第16話 思惑
第10階層から第11階層へ下りる階段近くにある鉄格子。そこからまっすぐ中央の通路を選んだ一行もまた長い通路を進んでいる。
「おーい、設計した[ビッグトルク]の皆さんよ~、こんな幅広く作ってどうすんだ?囲まれたらモンスター優位の大きさじゃねぇか」
[タマハガネ]連中からヤジが飛ぶ。
「あのな~、ダンジョンに潜る目的は強い奴と戦う。戦闘が目的だ。冒険をするんだろ?強くて、よりデカイ奴とやらなくてどうするんだ!」
「はいはい、強さこそ正義ですもんね~」
[ビッグトルク]が先頭を進み、少し遅れて[タマハガネ]、[ルンド商店]、ノルチェンが続いている。
[タマハガネ]リーダーであるタマが、[ルンド商店]の代表ルンドに話しかけた。
「いい商材見つかりそうか?」
「まだそれらしいものはないな。ツアー組んでサキュバス街を相当数連れてくれば、ドレイン受けても喜ぶヤツが多いかもな。俺はイヤだがな」
「まぁ、まだ第11階層だ。チャンスはある」
通路の半分くらい進んだところで、遠くに薄っすら物体が確認できる。離れているのに、とても大きな姿だ。
「はっはー、設計通りに待機してくれてるじゃねぇか!さぁ強いやつと戦うぞ!」
[ビッグトルク]ゴンブトは、一人興奮して叫んだ。
遠くにいた物体が、徐々に歩み寄ってくる。ようやく見えた姿に[タマハガネ]タマは、つぶやいた。
「こんなモンスターを作ったのか・・・」
そのモンスターは、オーガだった。体長は5mほどあり、赤い肌。とにかくゴツい体格。ゴンブトが理想とする肉体を具現化したかのよう。
「いくぞ、ついてこい!」
ゴンブトは先陣を切ってオーガに突っ込んでいき、[ビッグトルク]他4人が雄叫びをあげ、各々の武器を振りかぶる。少し離れた場所から、トレジャーハンターのノルチェンがボウガンによる援護射撃をしていた。
[タマハガネ]と[ルンド商店]総勢10人ほどは、離れた位置から様子を見ている。
「俺らは、あんなのとは戦わねぇよ。頭使えよ」
「私共商人も多少の戦闘はしますがね、無理なことは避けたいんですぅ」
「だよな。おい、若手!そこら辺の石でもデカブツに投げとけ!」
「あ、そうそうタマさん。思い出したことがあってですね、この周辺土地って天然資源があるって噂で」
「へぇ~、そうか。じゃぁよ、後ろに回り込んだフリして先に階段に行けよ。必ずモンスター倒すことをゴンブトは階層主権利条件にしなかったからさ、奪い取ってしまえ」
「なるほど。では、[ルンド商店]の意地を見せましょうか。んふふふ、儲けますよ~」
オーガの戦い方は、とても機敏だった。巧みなフットワークがあり、大きく振る蹴り技はないが間合いが近い場合、膝蹴りが有効打となる。また、経験からか背後の警戒が鋭く、挟み撃ちが難しい。
ゴンブトはメンバ-にハンドサインを送り、ゴンブトが正面、他メンバーが後ろからアキレス腱や膝裏を狙い体勢を崩す作戦に出た。
しかし、オーガはゴンブトに狙いすまして飛び膝蹴り!ゴンブトはまともに喰らい、壁まで吹き飛ばされた。激しく体を打ちつけたゴンブトは大量に吐血し気を失った。オーガは着地と同時に後ろにいた[ビッグトルク]メンバーに対し、薙ぎ払うように腕を振り弾き飛ばされた。
「何やってんだよ。太刀打ちできねぇじゃん」
その光景を見て、タマは呆然とした。[タマハガネ]はモンスター相手より、対冒険者に悪巧みをする面々なのでどうしたものかと考えていた。また、その視線の先には命からがら走り抜けた[ルンド商店]たちがいた。
「ひ~、怖ぇ。階段まで死ぬ気で走れ!ヤツはすぐに追いつくぞ!」
ドタドタと第12階層に下りる階段まで走った。途中転びながらも、ルンドはどうか階段に触れた。条件を満たしたことにより、ゴンブトが持っている設計仕様書がフワッと浮かび上がり一直線に飛んでいきルンドの胸元にドンッとぶつかった。ルンドが設計仕様書を拾い上げると、薄っすらと体が光った。 そして、ルンドとその仲間は第12階層に降りていった。
次の階層主が決まったが、オーガとの戦闘は終わらない。オーガは[タマハガネ]とノルチェンを標的とした。タマは、あまり使いたくなかった隠し玉である火炎瓶をオーガの顔めがけて投げつけた。
その隙にノルチェンは、回復薬をかろうじて息のあるゴンブトに飲ませた。どうにか一命を取りとめたゴンブトは言った。
「すまない、この回復薬を仲間に飲ませてやってくれないか」
「オーガが気付かないうちにやってみるよ」
ノルチェンは足音をたてぬよう静かに動いて、倒れている[ビッグトルク]メンバーの回復に尽力した。
一方、顔を少し火傷したオーガは激昂し、[タマハガネ]に襲いかかっていた。素早く間合いに入ったオーガは3人体勢で応戦しようとした若手メンバーを殴りつけ、体の原形がないほどに潰されてしまった。それを間近に見た他のメンバーは体が硬直して動けない。オーガは、また強烈な膝蹴りを繰り出し、さらに2人のとどめを刺した。
タマはいち早く逃げ出した。性根が腐っているが、そもそも、あのオーガに1人で挑むのはタマには無理な話。これに気付いたオーガは、ゆっくりと向かってくる。
「お~い、伏せろ~」
かすかに聞こえた声に、タマは滑り込んで体を伏せた。
ゴォォォォォ!
離れた場所から、大きな火の塊が飛んできてオーガを弾き飛ばしオーガの頭部が燃えている。タマは、火が飛んできた方向を見ると、冒険者の集団が近付いていた。第11階層右ルートを選んでいた集団が中央ルートに進路を変え、進んでいたところオーガとの戦闘中にでくわした。
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