第14話 三方向の通路
第11階層への階段付近でキャンプをする冒険者たち。食料や水には困らなかった。湧き水はあるし狩りをして、腹を満たした。次の階層作成に何日くらいかかるのだろう?と話をしていた所に階段を上ってきた[ビッグトルク]の面々。
「はっはぁ~、出来たぞ。腕に自信がある者から下りてこい」
そういうと、[ビッグトルク]の面々は下りていった。
偉そうにいいやがって、そう口々に言いつつキャンプを片付けて、準備を整えた。
階層主権利に挑む冒険者たちは、第11階層で待ち構えていた[ビッグトルク]と対峙する。
「諸君、第11階層にようこそ。見ての通り階段周辺には、頑丈な鉄格子がある。これを越えると即戦闘が始まることもあるだろう。それだけ危ないってことだ。しかし、冒険者らしい階層とも言える」
「もったいぶらずに、権利条件を言えよ」
「誰が言ったか知らんが気が早いな。第12階層へ続く階段を守るモノがいる。それを倒すなり、どうにかして一番最初に下り階段に到達した者が次の階層主だ!」
ゆっくりと鉄格子の門が開かれた、慎重に歩みだす冒険者たち。
この階層は、縦横の幅が他階層よりも広い。冒険者たちがとても小さくなった気分になる。鉄格子の門からすぐに三方向に分かれているので、パーティごとに相談しそれぞれ進んでいった。
その三方向に分かれた現在探索に残っている冒険者たちは以下の通り。
・右ルート選択:[陽だまり]、[サンピラー]、イモウ、レイラ、パラジ
・中央ルート選択:[ビッグトルク]、[タマハガネ]、[ルンド商店]、ノルチェン
・左ルート選択:[王室調査隊]、リステア、トコピ、ルコット
右ルートを選択した一行は挨拶を交わし、後方にも注意する陣形で進むことにした。通路の幅が他階層よりかなり広いため、ひたすら歩かされる感がある。
「この通路の長さはジジィにキツイなぁ」
ボヤき出す[陽だまり]の面々。ふと後ろを見ると、これまで見たことない姿があったので[陽だまり]ゼピンが話しかけた。
「後ろのべっぴんさんは見かけんかったが、誰じゃ?」
一斉に後ろを振り向く。右ルート集団には、女性が一人だけだったので以前と同じように答えた。
「ワタシはレイラ。横にいるイモウを追いかけて途中参加している」
『にこっ』と微笑むレイラに、ジジィたちはあっさり魅了された。
また、続けてゼピンは質問した。
「そこの小柄さんも見た事ないかも~」
「オレは、パラジという。元々パーティで参加していたが、第8階層セーフエリアで他の連中が離脱した。ノームだから、目立ちにくいかもな」
「おお、そうなのか。ワシらは、男には興味ないから気付かぬだけだ。いひひひ」
さらに通路を進む。たくさんの分かれ道があるわけでもなく、ひたすら長い。何のためにここまで長く幅の広い通路を作成させたのか?
「なんか変な臭いしないか?腐ってるような・・・」
クチャッ、ベチャッ
妙な音が近づいてくる。冒険者たちは、戦闘態勢に入った。ようやく見えた曲がり角から異臭を放つ緑色の大きな存在が姿を表した。
「ブレスに気をつけろ!」
[陽だまり]リーダー:カメロが叫んだ。
ブワァァァァァ
冒険者たちに向かって、緑がかった灰色の煙が吐き散らかされた。慌てて顔を塞ぐが半数の者が呼吸や粘膜から煙を体内に入り込んでしまった。嘔吐、吐血、痙攣さまざまな症状が現れた。
カメロが言う。
「あれは、ゾンビジャイアントだ。普段はもっと大きいが、この階層の大きさに合わせた体長にされてる。猛毒ブレスによる回復を急いだ方がいい!」
[サンピラー]総出で状態異常の回復に取り掛かる、他のパーティだからという区別はせずに。いくらこの階層に合わせた大きさとはいえ、4~5m以上はある大きさ。もう一度猛毒ブレスを受ければ全滅だろう。また、圧倒的に戦闘力不足。
「イモウ!しっかりしろ!」
猛毒ブレスをまともに受けてしまったイモウは瀕死状態で呼吸もままならない。レイラが必死に意識を取り戻させようと声をかけるが、反応が段々弱くなってくる。
「よし、最優先だ」
[サンピラー]ラドヤが解毒~回復魔法の重ねがけを始めた。ひたひたと迫るゾンビジャイアント。レイラは周囲を見ると攻撃出来そうな冒険者がおらず、自分自身の体だけが猛毒の影響を受けていないことに気付く。
「なるほど、毒耐性か」
レイラはデビリッシュとなった時にいくつかの特性が備わり、より強靭な肉体を得ていた。すっと立ち上がったレイラは、ゾンビジャイアントの攻撃がイモウ周辺に向かないよう走り出した。それに気付いたゾンビジャイアントはレイラの方を追いかけだした。
先に曲がり角を到着したレイラは、器用に壁を蹴って駆け上がり、ゾンビジャイアントの左首元から右脇腹に向かって剣を突き刺した。暴れるゾンビジャイアントの動きを利用し、レイラはゾンビジャイアントの胸元を土台に踏ん張って腐った体を剣で掘り起こした。
砕け崩れるゾンビジャイアントの上半身。しかし、頭部と残っている左肩周辺を使ってもぞもぞと動いている。その顔が向いている方向は、回復途中の集団だ。
「まだやる気か!」
レイラは助走をつけ、ゾンビジャイアントの顔正面を激しく蹴り飛ばした。豪快に飛んだゾンビジャイアントの頭部周辺は、階層外壁に打ち付けられ原形を留めず砕け散った。レイラは、残ったゾンビジャイアントの体が動き出さないか確認した後、炎の魔法で残骸を燃やした。
状況次第では、初めから魔法を使うこともあっただろうが、瀕死のイモウを見て、直接攻撃で勝負をしたレイラ。『もっと良い戦い方あったのでは?この体に慣れていないからか?』と自問自答しながら、イモウの様子を見に駆け寄った。
「お前さん、豪快な戦い方だったな。あの大きさのモンスターにも容赦ない。すごいな」
ラドヤがレイラに話しかけた。
「イモウはどうなった!」
「そこで、イビキかいて寝とるよ。重ね掛けと薬も飲まされて強く効いてるせいだな」
イモウの横に座るレイラ。周囲を見ると、死人は出なかったようだ。
広い通路の端に寄って回復に努めているがこの状況で大型モンスターに再度襲われたら、全滅は覚悟せねばならない。
他パーティの状況は・・・。
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