿をなかなか隠せないな」


 イモウがモクレンを見る。そして見つめる。


「あんた、長身好みだねぇ~」

「イタッ、違うって。レイラとモクレンはどちらが身長高いんだろうと思っただけで」


 レイラはイモウの耳を引っ張っている。ほのぼのとしたやりとりに、モクレンが初めて笑った。

 そして、モクレンがレイラに話しかけた。


「アタシは巨人族でも小さい方だが、そちらより少し高いかも」

「そうなの?ワタシは縮んじゃってさ、こんな感じだよ」


 真実を知らない冒険者は『縮んだの?』と疑問に思った。


 セーフエリアを目指している一行は、交代で遺体を運びどうにか第8階層に戻った。

 まず蘇生所に運び入れ、担当パペットによる蘇生の儀式が行われ、時間はかかったものの無事3人が蘇った。タマは、手伝ってくれた面々に丁寧にお礼を言い、高額謝礼を支払った。

 その後、蘇生した3人を宿屋に連れて行く。


「あの、タマさん。俺ら何の役に立てず足手まといになってしまったので、地上に戻り、タマハガネの事務所で皆さんが戻ってくるのを待ちたいと思います」

「・・・そうか。蘇生直後だから、体力・精神面で厳しいのは分かっているが。それに、大型モンスター相手は全くやってこなかったからな。冒険者の連中は、もっと奇妙なモンスターを配置しだすだろう」


 そういうと、タマは宿屋から出た。食事の出来る店に入り、一番奥の目立たない席に座った。


「ま、アイツらは所詮モンスターの足止め用に連れてきたからな。蘇生もする必要ないと思っていたんだがバツの悪い状況だったし、大金も出ていった。・・・その分回収しないとな。ぁ~、武器もいるな」


 怒りと憎しみの形相になり、食後、武器屋に入っていった。

 しっかり休息を取り準備を整えたセーフエリア組は、またトコピの案内で第11階層へ下りていった。


 それから日数が過ぎ、探索予定の冒険者たちが第11階層から下りる階段付近に再び集まった。頼まれていた物資を手渡す等やり取りがあり、それぞれが第12階層へ向かう準備を整える。さらに数日過ぎたが、まだ下りる許可がでない。

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