第15話 左ルート探索

 左ルートを選択した一行もまた、長い通路を歩き続けていた。ここにもまた見慣れぬ姿があったのでリステアが話しかけていた。


「失礼ですが、あなたは初めから探索に参加していたの?」


 フードを被り、ローブで全身を隠すようにしている姿の存在。


「私はルコット。階層主になるというのがよく分からなくて、今の所は静かになってから階層を順番に下りてきた。第2階層でいろんな甘い物を食べ続けてきたのも遅れた原因。持ち歩けそうな物を探してて、大きな飴とか持ってきた。欲しい?」

「それ、欲しい!」


 食いついてきたのは、意外に[王室調査隊]エリスだった。疲労には糖分ということらしい。

 ルコットは飴を器用に砕き、皆に分け与えた。


「ん、あら、あなたエルフなの?」


 エリスがフードから少し見えた顔輪郭を見て言った。


「えぇ、そうよ。腕力に自信ないから、あまり戦闘に加担できるとは思わないで」

「我々、[王室調査隊]の精鋭がいるから大丈夫よ」


 通路を進んでいると外壁まで到達し、右に曲がるしか進む道がないようだ。そのまま曲がり進み続ける。

 一同のカツカツと歩く音とは別に、タッタッと走ってくる足音が響き近づいてくる。集団の先頭にいた[王室調査隊]が身構えた。


 ドガッ!


 正面から何者かの激しい突進で、集団が二つに割れた。


「この侵略者め!どこから来た!」


 大声で叫ぶ大きな姿。会話が出来るようだ。しかし、冒険者たちは先程の衝撃で吹き飛ばされ、状況が把握できない。

 また突進してくる!どうにか立ち上がった[王室調査隊]の兵士が大盾を持って防ごうとするが蹴り飛ばされた。

 トコピが倒れた振りをしながら、近くに横たわっているリステアとエリスに状況を伝えた。


「おそらく巨人族の女。戦闘用の装備をしている。背丈はレイラよりもっと高いが3mまではなさそうだ。あと訳分からんこと言ってる、俺たちを侵略者だとか。ここは作られた階層だ」

「よし、私が交渉してみよう」


 エリスがゆっくり立ち上がり、暴れている巨人族の女に近づいていった。


「そこの巨人族!こちらの話を聞け!」


 リステアとトコピは頭を抱えた。『そんな交渉の始め方があるか』と。

 巨人族の女は、素早く移動しエリスの首を掴んで高々と持ち上げた。


「お前ら同じ色の身なりしてるが、ここの転がっている連中の仲間か?」

「私が・・・リーダーだ・・・」

「何の話がしたい?どこの骨を折られたいか順番があるのか?」

「違う、そもそも侵略者じゃない。ダンジョン内で侵略って何言ってんの?」

「お前ら、ラギンの一派だろ!巨人族の街が襲われ、大変な被害を被っている。だから、魔法使いを雇って居場所を探り、ダンジョン入り口に魔法陣で転送してもらったんだ」

「我々は、ラギンを調査するため、ここに来ている」


 エリスは、首が締まって意識が遠のき始めた。それを見ていたルコットが巨人族の女に近づき、被っているフードを下ろした。


「巨人族の方、私はエルフの民。周りを見てほしい。こんなバラバラな種族が集まって、侵略などという統一した目的がなし得ると思いますか?しかも、巨人族の攻撃にやられている。おかしいと思いませんか?」

「うむ、確かに」


 巨人族の女は、ゆっくりとエリスを床に下ろした。


「ゴホゴホッ、だから言ったじゃないか」


 エリスは言った。

 それに対してルコットが返答した。


「エリスは交渉ではなく命令をした。とても失礼な言い方」


 エリスは、うつむいた。

 ルコットは、巨人族の女に話しかける。


「あなた、第2階層の甘い物は食べてみたの?」

「いや、毒が入っている可能性があるので、手を付けなかった」

「私たちはね、ダンジョンを自分が望むように作る階層主を競っているの。第2階層は他の冒険者が作ったもの。これを食べてみない?」


 ルコットは、かばんからグミを取り出し、巨人族の女に差し出した。

 巨人族の女は警戒しながらグミを受け取り、匂いを嗅いでからグミをかじった。口の中にイチゴの香りが広がりほどよい甘さと心地よい弾力の噛みごたえが、殺伐とした雰囲気を変えた。


「ぁ~、コレたまらない」


 思わず、本音が出る。

 そこで、ルコットが聞いた。


「私はルコットというの。あなたは?」

「アタシは、モクレン」


 エリスが声をかけた。


「私はエリスという。我々、[王室調査隊]の目的は、他ダンジョンでの行方不明者が多く出た件について調査しておりラギンが何か知っている可能性があるのではと、このダンジョンに来ている。モクレンとは間接的に目的が一致している」

「そうなのか。しかし、アタシに蹴散らされるようでは、隊は強固とは言えないな」

「それなら、同行してラギンを問いただしてみては?階層主決定が続く限り、どこかでラギンに出会うはず。ダンジョンがある山の持ち主はラギンだからな」

「・・・確かに目的はラギンをどうにかするというのは共通意見だ。よし、同行しよう」


 回復が済んだ[王室調査隊]は、ケガさせられた相手と同行するということに不服ではあるものの王室の指示と似通った目標のため、エリスに従いモクレンに歩み寄った。

 装備等確認した後、一行は通路を進み始めた。途中、脇道がなく曲がり角が見えてきた。そこには、何か物体がある。慎重に近づくと、巨体が横たわっていた。

 モクレンが言う。


「アタシがさ、この階層に来て出くわしたんだ。自分より大きな相手だけど棍棒振り回すのが遅くてさ棍棒奪ってから、その棍棒でぶん殴ってやった。仕留めたのは確認してるよ」


 [王室調査隊]は、力の差に背筋がゾッとした。

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